第14話 死神部隊来襲

 網走での、講演、面談、等を精力的に熟した華子は、女満別空港を経由して、次の講演地、稚内へと向かった。

 稚内空港から、レンタカー二台で移動中の真昼間に、事件は起こった。

 それは、大蛇率いる“死神部隊”数十名による奇襲だった。


 彼らは大型ドローンを身体に装着して、空から、自動小銃の弾を雨と降らせて襲って来た。

 前を行く鈴麗と令子の乗った車は、猛スピードで物陰に隠れたが、華子達の車は行く手を遮られ、止む無く車を捨てて一軒の古い倉庫の中に逃げ込んだ。放置した車は、見る間に蜂の巣となって大破してしまった。


 京吾達は倉庫の中から衝撃波銃で彼らを迎え撃とうとしたが、衝撃波銃の威力は近距離でしか効かず、ドローンで飛び交う彼らを打ち落とすことは出来なかった。

 自動小銃の発射音がひっきりなしに辺りに響き、倉庫の窓という窓は撃ち破られ、やがて、無数の弾丸は倉庫の壁までも破壊し始めた。京吾達は動くに動けず、身体を伏せて攻撃が止むのを待つしかなかった。


 暫くして、銃声が止んだ。京吾が壁の隙間から外を確認すると、彼らの一隊はロケットランチャーを構えて、今当に撃とうとしているところだった。

「皆、伏せろ!!」

 京吾は、叫ぶなり華子に覆いかぶさった。

 次の瞬間、華子達の隠れている倉庫に数発のロケット弾が撃ち込まれると、倉庫は凄まじい爆炎と共に砕け散った。



 瓦礫の山と化した倉庫跡に、死神の一隊が空から下りて来て、京吾達の死体を探し始めた。

「この様子では、虫けら一匹生きていませんぜ。時間の無駄では?」

「念のためだ。文句を言わずに捜せ!」

 仮面をかぶった死神達が話していたその時だった。

 瓦礫の中から京吾達が躍り出たかと思うと、死神たちに衝撃波銃を浴びせたのだ。不意を食らった十数人の死神達は、銃を撃つ間もなく倒されてしまった。


 あれだけの爆発にもかかわらず、京吾達に怪我が無かったのは、信濃博士の作った防護服のお陰だった。爆発の寸前、エアバッグのように膨らみ、身体を包み込む機能が付いていたのだ。 

 華子も、京吾達と同じ防護服を着てヘルメットを着用していた。京吾が狙撃防止にと着せておいたのが幸いしたのである。

「華子様、お怪我はありませんか?」

 松本隊長が華子を気遣う。

「大丈夫です」

 キリリと答える華子に、アメリカで襲われた時のような恐れ戦く様子は微塵も無かった。


 ホッとしたのも束の間、上空で待機していた死神達が次々と下りて来て、再び自動小銃を撃ちながら突進して来た。京吾達は瓦礫の山をバリケードにして懸命に応戦し、華子も銃を取って戦った。

 半時間ほども激しい撃ち合いが続いたが、衝撃波銃の威力のお陰で、京吾達は死神軍団を撃退する事に成功した。

 

 華子達五人が、崩れ落ちた倉庫の敷地から出てくると、そこには、不敵な笑みを浮かべた大蛇が待ち受けていた。

「今日こそ華子の命を貰う。覚悟しろ!」

 叫ぶが早いか、大蛇は華子目掛けて突進した。京吾が華子を庇って前に出る。


「私が相手よ!」


 大蛇の行く手を阻んだのは、何処からともなく現れた鈴麗だった。

「何だお前は? 子供は引っ込んで居ろ!」

 大蛇が言い終わらない内に、目にも止まらぬ鈴麗の蹴りが彼を襲う。大蛇は辛うじてその蹴りをかわして、数歩下がった。

「貴様何者だ!」

「李鈴麗。陳陽禅は私のお爺様よ」

「あのチビ助か? この戦いにお前は関係ない。引っ込んでいろ!」

「そうはいかないわ。京吾兄さんの仇を打つ!」

「後で悔やんでも知らんぞ!」

 大蛇が、拳を握って斜に構える。 

「大蛇、覚悟!」

 静から動、動から静へと、鈴麗の舞うような華麗な技が大蛇を追い詰めていく。その攻撃をかわしながら、大蛇も拳や蹴りで応戦するが、鈴麗の動きの方が勝っていた。

 押され気味の大蛇は、後方に大きく飛び退いて体勢を立て直すと、両の手を前方に翳した。その手が赤く輝きだして、鈴麗が次の攻撃へ踏み込もうとした瞬間、彼の両手から一気に炎が噴き出した。大蛇の奥義“業火掌”である。

「鈴麗、その炎に気をつけろ!」

 京吾が叫ぶと鈴麗は頷いたが、彼女は大蛇の燃え盛る拳をかわすのが精いっぱいで、防戦一方となってしまった。


 京吾や華子が、不安そうに戦いの行方を見守っていると、鈴麗は大蛇との間合いを大きく取って一呼吸した。

 鈴麗が、両手を胸の前で合わせて気を込めると、彼女の手が、青色に光り出したのである。

「おお!」

 戦いを見つめていた京吾が目を見張る。


 攻撃に転じた鈴麗の青く光る手が大蛇の身体に触れた途端、その部分が真っ白に凍ってしまったのだ。

「何!?」

「太極拳奥義、極冷掌(ごくれいしょう)!」 

 鈴麗の手から発する青い光は、一瞬で相手を凍らせる冷気だった。大蛇と鈴麗の炎と冷気の掌が触れ合うと、凄まじい水蒸気が噴出した。鈴麗は、その水蒸気爆発を巧みに気でコントロールして、大蛇に向かって浴びせかけた。

 これには流石の大蛇も太刀打ちできず、鈴麗を一睨みして立ち去っていった。


「鈴麗、すごいじゃないか。あの技は何なんだ?」

 鈴麗の実力を目の当たりにして、京吾は興奮していた。

「あれが太極拳奥義の“極冷掌”よ。大蛇の“業火掌”と同じ、気を極限まで高めて高温を出したり低温を出したりするだけの話なの。簡単にはいかないけどね」

「そうなのか、分かるような気がする。しかし、その若さでよく習得できたものだ。脱帽だ」

 京吾が鈴麗に頭を下げると、

「私、武術の天才なの。きっとお爺様の血を継いだのね」

 鈴麗は自慢げに言って、ニッコと微笑んだ。



 襲撃を受けた地域は田舎ではあったが、遠くに民家もちらほら見えている。京吾達が戦っている間、あれだけの銃声や爆発音がしたにもかかわらず、通行人も、ただの一台の車も見る事が無かった事に、京吾は違和感を覚えた。

 だが、それが、日虎による工作だったと思い至るまで時間はかからなかった。日虎の権力が、警察や住民までも動かしていた事に、京吾は驚きを隠せなかった。

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