第13話 頼もしき味方
年が明けて直ぐに、政府与党は、テロ等準備罪に変更を加えた法案を提出すると発表した。その内容は、対象犯罪の拡大と、立ち入り捜査などの手続きを更に簡素化するというもので、権力者側に都合よく作られていた。
その日の午後、松下隊長と令子が、年始の挨拶にやって来た。彼らは昨年末に入籍して、晴れて夫婦となっていた。
「華子様、日虎が出そうとする法案は、拡大解釈すれば、どんな組織でも潰すことができる悪法です。私達の組織を壊滅させるための法案である事は間違いありません。これが成立してしまえば、私たちが行おうとしている新党立ち上げは、事実上できなくなります」
令子が、憤りを露わにして言った。
「厄介な事になったわね、野党は頼りにならないし……。こうなったら世論を動かすしかないわ。人材発掘の旅も北海道を残すだけだから、テロ法案阻止のキャンペーンを先行して行う必要があるわね」
華子も、美しい顔を曇らせた。
「華子さんの命を狙った攻撃も、激しくなることは間違いないと思うから、警備の方も万全を期す必要がありますね」
京吾が言うと、松下隊長が相槌を打った。
「京吾、そんな身体で華子様を護れるの?」
令子が京吾の左腕を見ながら言った。
「うん、鈴麗も居てくれるし、警護用の防具や武器を、アメリカの信濃博士という天才科学者にお願いしているんだ。それから、ジェットヘリを米軍に借りることになった。今後は、飛行機は使わずにヘリでの移動にしたいと思っている。車も大統領専用車のお古を頂いたから近県は車で行けばいい」
「そんなお金何処にあったの?」
訝し気に聞く令子に、華子が説明を始めた。
「令子さん、実はね、アメリカのロックフェラー財団から、十億ドルという大金を寄付して頂いたの。この事は、ハリス大統領が色々と手を回して下さって実現しました。令子さんへの報告が遅れたのは、極秘裏に進める必要があったからなの。ごめんなさい」
「そうだったのですね。それにしても十億ドルとは凄いです。これで経済的な心配は無くなりましたね」
神妙だった令子の顔が綻んだ。
数日後、信濃博士が大型トラックを伴って華子たちの家にやって来た。
彼はまだ四十台と若いが、オシャレに無頓着なのか忙しさゆえか、ぼさぼさ頭に眼鏡姿は、いかにも科学者らしかった。
「信濃博士、今回は無理を聞いていただいてありがとうございます」
華子が礼を言うと、博士は華子の手を取って握りしめた。
「貴女には、どうあっても生きて、この日本を改革してもらわねばなりません。その為に、私も出来る限りの事はさせて頂きます!」
「感謝いたします」
博士は、華子と歓談した後、京吾に向き直った。
「さて、京吾君には義手を作って来たよ。つけてみてくれるかい」
「はい、ありがとうございます」
博士が持ってきた箱の中には、義手が二つ入っていた。一つは、本物の皮膚のようなゴムでコーティングされたもので、もう一つは、特殊金属で精巧に作られた手だった。
「この本物そっくりの義手は、残った腕の筋肉の信号を読み取って、ガラスコップを握ったり、握手が出来る優れものだ。通常の生活に支障はなくなるだろう。もう一つは戦闘用で、握力は鋼鉄も曲げる力がある。手の部分を外せば剣が仕込んであり、銃としても使える。危険だから戦闘以外では着用しない方がいいだろう」
「ありがとうございます。大事に使わせて頂きます」
「ジェットヘリは米軍の横田基地に置いてあるので、何時でも使用可能です。専用車は更に改造を加えてトラックに積んで来たから使って下さい。それから、警護用の防護服と華子様用の防護服を作ってみました。防弾、防爆の効果があります。不具合があったら改善しますからいつでも言って下さい」
華子たちは、博士の説明を受けながら防護服を試着した。意外に軽く、しなやかで着ぶくれしない優れものだった。
「警護の君たちは、ヘルメットをかぶっても違和感ないから防弾対策は万全だ。しかし、華子様に常時ヘルメットを被せる訳にはいきませんから、彼女の頭部を護る為の警護隊形を検討する必要があります。念のため、彼女用の半透明のヘルメットは、作ってきました」
「博士、この銃は何ですか?」
京吾が、ショットガンのような銃を手に取って聞いた。
「これは、衝撃波銃です。相手を殺さずにダメージを与えることが出来ます。これらを使いこなせれば、海兵隊の兵士にも引けを取らない戦いが出来るでしょう」
信濃博士は、ひと通りの武器の説明を終えると、華子と固い握手を交わし、アメリカへと帰っていった。
彼もまた、故郷日本の為に戦う華子の姿に魅せられて、同志となった一人なのである。信濃博士の開発した武器で、京吾達の警護力と戦闘能力は格段と上がった。
華子は、今回のテロ法案が如何に危険な法案であるかを、テレビ出演やネットへの投稿、街頭演説などで、懸命に訴えていった。
この頃には、同志となったメンバーが中心となって各県に組織が作られ始めていて、東京事務所では西郷政治が、全国から寄せられる質問や要望に的確な対応をとって、孤軍奮闘していた。彼は、テロ法案を廃案にするために、全国の同志に世論を動かすキャンペーンを展開するよう指示を出した。
こうした華子達の努力により、世論は大きく動き、野党も勢いづいて、政府への攻撃を強めたのである。
「小娘め!! この俺に盾をついてただで済むと思うな!」
日虎は激高して、華子の暗殺計画を本格的に始動させた。
そんな事も知らぬ華子は、一月末から、全国行脚の最後の訪問地、北海道へと向かった。これには、鈴麗も中国から戻って合流していて、ジェットヘリを使っての初めての旅となった。
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