第12話 中国からの助っ人

  無謀にも、大蛇に立ち向かっていった華子。

「これはこれは華子様、そんな物でこの私に挑もうというのですか?」

 大蛇はせせら笑いながら、華子に近づいて来る。

「華子さん、貴女の敵う相手じゃない。逃げろ!」

 苦痛に顔を歪めながら京吾が叫んだが、華子は、その叫び声が耳に入らないのか、必死の形相で大蛇に突進していった。

 大蛇がニヤリと笑い、燃える拳を振り上げたその瞬間、

 パン! パン! 彼女の後方で破裂音が二回鳴った。それは、京吾と松下隊長が撃った拳銃の発砲音だった。

 銃弾は、今まさに炎の拳を振り下ろそうとしていた大蛇の足を打ち抜いていた。

 動きが止まった大蛇の額に、華子の振り下ろした警棒が炸裂した。

「ウグッ!」

 さすがの大蛇もグラッと体勢を崩し、膝をつき倒れ込んだ。

「華子さん、なんて無茶をするんだ。死んでもいいのか!」

 京吾は、怒りに自分を見失っている華子の手を引っ張って、車まで連れ戻した。華子は、切断され血が滴っている京吾の腕を見て、ヒステリックに叫んだ。

「京吾! 血が、ああ、どうしましょう。誰か早く救急車を呼んで!!」

 パニック状態になった華子を、竹田と梅川が京吾から引き離し、松下隊長が彼の腕に止血を施した。

 ほどなくして、パトカーと救急車が到着し、京吾は病院へと運ばれた。大蛇達はいつの間にか姿を消していた。



 次の日、京吾が病院で目を覚ますと、華子の心配そうな顔がぼんやりと見えた。

「良かった、気が付いたのね」

「華子さん、怪我はありませんでしたか?」

「大丈夫。何とも無いわ」

「そうですか、良かった」

 京吾が切られた自分の左腕を見ると、肘から先は、やはり無かった。

「だめだったか……」

 京吾は、大きくため息をついた。

「切り口が焼けただれていて手術は無理だったの……」

 華子が京吾に寄り添って、慰めるように言った。

「くそっ! 戦いはこれからだというのに……」

 京吾が悔しそうにベッドの端を右の拳で叩いた。


 京吾は二週間入院して、東京の実家へ戻ったが、華子の全国行脚は、一旦保留となっていた。

 華子たちの家では、メンバーが集まって、今後の事について話し合いが持たれていた。

「これからの事だけど、今のままでは、大蛇が再び現れたらこちらに勝ち目は無い。そこで、助っ人を呼んだから、明日にも来てくれると思う」

 左腕の包帯が痛々しい京吾だったが、その声には張りがあった。

「良かった。じゃあ、人材発掘の旅は続けられるのね?」

 選挙参謀の令子が、待ちかねたように言った。

「来週からは、旅に出られると思う。あとは、助っ人次第だ」

「その助っ人はどんな人なの?」

「華子さん、実を言うと僕も誰だか知らないんだ。中国の杭州に住む陳先生にお願いしたんだが、誰とは言ってくれなかった。事情は話してあるから凄腕が来るはずだ」

「それは頼もしい。これで警護力も一段とアップするというもんだ」

 松下隊長の顔に、安堵の色が浮かんだ。

 その時、玄関のチャイムが鳴って、京吾が出てドアを開けると、そこには、薄緑色のチャイナドレスに身を包んだ可愛い女性が立っていた。

「京吾!」

 女性は、京吾の名を呼んで、いきなり彼に抱きついた。声を聞きつけた華子が顔を出すと、二人が抱き合っていて、というより、若い女の方が京吾の首にぶら下がっていた。

「……京吾さん、その方は何方なの?」

「いや、それが分からないんだ……」

「私、鈴麗(りんれい)。京吾、私を忘れたか?」

「鈴麗? あの鈴麗か! 見違えたよ、大きくなったなー」

 京吾が鈴麗を最後に見たのは五年以上も前で、その時彼女はまだ十三歳だった。女性として成長を遂げた彼女を見て、分からなかったのも無理はなかった。京吾は鈴麗を皆に紹介した。

「彼女は鈴麗。中国で世話になった師匠のお孫さんです」

「その方が、助っ人なんですか?……」

 竹田と梅川が、失望の表情を見せる。

「鈴麗、君が助っ人なんだろう?」

「京吾の仇取りに来た。任せて!」

 鈴麗は拳を握って、任せろのポーズを作った。

「大蛇に勝てる自信はあるのか?」

「私にも奥義ある。大丈夫!」

 彼女はニッコと笑ったが、京吾も半信半疑だった。

 


 鈴麗が参戦して、華子の人材発掘の旅が再び始まった。鈴麗の実力を早く見たい京吾だったが、あれ以降、大蛇の襲撃は無かった。


 そうして半年が過ぎて、暦は早、師走を迎えようとしていた。華子と京吾は、久しぶりに東京の自宅に戻っていた。

 この半年で、華子は千八百人と対話を重ね、衆参で三百人の予定候補者を決定する事が出来ていた。だが、激務の為、彼女の疲れはピークに達していたのだ。

「華子さん、年末年始はゆっくりと体を休めましょう。疲れを取っておかないと、戦いに支障をきたしますよ」

 京吾の気遣いに、華子も同意した。

 鈴麗は正月は地元で暮らしたいと中国へ帰り、京吾と華子は、久しぶりに二人だけの年越しとなった。

 

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