第3話 花婿探し
それから数週間が経ったある日、秘書の令子が幾つかの縁談を持って来た。
「華子様、この中で会ってみたい人が居れば、お見合いを設定しますので目を通しておいてください。全員経済力のあるメンバーを選んであります」
「分かりました。流石に令子さんは仕事がお速いですね」
華子は長い髪をかき上げながら、写真入りの身上書に目を通し始めた。その中には、京吾の名もあった。
「京吾さんのもあるのね?」
「一応、候補者の一人ですから入れておきました。彼のお父様は会社を経営しているようですが、今は絶縁状態のようです」
「そうなの、彼も色々あるのね……」
華子は、自分の知らない京吾の身の上に、興味を抱いたようだ。
次の日から、華子のお見合い大作戦が始まった。だが、日本のアイドル的な彼女に最初は乗り気だった相手も、彼女がやろうとしている事を聞くと、顔色を変え沈黙した。
結局、五人と会ったが、全て断りの返事が来た。
そうこうする内、華子が、日虎政権を倒すために結婚相手を探している事が、テレビや週刊誌などで報道されると、殆どの縁談は立ち消えとなってしまった。
諦めかけていた時、一人の男が結婚相手として浮上して来た。名は前田光一、若きIT企業のCEOである。令子は早速、ホテルでの顔合わせをセッティングした。
ロイヤルホテルの一室で、華子と前田は会った。部屋の外では、京吾が警護の為待機していた。
「私が日虎政権を倒すために、政界に出ることを知りながら、何故、私と結婚したいと思われたのですか?」
挨拶もそこそこに、華子が話を切り出した。
「愛しているからです。今迄、貴女を密かにお慕いしておりました」
前田の目は潤んでいて嘘を言っているようには見えなかった。
「私と結婚すれば、貴方や貴方の会社が日虎から狙われるようになりますが、本当にそれでもよろしいのですね?」
華子が厳しい表情で、念を押すように言った。
「覚悟の上です!」
キッパリと言い切る前田に、華子は今迄の相手とは違う何かを感じた。
「分かりました。では、結婚を前提にお付き合いさせて頂きます」
「こちらこそよろしくお願いします」
前田は、嬉しそうに華子の手を取った。
二人は何回かデートを重ねた。前田は話題も豊富で話も面白く、華子を飽きさせる事が無かった。紳士的な態度も一貫していて、華子の気持ちも傾きかけていた。
そんなある日の事、
「京吾、華子様の警護は終わったの?」
皇居内の警護事務所で令子と京吾が話していた。
「今日もデートだそうで、彼は大丈夫だから警護はいらないと言われました」
「いよいよ本決まりのようね。あなたの出番が無くて残念だったわね」
令子が、いじわるそうな笑みを浮かべた。
「あんな奴のどこがいいんだか。華子様も趣味が悪いと思いません?」
今日の京吾は、何故か機嫌が悪かった。
「あら、妬いているの?」
「そんなんじゃありませんよ!」
京吾は、脹れて出て行ってしまった。
その頃、華子は前田とホテルで食事をしていた。ワインを飲んで暫くすると、不意に眠気が襲ってきた。
朦朧とする彼女を、前田が肩を貸して何処かへ連れて行った。
華子が目覚めると、そこはホテルの一室で、上着を脱がされベッドに寝かされていた。
「華子様、今夜は二人の記念日にしましょう。夫婦の契りを結ぶのです」
シャワーを浴びたのか、白いバスローブを纏った前田が、薄笑いを浮かべながらベッドに上がり、華子の白いブラウスの胸のボタンを外し始めた。
「何をするのです!」
華子が叫んだが声にはならず、抵抗しようにも身体に力が入らなかった。
「薬を飲ませましたから暫く動けませんよ。実はね、華子様の純潔を私が頂けるかどうかの賭けを仲間内でしていたんですよ。これが終われば、皆と祝杯をあげる予定です。証拠のビデオも撮っておきますからね。今夜はたっぷり楽しませてもらいますよ」
ふしだらな笑みを浮かべた前田がバスローブを脱ぎ捨て、華子のスカートに手を掛けた、その時だった。
ドアが勢いよく開いて黒い影が飛び込んで来たかと思うと、前田の顔面にパンチを食らわせた。前田は悲鳴を上げてベッドから転げ落ち、そのまま気絶してしまった。
その黒い影は、京吾だった。彼は、華子が心配で、彼女の服に発信機を付けておいたのだ。
「華子様! 大丈夫ですか!?」
京吾が揺り起こそうとしたが、彼女は、目は開いているのに反応は鈍かった。京吾は、華子のはだけた胸のボタンをとめると、彼女を抱き上げ部屋を出て行った。
京吾は、とりあえず華子を病院へ運び、身体が快復してから皇居へと送っていった。
「今日はありがとう……」
車を降り際に、華子が俯き加減に京吾に礼を言った。
「心配は要りません。貴女に仇成す奴らは私が蹴散らしますから、安心して日虎打倒の道を突っ走って下さい。これからは離れませんからね」
泣きたい気持ちの華子の心に、京吾の優しさが沁みた。
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