もう、
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あれから私は、碌な恋い一つできないまま、いつの間にか十年が経っていた。
田舎から都心に出てきて、その土地の騒がしさだとかを知った。
でも、かねてからなりたかった編集者になれたことは密かに私の誇りだった。この業界にいると、学生時代に学べなかったこと、感じれなかったことを体験出来ている気がする。作家の人達と試行錯誤をくぐり抜けて完成した作品を見た時の’素晴らしさ’といったらない。上京して、本当に不安しかなかったが、そこには波長のあった人もいて、ごく順調な日々を送っていた。
心に、消し切れない空白がないとは言いきれなかったけど。
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自分の作品が見られるのは限りなく緊張する。
しかも、作品をどんな配置で置いたりだとか、会場を探すことから始めたから、皆が楽しんでくれてるか、来てよかったと思ってくれるか不安だった。――が、思いの外ギャラリーが好立地だったようで、開催初日から予想していたよりも多くの人が来場してくれた。俺は顔を帽子とマスクで隠してグッズ売り場で様子を見ていたのだが、改めて俯瞰してみると、作品の端々から俺の価値観やら何やらが透けて見えるようでとても気恥しい。けど、気概を持って作ったものだから、もし評価されたら嬉しいに違いないけれど。
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