五月
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「アガ、」一緒に次行こ、と平野が問いかける。そんなこと言わなくても。と思いながら、次の授業の教科書を手に取った。
いつの間にか5月の半ばに差し掛かり、最初の席から席替えがなされていた。入学式からはずっと最前列だったから、今の席は気に入ってる。外は曇っていて、少し空気が濁ってた。平野とあとの数人で階段を降りていくと、技術室の前には解錠を待っている奴らがちょっといた。なんとなく暇を持て余していると、徐ろに平野が話しかけてくる。思ってたんけどさぁ。・・・コイツのこういう話し方の時は、大体碌でもないことだと知ってる。
「佐倉さんってある意味かわいいよな」
・・・佐倉。
確か席替えで隣の女子だった。これまでに何か話した訳でもなし、意見もなかったので先を促すと、不可解な答えが返ってきた。いつも緊張してね?動きとかいちいち固いっていうか。突然一人語りを始めたので、あまり触れないようにした。
俺は、女子と接点をほぼほぼ遮断していたのでそんなことに気づきもしなかった。隣のことも知らないのかと言われるかもしれないが、話しかけにくい雰囲気をつくるので精一杯なのだ。
♦
思わずひゅっと喉が鳴った。好きな人への気持ちは心にしまっておこうと思っていた矢先の出来事だった。「ちょ、」なに。体が固まってしまうとはこのことだった。周りから意味ありげな視線で見つめられる。
今日寝れないかも、と思った。だって、あの完璧君のまさか、隣。
近くで失態を見られる、と思ったら、こんなチャンス要らないと思った。今日は金曜で、だから席移動だけだけど、来週からは。考えただけで気が滅入りそうだった。
それから私は日常生活にも支障を足すくらい朝から晩まで緊張していて、だから誰かにその様子を見られているなんて知りもしなかったのである。
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