第2話 繁殖屋 ~人間をつがわせるための効果的手法
繋いだ手が熱を持つと繁殖用つがいの完成だ。
人間は今や最重要な資源となった。増える需要に応じてどんどん繁殖させなきゃいけない。
需要は多岐にわたり、質のいい人間が求められる。こっちの苦労も知らないで、と言いたいところだが、思惑通りに番ってくれたときの達成感は苦労を補って余りある。
人間を番わせるには内面へのアプローチが不可欠だ。
心理的効果を狙う数々の試みとその結果をまとめた資料は、われわれ繁殖屋の重要な仕事道具になっている。
偶然の出会いを何回も起こす、2人でいるときに恐怖や衝撃を与える、などの効果が書いてある。
エフェクトも効果的だ。微笑んだタイミングで光を当てたり、服が濡れてしまう雨を突然降らせたり、長い髪をフワリとなびかせたり。
大量生産に向く人間は、放っておいても繁殖するから手間は少ない。問題は特注品に使うような人間だ。なかなか番わないし、番っても繁殖力は旺盛じゃない。
特殊な性質を持っている人間のつがい候補を探すのは大変で、つがわせることは、それ以上に大変だ。
資料に乗っている方法のうち、その人間に合いそうなものを選んで与える。効果が十分だと強固なつがいになり、繁殖も見込める。
やり過ぎて逆効果になり、失敗したこともあるけれど。
特注品が繁殖しても特注品になれる人間が、必ず生まれるわけではないが大量生産よりは可能性が高い。その可能性にかけてつがいを作り、繁殖を促す。
ある日、大量生産の中から特注品になれる人間の男を見つけた。以前からつがいを探していた、特注品の女に合いそうだけど、その男には大量生産用のつがいが既にいた。
大量生産用を間引きしてもいいのだけれど、この人間は夢見がちらしいから、かえって執着する恐れがある。
夢見がちな場合、印象的な出会いは効果的だ。『偶然』『幻想的』といったものに心惹かれやすい。それと、エフェクト。酷い雨を降らせてから虹を出したり、風で花びらが舞ったり。
今回はお互い1人きりで散歩の途中に偶然の出会いだ。おあつらえ向きに満開の花。
風を起こすために指先を振る。指先から生まれた振動は空気を震わせ、人間の周囲に花びらを舞い散らせた。
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桜が満開の川沿いを散歩中に彼女と偶然会った。前回偶然会ったときは、酷い雨に降られて慌てて駆け込んだ軒先だったっけ。雫が流れ落ちる髪が印象的だった。
今日は天気が良く穏やかで、散り始めの花びらが彼女の周囲に舞う様子は絵画のようだ。彼女の周りに流れる優しい風が、髪を揺らした。
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