人間という家畜から資源を採取するための各種方法と手段
三葉さけ
第1話 絵の具屋 ~人間から最高の色を取る方法
青空に手を伸ばして、通り過ぎようとする薄い雲を千切り取った。
良い涙を集めるためには良い雲が必要で、良い雲は丁度、こんな青空で少し風の強い日に生まれる。
流れる涙を雲に吸わせて採取する、これだけ聞くと簡単に思うかもしれない。けれど、人間が触れない雲で、人間に気付かれないように採取するにはある程度の経験が必要だ。感づかれて涙が止まり、大損したことは1度や2度じゃない。
僕は絵の具屋。
人間の涙を集めて絵の具を作る、実にシンプルで奥の深い仕事をしている。
人間の涙は、流したときの感情によって色が変わる。
嬉しいときの涙は黄、悲しいときは青、怒ったときは赤、感動したときは黄緑とか紫だとか、混じり合う感情の種類で色が変わるんだ。
感情の純度が高ければ透明度が上がり、いらないものが混じると濁ってしまう。嫉妬なんか混じると灰色がかった何とも言えない濁った色になる。
売れるけど、よくある色だから値段が安くて儲けが少ない。澄んだ色になるほど良い値段がつく。
中でも一番高く売れるのは真っ黒に光の粒が煌めく絵の具だ。
黒は絶望の色で比較的取りやすい。ただし、真っ黒となると話は別。本当に底の見えないような黒は難しい。
望む色を採取するために僕たち絵の具屋は日々、人間の状態を観察して管理している。
絶望的な状況に突き落とすだけなら容易い。ある程度育ったところで大事な相手を全部処分すると大抵、黒い涙を流すから。
底の見えないような黒を作るには人間に絶望を与え続けて色を深める必要がある。これが結構やっかいで、人間は小さなことにも希望を見つけるし、周りの人間によって薄められることもある。全部つぶして回るのは相当骨が折れる。
散々苦労して真っ黒にしても、最後の仕上げをしくじると台無しだ。光の粒、これが酷く難しい。強い希望、喜びなんかを衝撃的に与えて初めて光が結晶化する。絶望を育てた人間に正反対のものを与えるんだ。何が必要か、何が望みかよくよく観察する必要がある。与えるタイミングも重要だ。ここぞ、というときを作るのにどれだけ苦労するか…。
こうして今日も人間を観察して回る。複数育てても最高の色が取れるのはほんの数人だ。最近は儲けが少ないから、良い色が取れるように祈りを込めて一人一人に呟いていく。
素敵な色になりますように。
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