2 ヤナ国

 遊星は、ベッドに潜り込み、天井を見上げながら今後について考えた。考え抜いて、結局、このままこちらの世界に留まるという結論に達した。もちろん、帰ることを諦めたわけではない。が、帰る術がないのではどうしようもないし、それに、行方の知れない弟を、このまま放っておくわけにもいかない。確かに、世界は広いが、それでも、宇宙よりはずっと狭いわけだから、彼もこちらに来ているのなら、いつか必ず再会できるはずだ。そのうちに、帰る方法も見つかるかもしれない。

 ただ、唯一の心残りは、あちらに残してきた母のことだ。今頃は、夫のみならず、息子二人を突然失って、心配し、ひどく落ち込んでいるだろう。それを思うと、心臓を鷲掴みにされたように息苦しくて、出来る事なら今すぐにでも飛んで帰りたい。あるいは、最低でも、連絡くらい取れれば良いのにと思う。が、残念ながらそれも不可能だ。あちらの世界とこちらの世界が、何かによって繋がることができるのに、それすらできないというのが口惜しい。母には、ただ、ただ、気持ちを強く持って、自分たちの帰りを待っていてほしい、とそう願うばかりだ。

 そうして数日が経過したある日のこと、王宮はざわざわと慌ただしさに包まれていた。なにごとかと、使用人に尋ねてみたところ、年に一度の、四カ国会議がヤナ国で開かれる

ということだ。会議では、ヤナ国とその周辺国であるラント国、ロマノ国、リン国が集まって、様々な議題について話し合うことになっていて、ちょどこの日、三国の王が、供の者を引き連れて、ヤナ国へとやってくるということらしい。主催国は持ち回りとなっており、この年はヤナ国の番となっていて、それで、会場の準備や国王一行の応対にと、皆が忙しくしていたというわけだ。

 雄星は、客人であって、ヤナ国の関係者というわけではなかったから、周りが慌ただしく動き回っている中にあっても、特にすることもなく……あちらの世界なら、ゲームとかインターネットとかで時間を潰すこともできるが、こちらにはそういうものがないので、有り余る暇を持て余していた。そんな折、他国の王がやってくというのを聞いて、その王というのはどのような人間なのだろうかと気になって、彼は、国王一行の隊列がやってくるのを、廊下の窓から眺めていた。

「なにか面白いものでも見れた?」

 振り向くとカミラが立っていた。他国の王や供の者が大勢やってくるからだろう。長い黒髪を団子のように丸く束ね、綺麗な美しい櫛を差し、色鮮やかで煌びやかなキモノを身に纏っていた。が、彼はそれには触れず、窓の外を真っ直ぐに見つめて尋ねた。

「あそこにいるのはどこの国の人? ずいぶんと物々しい感じだけど」

 カミラは首を伸ばして外を覗き込んだ。

「ラント国よ」

「君たちが戦っていた相手?」

「そう。あの背の低い人物。あれがラント王ね。私嫌いよ。あの人」

 カミラはそう言って頬を膨らませた。

「毛嫌いしているんだね」

「当然よ。どれだけ偉いつもりなのか知らないけど、他民族を迫害するなんて、許せないわ」

「わかるよ。その気持ちは」

 どの世界でも、自分と異なる相手への、そうした屈折した感情はあるらしい。それを思うと、彼は少し悲しい気持ちになった。

「彼も異世界人なのよ」

「本当に?」

 雄星は目を丸くして、ラント王を見つめた。そして次の瞬間、彼は戦慄を覚えた。あの顔、あのちょび髭。見たことがある。その事実を彼女に話そうかとも思ったが、知れば間違いなく卒倒するだろう。だから代わりにこう言った。

「彼には注意した方が良さそうだね」

「ええ、全く。父上や他の国王も彼には手を焼いているわ。ところで、なにか言うことはない?」

 カミラが急に話題を変えた。

「え!?」

 雄星は怪訝な顔を向けた。彼女は小首を傾げ、軽くポージングを取っている。それで、その意図するところに気が付いて、彼は言った。

「ああ、うん。綺麗だね」

 少々、言い方がまずかったか、とも思ったが、以外にもそうでもなかったらしい。

 カミラは「そうでしょ?」と機嫌よく微笑むと、うんざりとした顔つきになって「私も接待しなきゃいけないの」とため息をついて「それじゃ、またあとでね」と廊下を歩いて行った。

 雄星は苦笑いを浮かべてそれを見送ってから、窓の外を眺めた。ラント王が、供の者に守られながら、肩で風を切るようにして歩いて行く。馬車は主を見送ったのち、ひひんと一声鳴くこともなく、どこかへと走って行った。

 四か国会議、とは言うものの、実のところそれも名ばかりで、国王同士であれこれと議論しあうことはない。そんなことをしていては、何日もかかってしまうからだ。だからあらかじめ、内容については当事国間で詰めておき、四カ国会議では、その確認を行い、各々が声明を出して閉会する、というのが常だ。そのため、会議は一日で終わるが、他国との会談はそうそう行われるものではなかったから……特に、対ラント国、という点では……この機を利用して、当初の議題以外について、その場で意見がぶつけられることもあった。

「ラント王にお聞きしたい」ヤナ王が言った。「先日の我が領内への侵略行為について、如何な説明をされるおつもりか」

「侵略とは人聞きが悪い」ラント王は答えた。「そちらが我が国民を拉致している故、それを取り返そうとしただけだ」

「拉致とはそれこそ人聞きが悪い。彼らは、迫害から逃れるため、我が国に保護を求めているのだ。それを助けるのは当然のことである。断じて拉致したわけではない。そちらこそ、我が国民と言いながら、迫害をしているのはどういうわけか」

「我が国民は我が国のもの。それをどうするかは我が国が決めることだ。貴国にとやかく言われる筋合いはない。むしろ貴国こそ、速やかに我が国民を返すべきと思うが?」

「返すつもりはない」

「ならば仕方がない。我が国民を取り戻すため、戦いを続けるまでだ。さて、話し合うべきことは既に済んでいる。これで失礼する」

 ラント王はスッと立ち上がると、他王と挨拶を交わすこともなく、どかどかと足を鳴らして去って行った。その姿を見送って、ヤナ王はため息を漏らした。

 ラント国での他民族への迫害については、ラント王の言う通り国内問題ではあるから、こうした国際会議で議題として取り上げられることはまずない。しかし、迫害される人々を護るために、ラント国としばしば争いになる身としては、もはや国内問題だからと片付けるわけにもいかず、故にこうして、何らかのアクションを起こさないわけにはいかなかった。ところが、ラント国には一切の反省もなく、むしろ開き直るのが常で、追及しても、このように言い逃れをするだけであるので、ヤナ国としても、どうにも歯がゆい思いだった。

 会議が終わると、ヤナ王とロマノ王、リン王の三王は、別室へと移動して、丸いテーブルを囲んで、小豆色の豆でこしらえた、四角い甘いお菓子で舌を喜ばせながら、緑色の苦いお茶で調和を保ちつつ、意見交換を行った。

「ラント王は相変わらずですね」

 リン王が言った。彼はまだ三十代の若い王だ。四カ国では最も若い。彼が治める国は山岳地帯にあり、周囲を高い山々に囲まれた、牧畜と農業が中心の国だ。そう言うこともあってか、平和主義的で、他国の争いには積極的には拘わらない。

「まったくです。彼を好いている者は少ないでしょう」

 ロマノ王が同意した。彼女はこの世界唯一の女王で、年齢はヤナ王に近い。彼女が治める国は、いくつもの都市国家で構成された連合国家で、商業を中心としていることもあり、情報が集まってくる場所でもあった。

 ヤナ王が苦々しげに応じる。

「あれでも国民には人気があるようですね。話が旨いので、うまくのせられているようです。腹の中ではなにを考えているかわかりませんが」

「腹の中、と言えば」ロマノ王は、秘め事でも言うように、少し声を落として続けた。「なにか良からぬことを企んでいると、そんな噂を聞いたことがあります」

「良からぬこと、というのは?」

 ヤナ王は眉を吊り上げた。

「この世界の全てを、手中に収めてやろう。そんなことを考えているとか」

 リン王は目を丸く見開いた。

「それというのはつまり、世界征服、と言うことですか?」

「平たく言えば、そう言うことになりますね」

「世界征服と言っても、世界は広いのですよ。いくらなんでも無理でしょう」

 リン王は苦笑を漏らした。

 彼がそう思うのも無理はない。世界はこの四か国だけで出来ているわけではないし、ラント国よりもずっと強大な国もある。そうした国々を相手に世界征服というのは、現実的ではない。

 ヤナ王が言った。

「しかし、ラント王なら考えそうですね。それが本当なら、既に準備を始めているのかもしれません」

「たしか、来年の主催国は、ラント国でしたね」

「ええ。そうです」

「もしかしたら」ロマノ王は、同席者には気づかれない程度に、小さく身震いした。「手始めに、我々をどうにかするつもりかもしれません。自国に集めておいて、一気に……」

「それなら私は不参加としましょう。適当に理由をつけて……」

 リン王が急ぐように言った。

「必ず参加する決まりですよ」ヤナ王が指摘する。「不参加の場合は、腹に何か一物ありと、判断されかねません。だからこそ、ラント国も毎年参加しているわけです」

「ですが、本当になにか企んでいるのだとしたら、注意しなければなりませんね」

 ロマノ王はそう言って、眉間にしわを寄せた。

「ええ、そうですね」ヤナ王は同意した。「まずは、情報収集が先決でしょう。そして本当に、彼がなにか良くないことを企てていると言うなら、その時は我々で阻止しなければ」

 ロマノ王は、覚悟を決めた様子でしっかりと頷いた。一方でリン王は、頷きはしたものの、どこか浮かない表情だった。


 夕餉が終わり、一時間ほどがたった頃、自室のドアをノックする音が聞こえて、雄星は扉を開けた。カミラがお盆を手に立っていた。淡い青色の浴衣のような服を着て、お盆にはポットと茶碗が二つ乗っていた。

「お茶でも一緒にどうかと思って」

 カミラは言った。

「どうぞ」

 雄星は彼女を招き入れた。相手は王女だから、男の部屋に入れるのもどうかと思ったが、わざわざ来てくれたのだから断るわけにもいかない。彼女はそよ風のように中へと入って、テーブルにお盆を置いた。

「何か不自由していることはない?」

 彼女は室内をぐるりと見回して聞いた。

「特には」雄星は答えて扉を閉めた。「むしろ申し訳ないくらいだよ。向こうの世界の部屋よりずっと広いからね。ベッドだって大きいし」

「どのくらい違うの?」

「これの十分の一くらいかな」

 カミラは振り向いた。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。

「ベッドしか置けないじゃない!」

「もっと小さいのがあるんだよ。一人が寝れるくらいのが」

 カミラは呆れた顔で「それじゃ落っこちちゃうじゃない」

「寝相が悪ければね。君はそんなに寝相が悪いの?」

「悪くないわよ!」カミラは顔を赤くして怒って、続けて言い訳するように言った。「そもそも、そんなのじゃ落ち着いて眠れないわ」

「慣れれば都ってやつさ」

「慣れれば……なに?」

「なんでもない」

 雄星は笑って、彼女に着席を促した。

「お付きを断ったそうね」

 カミラは椅子に腰を下ろしながら言った。

「僕のいた世界では、そう言うのはよっぽどの金持ちだけだよ。だから自分のことはなんでも自分でするんだ。まあ、そう言うのを体験してみるのはいいけど、一度経験してしまうと、抜けられなくなりそうだからね」

「そうかもしれないわね」

 カミラはくすくすと笑って、茶碗にお茶を注いだ。緑の液体から白い湯気が立ち上る。魔法瓶、というのがあるが、このポットはまさにそれらしく、熱が冷めることはないようだ。

「こちらには慣れた?」

 どうぞと、お茶を飲むようにと促しつつ、カミラは聞いた。

「王様は……陛下って、呼んだ方がいいのかな?」

「私といるときは気にしなくていいわよ。なんだったらオノガでも」

 遊星は苦笑して「さすがにそれは」とはにかんだ。国王を名前で呼ぶのはさすがに無礼だろう。彼は続けて言った。「王様が僕と同じ世界から来たからって言うのもあるんだろうけど、部屋の雰囲気とかいろいろ近いところもあって、そう言う意味では違和感はあまり感じないね。でも、そうは言っても、僕からして見ればここは異世界だから、少し落ち着かないのは確かだよ」

「やっぱり帰りたい?」

「うん。それはもちろん。できることならそうしたいよ」

「ご家族も心配しているでしょうね」

「うん。すごく心配してると思う」

 雄星は肩を落とした。姿を見ることはできないが、項垂れ、背中を丸めて泣いているであろう母の姿を思うと、彼もまた気が沈む思いがした。

「元気を出して。きっといつか、方法が見つかるわ。なんだかそんな予感がするの。本当よ」

 カミラは彼を励まそうと、本当にそう思っているというように、明るい口振りで言った。

「ありがとう」雄星は顔を上げて微笑んだ。「君が言うなら間違いなさそうだ」

 そうよ、とカミラは頷いて、尋ねた。

「ご家族は、ご両親と弟さんが一人?」

「母さんと僕と、父さんは行方不明。いまは弟も、だけど」

 カミラははっとして「ごめんなさい。まさか、お父さんまで行方不明だなんて。本当。私ったら……」と申し訳なさそうに視線を落とした。

 雄星は、彼女がそのまま自分の頭をぽかりとやってしまいそうに思えたので、急いで言った。

「気にする必要はないよ。何年も前のことだから。もうだいぶ落ち着いているよ」

 カミラは安堵の表情を浮かべて「そう言ってもらえると助かるわ」と感謝を示し、続けて尋ねた。「でも、お父さんはどうして行方不明に?」

「父さんは、時空移動……時空移動って言うのは、異なる時空、つまり、どこかに別の世界が存在すると仮定して、それを行き来するための方法を探る研究、ということなんだけど、その研究者だったんだ」

「それって、あなたの世界とこちらの世界が繋がるときの現象を、人為的に起こそう、ということ?」

「そう。それである時、その実験中に事故が起きて、気が付くと姿を消していたそうなんだ。外に出た記録もないのにどこに消えたんだろうって、みんな不思議がってたそうだよ」彼はそこまで言って、ハッとした顔になり「その時は事故ってことになっていたけど、もしかしたら、僕の身に起きたのと時と同じことが起きたのかもしれない」

「そうだとすると、こちらに来ているかもしれないわね」

「そんな話を聞いたことがある?」

「いえ、残念ながら」カミラは頭を振った。「でも、フアンの言った通り、繋がるのがこちらの世界だけなら、その可能性は高いのじゃなくて?」

「そうだね」雄星は頷いた。「少なくとも、希望は持てるということだね」

「もしかしたら、どこかの国の王様に雇われて、研究を続けているかもしれないわ」

「父さんなら十分にあり得るよ」

 雄星は同意して微笑んだ。

「フアンが聞いたら喜びそうな話ね。あちらの世界に同じ研究をしていた人がいるなんて。見つかったら真っ先に会いたがるわ。きっと」

 カミラはその時の様子を想像してか、くすりと笑った。

「馬が合うだろうね」

「馬?」

「気が合うってこと」

「ええ。そうね。毎日、朝まで議論を戦わせ合うでしょうね」カミラはそう言って笑った。彼女はお茶を一口飲んで、続けた。「弟さんのことも心配でしょう」

「うん。喧嘩別れになっちゃったから、なおさらね」

「喧嘩? どうして?」

 雄星は、事の顛末を説明した。

「そう。そんなことが……。私にも兄弟がいるから時々は喧嘩もするけれど、きっとお父さんを失って、どうしていいかわからなくなっているのよ」

「だけど、もう立ち直ってもいい頃だよ。いつまでもしょげてるわけにはいかないんだ」

「きっと、あなたが思うほどには強くないのよ。私も、もし父を突然失ったら、冷静でいられる自信はないわ」

「君が? 君は強い人だと思ってた」

「そうよ。私は王女だもの。立場があるわ。だから、周りに弱いところを見せるわけにはいかないの。でも、内心では、ガクガク震えているかもしれないわ」

 遊星は頷いて「僕も長男だからよくわかるよ。僕も、父さんがいなくなったと聞いたときは、どうしていいかわからなかった」

「そうでしょう? 弟さんも同じなのよ。立ち直りが早いか遅いかは人それぞれから、今はそっと見守るしかないわね」

 そうだね、と遊星は頷き、お茶を飲んで聞いた。

「君はどうして戦争に? 王女様のするようなことじゃないと思うけど」

「彼らを助けたいからよ。迫害されて、苦しめられて、助けを求めている人々を放ってはおけないわ」

 遊星は尊敬の眼差しを向けた。

「君は本当に、立派な人だね。でも、お父さん……王様は反対しなかったの?」

「もちろん、反対したわ。でも、なんとか説得したの。この通りのじゃじゃ馬だから、諦めたのね」

 遊星は微かに微笑んで、その後、憂いを覗かせて言った。

「王様は心配だろうね」

「ええ。でも、自分のことは自分で責任を持つわ。それが条件だから。それで思い出したのだけれど、ずいぶんと銃の扱いに慣れているのね。初めてとは思えなかったわ」

「きっと、ゲームのお蔭だね」

「ゲーム? カードを使った遊びのこと?」

「そう言うのもあるけど、僕が言ってるのは、コンピューターゲームだね」

「コンピューターゲーム? コンピューターというのは、たしか前に言ってたわね」

「うん。コンピューターというのは、簡単に言ってしまえば、小型の計算機だね。もちろん、計算だけじゃなくて、いろんなことができるんだけど、それを一度にたくさん、素早くできるところが特徴だね」

「よく分からないわ」

 カミラはそう言って首を捻った。

「仕方がないよ。僕だって、こちらの世界のことはわからないことばかりなんだから。ともかく、そのコンピューター上の擬似的な世界の中で、銃を使って遊ぶゲームがあって、そこで僕は、大会で優勝したこともあるんだ」

「本物を撃ったのはあの時が始めて?」

「もちろん。僕のいた世界では、国にもよるけど、本物は持てないから。でも、意外にも、違和感は感じなかったね」

「そのゲームって、あなた一人でするの?」

「ううん。チームで対戦するんだ。僕はリーダー役をやることが多かったね」

 カミラは、なるほど、と頷いた。思案を巡らせているようだったが、何を考えているのかまでは読み取れなかった。

 その後二人は、お茶を飲み交わしながら、この世界のこと、あちらの世界のこと、そして様々なことについて話した。

 柱の時計が時報を鳴らした。だいぶ夜は更けていた。そろそろ寝床に就く頃合いだ。

「ずいぶんと話し込んじゃったわ。もうこんな時間」

 カミラは柱時計を恨めしげに見つめて言った。

「本当だね。楽しいときは時間が過ぎるのは早いね。逆ならいいのにと、いつも思うよ」

「本当にそうね」

 カミラは笑みをこぼした。

「帰るかい?」

「ええ、そうね」僅かに躊躇を覗かせながら、彼女は答えた。「使用人たちが血相を変えてやってくる前に」

「それは大変だね」雄星はクスリと笑うと立ち上がり、続けて言った。「君と話せて楽しかったよ」

「私もよ。いろんな話が聞けて良かったわ。いつも噂話ばかりなんだもの」

 うんざり、という様子で言って、カミラは立ち上がった。

「いつの時代でもそうだよ。女の子ってものは」

「またそのうち、いいかしら」

「もちろん。いつでも歓迎するよ」雄星はテーブルの上に目を向けて「それはおいてっていいよ。後で片づけておくから」

「ええ、ありがとう」

 雄星は歩いて行って扉を開けた。カミラは廊下へ出て、くるりと振り向いて言った。

「それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみ。いい夢を」

 カミラはにこりと微笑んだ。その笑顔をしっかりと脳裏に刻み込もうとするように、雄星はゆっくりとドアを閉めた。


 ノックに応じる声がして、雄星はドアを開けて中へと進んだ。そこは国王の執務室で、それほど広くはないが、異国情緒たっぷりの、雄星にとっては馴染みのある、とても落ち着きを感じる空間だった。中央には長テーブルがあり、王が上座に、その右手にイカリが、左手にはカミラとトナミがそれぞれ腰を下ろしていた。

「急に呼び出して済まぬな」

 王が言った。王の間での姿と比べると、かなりラフな出で立ちをしている。公式ではない、近しい者だけを集めた話し合いの場、ということだからだろう。

「いえ。居候の身ですので、お呼びいただければいつでも」

「うむ」と王は頷いて「座ってくれ」とイカリの隣を示した。雄星はテーブルを回りこんで座席に着いた。それを待って、王は言った。

「娘の話し相手になってくれているそうだな。迷惑ではないかな?」

「迷惑だなんてとんでもない。娘さ……殿下とのおしゃべりはいつも楽しいですよ」

「そうか」

 王は微かに口元を歪めて微笑を湛えたのち、ちらりと娘に目を向けた。その娘は、父の視線を無視するように、無表情で、まっすぐ前を見つめていた。王は笑いをかみ殺して、続けて言った。

「さて、娘から話を聞いたのだが、部隊を動かすのが得意なのだそうだな」

「得意、というか……それはあくまで遊びの中での話で、実際に動かしたことはありません」

「しかし、動かし方は知っている。そうだな?」

「それは、まあ、多少は」

「我々にそれを教えてはもらえんかな? 少々、古臭いところがあるのでな」

「僕に部隊の訓練を?」

 雄星は目をぱちくりとさせた。

「うむ。今風に言えば……何というのだったかな……ああ、そうそう。コンサルタント、と言うのだったかな。それをしてもらえればよい。そなたは軍人ではないから、訓練はトナミが行う」

「でも、どうしていま改めて?」

 国王は頷いて、イカリに目配せした。彼は承知と首肯して、そのわけを説明した。

 聞き終えて、驚きを交えつつ、雄星は言った。

「つまり、ラント王の企みに備えるため、ということですね」

「そうだ。あの男は征服欲の強い男だ。なにかを企んでいるとすれば、つまりはそう言うことであろう。故に、その時が来た時のために、部隊をより強力にしておきたいのだ」

「本当にそんなことが起きたら、僕らも安全ではいられない、ということですね」

 国王はゆっくりと、大きく頷いた。

「私は王だ。国民の安心と安全を守らねばならん。どうだ? 力を貸してはくれぬか?」

 雄星は目を伏せて、しばし思案したのち言った。

「わかりました。でも、二つお願いがあります。それを聞いてくれるなら、引き受けます」

「ふむ。聞こう」

「一つは、父と弟を探して欲しいのです。二人とも、この世界のどこかにいると思うんです」

「いいだろう。あとで二人の人相、特徴をイカリに話すが良い。見かけたら連絡するよう手配するだろう」

 承知、とイカリが頷く。

「もう一つは?」

「あちらの世界に帰る方法を見つけ出すこと。……難しいのはわかっています。でも、母のことを思うと、やはり帰りたいんです」

 うーんと国王は唸った。当然だ。よくわかっていない事象を、人為的に起こす方法を見つけろというのだから無理もない。王はやがて言った。

「良かろう。だが、保証はできんぞ。それで構わなければ、願いを受けよう」

「はい。それでも、何もしないよりはましですから」

「よろしい」王は了解と頷いて「訓練についてはトナミと話し合ってくれ。部隊はすべて彼の指揮下にあるからな」

 よろしく、とトナミが首肯した。雄星も同じく挨拶を返す。

「さて、お開きにしようか。若い二人をこんな所に閉じ込めておくのも悪いからな」

 王はそう言って、満足そうに背もたれに寄り掛かった。


 訓練は国都の郊外に都市を模したものを建造し、市街戦を想定して行われることになった。これまで、戦争と言えば草原などの広大な地域での、大軍同士のぶつかり合いがほとんどだったから、そうした大規模な戦闘を想定した訓練は行われてきたものの、市街地戦を想定したより小規模な訓練についてはほとんど、というより全くと言っていいほど行われてこなかった。国家間の戦争は、多くの場合、国境付近で行われるのが常で、市街地にまで戦いが波及するということは極めて稀だった。しかし、相手がラント王ともなれば、都市の制圧が戦争の勝敗を左右することは十分に知っているはずで、となれば、戦いが、市街地のような狭い範囲へと及ぶことは必然で、であるならば、それに対抗するためにも、そうした場面での戦闘を想定した訓練を行う必要があるだろう。そこで雄星は、それに則した形で訓練を行うよう、トナミに提案し、彼も、それを快く受け入れて、提案に沿って訓練を行うことにした。

 訓練は厳しかったが、当然、軍人であるからと言うのもあっただろうが、不平不満を述べる者はなかった。それどころか、訓練の内容がとても新鮮であるらしく、皆が積極的に課題に取り組んで、みるみると吸収していった。そうした中で、雄星は、モラナ、ライル、ロイルという三人と仲良くなった。モラナは女性で、ライルとロイルは兄弟だ。三人とも遊星と同年代で、軍務の経験は浅かったが、能力は高くとても優秀だった。それはイカリも一目置くほどで、将来は部隊を任せることも考えているという。それを聞いて、今後、力を貸してもらうときが来るかも知れないと、遊星は思った。そうして訓練を行う傍らで、雄星は代わりに、というわけではなかったが、近接戦闘の手ほどきを受けることにした。平和な世界で、普通に暮らしている分にはさほど必要のない技能ではあるが、こちらの世界は戦争が身近にある状況であるし、万が一のことを考えて、自分の身を守る術を学んでおくのは悪い事ではないだろうと考えたのだ。

 それから数か月が経った頃、とある吟遊詩人が王都を訪ねてやってきた。年のころはヤナ王より少し若いくらいで、肉付きの良い体つきで、髪型は鶏のトサカみたいに逆立っていて、眉から顎先までが端正に整っており、ハンサムという形容詞がピッタリの顔立ちだ。背中にはギターによく似た形の弦楽器を背負っていて、袖口にひらひらのついた色鮮やかな衣装で身を包んでおり、その出で立ちは吟遊詩人と言うより、舞台役者か或いは歌手といった印象だ。

 吟遊詩人というのは、エンターテナーとしての側面だけでなく、その性質上、各地の出来事に詳しく、故に、そうした情報を手に入れるにはうってつけの人物なので、大概はどこでも歓迎された。そのため、ヤナ国でも、ヤナ王自身が賑やかなことが好きだというのもあって、吟遊詩人は歓待され、その夜は宴が開かれることになった。彼は、旅の中で見聞きしたことを物語として語り、各地の伝承や説話を歌にして聞かせた。いずれも興味深い内容ばかりで、誰もが、彼の歌に魅了された。

 吟遊詩人は一週間ほど王都に滞在し、その後は再び各地を巡る旅に出るのだという。その間、彼は朝起きてから夕刻まで、市井を回っては市民を相手に物語を語り聞かせ、城内においては噂好きの女性や、彼の話ではなく彼自身に好奇心を募らせた女性たちを相手に、その甘い言葉と歌声で、彼女たちの耳と心を潤わせた。

 そうして、いよいよ最終日となったその日の夜、遊星は客室のドアを叩いた。

「おや。これは、これは」

 扉が開いて、吟遊詩人が顔を出した。突然の訪問に驚いた、というよりも、どこかうれしそうな表情を浮かべていた。

「宜しいでしょうか? 少し、お話がしたくて」

 吟遊詩人は首肯して「丁度良かったよ。実は僕も、君と話がしたいと思っていたんだ。さあ、どうぞ」

 室内は照明が落とされて少し薄暗い。寝るにはまだ早いし、その準備もされていないから、彼の好みでこうしているのだろう。荷物もそれほど持ち歩いていないようで、部屋はがらんとした印象だ。奥の方から煙と共に香油の香りが漂ってきて、心がすうっと落ち着いてくる。

「そこに座って」

 吟遊詩人は扉を閉めながら、ベッド近くのテーブルに差し招いた。

「お茶の一つも出したいところなんだけど、用意ができていなくて済まないね。その代り、話しならいくらでもできるよ。なんなら歌でも」

 彼はそう言って、雄星の向かいに腰を下ろした。

「いえ、僕の方こそすみません。気が利かなくて」

 雄星はポリポリと頭をかいた。以前、カミラがお茶を手に彼のもとを訪ねてきた時のことを思えば、彼もそうすべきだったのかも知れない。

「いやいや。いろいろとあちらの世界とは違うことも多いからね。しかたがないさ」

「でも、雰囲気が似ているので、その点では助かってます」

「君はヤナ王と同じ国の出身なんだってね」

「ええ。僕のこと、ご存じなんですか?」

「うん。有名人だからね」

 詩人はそう言ってニヤリとした。

 雄星は両腕を脇へと広げ、自分の服装を眺め見て「やっぱり、目立ちますか」

「それはね。でもそれ以上に、いきなり戦場に現れて、ラント軍を蹴散らしたっていうんだから、当然さ」

「蹴散らしたは大袈裟です。ほんのちょっと、何人かを倒しただけです」

 雄星は困惑顔ではにかんだ。

「それで十分さ。それに、物語というものは、尾ひれ背びれがついて広がるものだよ」

「あなたが語る物語も?」

 吟遊詩人は笑って「その方がうけがいいからね」

「僕のは控えめにしてください。というか、真実をありのままで」

「それじゃ面白くない」吟遊詩人は顔をしかめた。そして惚けたような表情になって「それに、もう遅いよ。ちなみに、広めているのは僕じゃないよ」

 雄星はため息をついて「うわさは遠くから、ってことですね」

「なんだい。それ」

 雄星は笑って「いえ、何でもないです。ところで、僕と話したいと思ってたって、言ってましたね」

「うん。実は、僕も君と同じ異世界人なんだ」

「そうなんですか?」雄星は目を丸くした。「とてもそうは見えません」

「だいぶ馴染んだからね。そうなるとほとんど区別なんてつかなくなるよ。こちらで生きていくなら、やはりこちらの文化に染まるのがいいからね」

「どうやってこっちに?」

「バスルームでシャワーを浴びていたら、急に気が遠くなってしまってね。気が付いたらこちらの世界にいたんだ。裸だったもんだから、大変だったよ」

 吟遊詩人はカラカラと笑った。

「それは大変でしたね」雄星もくつくつと笑う。「あちらでは僕は学生でしたけど、ええと……」

 吟遊詩人ははっとして手を差し出し「自己紹介がまだだったね。僕はスエル・テュペロ。スエルでいいよ」

「僕は阿良田 雄星です」

 雄星は手を握り返した。詩人の手は滑らかで柔らかかった。

「雄星だね。よろしく。それで、僕は向うじゃ、俳優とか歌手をしていたんだ。これでも結構、有名だったんだぜ」

「そうなんですね。でも、スエルというのは向こうでの名前じゃないですよね」

「もちろんさ。僕の名前はね……」

 雄星はその名を聞いて目を丸くした。

「詳しくは知らないんですけど、名前は聞いたことがあります。たしかに、有名だったみたいですね」

「だった、と過去形ってことは、僕はもう死んでる?」

「はい。一応、死んだことになってます。生存説なんて言うのもありますよ」

「生存説か、それは面白いね。実際、こうして生きてるわけだけど」

「でも、もし生きてるって知ったら、みんな卒倒しますよ。何年も経って突然現れたりしたら」

 スエルはくつくつと笑って「それはいい。エンターテナーとして、突然現れてびっくりさせるのも悪くはないね」

「それも、向こうに戻れれば、の話ですけど」

「そうだね……戻りたいかい?」

「もちろんです。スエルさんは、戻りたくないですか?」

「どうかな」スエルは腕組みして、遠くを見つめた。「こっちの生活も悪くはないし、それに、仮に戻ったとしても、僕の親しい人はもういないだろうから、きっと、寂しい思いをするだけだろうね」

「でも、あなたに会いたがっている人はいると思いますよ。その人たちはきっと、喜ぶに違いありません」

「そうかもね」スエルは肩をすくめた。「もし、元の時代に戻れるなら、僕も戻りたいね。それで、君が話したいことというのは?」

「はい」雄星は椅子の上で姿勢を正した。「王様に謁見したとき、ラント国に最近、異世界から来た人間がいる、と言う話をしていましたね」

「うん。確かにしたね」

 スエルは腕組みをした。

「顔とか様子とか、どんなだったか覚えてますか?」

 スエルは首肯して「覚えてるよ。年恰好は君と同じくらいだね。そうだな」彼はそこで雄星の顔をじっくりと見つめて「よく見てみれば、どことなく君と印象が似ているね」

「本当ですか?」

「本当だとも。僕は人の顔を覚えるのは得意なんだ」

 雄星の顔に、みるみると希望の色が溢れてきた。

「もしかしたら弟かもしれません。僕と一緒にこっちに来ているはずなんです。でも、どこにいるのか行方がわからなくて……」

「そうか、それは心配だね。それで、それが弟さんだとして、どうするつもりだい?」

「連れ戻したいと思ってます。二人きりの兄弟ですから」

「なるほど」とスエルは頷いてから考え込んで、やがて言った。「だけど、それはちょっと難しいと思うな。彼を見たのは王宮の中でなんだ。平民が中に入るのは不可能だよ。それに、ラント国に入国するのですら、簡単ではないんだ。チェックが厳しいからね」

「でも、スエルさんは入れたんですよね?」

「だって僕は」スエルは両腕を広げて見せて「見ての通り、ただの吟遊詩人だから。それでも、なにか疑いを持たれようものなら」と親指で喉をかき切るしぐさをして「これだからね」

「物騒ですね」雄星は顔をゆがませた。「どうしてそこまで警戒するんです?」

「小心者なんだよ。いつか寝首をかかれるんじゃないかとビクビクしてるのさ」

「それだけ、思い当たる節があるということでしょうか」

「かもね」スエルは肩をすくめた。「僕は知らないけど」

「いずれにしても、弟は助けなきゃ。いい方法がないか、考えてみます」

「うまく行くといいね。だけどくれぐれも、無茶はしないようにね」

「はい。胸に刻んでおきます」雄星は立ち上がると、ぺこりとお辞儀をして「長々とありがとうございました。すごくためになる話が聞けました」

「いや、僕の方こそ楽しかったよ。いつか、君のことを歌う日が来るかもしれないね」

 スエルは立ち上がるとそう言った。

「その時は、良いように歌ってください。尾ひれ背びれは適度に」

 あはは、とスエルは笑って「それは君次第だよ。それじゃ、いつかまた」

「はい。いつかまた」

 二人はそう言って固く握手を交わし合い、そして別れた。


「お願いがあります」

 王の私室、机を挟んだその向う、立派な造形の、背もたれの大きな椅子に腰かける国王に、雄星は言った。

「お願い? なにかな?」

 国王はそう言って、イカリに目配せした。席を外した方がいいだろう、との配慮だ。イカリはその意を理解して、立ち去ろうとするが、それを雄星は制止した。

「イカリさんもいてください。一緒に聞いて欲しいんです」

 イカリは頷いて、元の場所に戻った。

「それで、お願いとは、どんなことかな?」

「はい。ラント国に行きたいんです」

「ラント国に?」

 国王は怪訝な表情を浮かべ、目を見開いて眉を吊り上げた。イカリも同様に顔をしかめている。それほどに珍しい事なのだろう。王は続けて言った。

「理由を聞かせてもらおうか」

 雄星は、スエルから聞いたこと、そして、その人物が弟なのかを確かめて、弟なら連れ帰りたいと考えていることを話した。

「なるほど」国王は腕を組んだ。「それが本当なら、連れ戻したいであろうな。しかし、入国はできたとしても、王宮に入るには、正当な理由なくては難しいぞ」

「それはスエルさんからも聞きました。なんとかならないでしょうか」

「まだ、行っても良い、とは言っておらんぞ」

 国王は怒ったような顔つきをした。彼を、我が息子であるかのように思っているのかもしれない。

「お嬢様のじゃじゃ馬ぶりを認めているのですから、きっと、許可してもらえるんじゃないかと……」

 遊星は、探るような眼差しで王を見つめた。

 国王は、はっとした顔をして「これは一本取られたな」と愉快そうにカラカラと笑った。そして「だからと言って、容易に認めるわけにはいかん。が、しかし……」と思案顔になって、やがて言った。「うむ、そうであるな。そなたのお蔭で、兵どもの練度もだいぶ上がってきておるようだから、その尽力には報いねばならぬだろう。さて、イカリ。なにか良い策はないか」

「そうですね」イカリは腕を組んで思案し、ほどなく言った。「使者を送ると言うのはいかがでしょう。その護衛として、彼を同行させるのです。使者が謁見している間なら、彼も役目はありませんから、その間に目的を果たすことも可能でしょう」

「ふむ。して、用件はなんとする?」

「他人種への迫害について、ということで良いでしょう。もっとも、言ったところでやめるつもりはないでしょうが、我々としても、それを求め続けて行かなければならないことには変わりがありませんので」

「うむ。よいであろう」国王は首肯して、雄星に目を向け、言い聞かせるように「だが雄星。弟が無事に見つかったとして、帰国するまでに説得を成功させねばならん。失敗した時は、ひとまずは諦めるより他ないぞ。それで構わんな?」

「はい。でも必ず、成功させます」

 王は頷いて「よろしい」

「陛下。私からも提案があるのですが」

 イカリが言った。

「聞こう」

「使者に、探りを入れさせてはいかがでしょう」

 国王は眼光を鋭くさせた。

「例の件か?」

「はい。なにを企んでいるのか、なにを起こそうとしているのか、探るのに丁度よい機会かと」

「ふむ、ふむ」王は何度も頷いた。「よかろう。人選はそなたに任せる」

「はい」

 イカリはお辞儀をした。

 王は遊星に向かって「そなたも、今の件、心にとどめておいてくれ。ただし、他言は無用だ。良いな?」

「はい。わかっています」

 遊星は答えて、口をきゅっと結んだ。

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