DAY27 外套
いつもの帰り道が、今日はいつもと違う。
愛衣達の家から五分ほどの級友が風邪で三日ほど学校を休んでいる。テストも受けられていないのでとりあえずプリント類を持って行ってほしいと担任から頼まれたのだ。
彼女は小学校も同じで、時々遊んだりもしていた子だ。中学校になってから遊ぶことは減ったが同じクラスの仲間として今でも仲良くしている。なので愛衣は二つ返事で引き受けた。
頼まれたのは愛衣一人だったが、話を聞いた武瑠が「あのあたりは外灯が少ないから俺も行く」と言ってくれた。
いつもと違う道を武瑠と二人で歩く。
すごく違和感があって、すごく新鮮だった。
考えてみれば武瑠と二人でこんなに長い距離を歩くのは初めてかもしれない。
愛衣のそばにはいつも真衣がいる。
武瑠もそれを当然のことと思っている。
だからこんな機会でもない限り二人きりになることはなかった。
「タケちゃんと二人で歩くなんて初めてじゃない?」
「初めてではないと思うけど」
「そう? でも前がいつだったかも覚えてないぐらいだよね」
「歩くのはそうかもしれないけど、おまえ、ちょっと前に家に押しかけてきただろ」
「押しかけてとは失礼な。友と妹を思う姉心ゆえのことよ」
「姉心というより余計なおせっかいな気もするけど」
「タケちゃんドライだねぇ。あの二人がぎくしゃくしたら、わたし達だってなんか微妙になって困らない?」
愛衣の問いかけに、武瑠は少し黙ってから「困る、かもしれないけど」とだけ答えた。
けど、の続きもあるようだが、武瑠の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。
横を歩く幼馴染をちらりと見る。
武瑠が言っていたように、このあたりは外灯が少な目だ。すっかり陽が落ちるのが早くなってもうかなり暗い。
だからだろうか、武瑠の横顔も暗い気がした。
防犯面では武瑠がいてくれてよかったと思うが、この沈黙はちょっと嫌だ。
でも何を話していいのか判らない。
二人は無言で歩いた。
「あらぁ、愛衣ちゃんと武瑠くん、ちょっと見ない間に大きくなって」
友達の家に着くと母親がプリントを受け取りに出てきた。
「ありがとうね。さっき先生からお電話があったから伝えておいたけど、明日からはいけそうだから、またよろしくね」
「はい。お大事に」
挨拶をして家へと向かう。
「はぁー、陽が落ちると寒いね」
少し寒さを感じて愛衣は手をこすり合わせながらつぶやいた。
「テスト終わって部活始まったら体操服で帰るのに、上着持ってきてないからだろ」
「うっ、ごもっともで」
「風邪の友達のところに寄っておまえが風邪ひいたなんてことになったら、シャレにならないだろ」
言いながら武瑠は自分のジャンバーを脱いで愛衣に手渡した。
「えっ、いや、悪いよ」
「いいから着てろ。女は体を冷やすといけないんだっておふくろがいつも言ってる」
押し付けられたジャンバーを羽織りながら「おふくろって」と笑った。ちょっと前まで「お母さん」だったのに。
あったかい。
愛衣は不覚にもじぃんと感動した。
「変わっていくもんだろ。もう中学生なんだから」
「そうだよー。だからわたしは、多分真衣も、無理に変わらなくていいって思うんだ」
「……そうか」
「うん」
それを最後にまた無言になったが、今度は居心地は悪いとは思わなかった。
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