DAY26 寄り添う

 三日間のテストが終わり、愛衣あい真衣まいは自室で解放感に包まれていた。


「やっと終わったねー。まぁ結果はまた別の話だけど」

「うん。でも今回英語はちょっといつもよりよさそう」


 真衣が少し嬉しそうにしている。それは何よりだ。


 さてそれぞれ好きなことをするか、という雰囲気になって、愛衣はスマホを手に取った。


「愛衣ちゃん。ちょっと話聞いてくれる?」

 真衣が声をかけてきた。


 テスト後の浮かれた色は感じられず、むしろ沈んでいるような声に愛衣は驚きつつもうなずいた。

 真衣に目をやると、何かを心配しているような、戸惑っているような顔だった。


「みんなで勉強した日、しんくんにノート届けにいったでしょ」

「そうそう、なんで忘れるかな、大事なノート」


 愛衣は笑ったが、真衣の戸惑いの表情は崩れない。


「真くんにおいついてノート渡したら、追いかけて持ってきてくれるなんて愛だ、って言われて、思わず、そういうの迷惑だって言っちゃったの」


 うわぁ、と愛衣は漏らした。


 二人の時にそういう冗談、多分本当にそうだったらという願望も混じってるだろうが――を言ってしまう真にも驚きだが、真衣がそこではっきり拒絶するとは驚きだ。もっと当たり障りなくやり過ごしていたのに、ヘイトがたまって爆発してしまったのだろうか。


「ちょっとキツかったなって思ってる。けど、好きじゃない相手からそんなふうに言われるのって困るの。わたしの好きな人は、真くんじゃないから」

「そりゃあ、ねぇ」


 真衣の気持ちも判る。相手が自分を好きだという気持ちを乗せた言葉を容認していたら、好きな相手に「真衣は真が好きなのか」なんて誤解されるかもしれないのだ。

 その好きな相手が、武瑠たけるだとしたらなおさらだ。


「あれからも真くん、いつもどおりで、でもそういう絡みはしてこなくなって、すごく気を使わせてしまってるなぁって思うんだけど。……ほっとしてるんだ、わたし」


 それも判る。今まで負担に思ってたなら、それがなくなれば安心するのは当然のことだ。


「わたし、ひどいよね。……なんとなく気づいてた。真くんのあれが、ただのからかいとか茶化しだけじゃないってこと」


 あぁ、やっぱなぁ、と愛衣はうなずいた。


「でもそういうことなら、はっきり言ってもらって、あいつもよかったんじゃないかな」

「そうなの?」

「自分の言動が真衣すきなひとにとって嫌なものってのは、つらいと思うよ。真衣だってそうじゃない?」


 真衣はちょっと考えるしぐさをしてから、うなずいた。


「ってことで、今のままでいいと思うよ」


 愛衣の一言に、真衣はやっと表情を緩めた。


 それだけ心苦しく思っていたなんて真衣は優しいなぁと思った。


 それにしても、と愛衣は思う。

 人を好きになるって、ふわふわしていて幸せそうだと思っていたが、結構精神的にキツい面もあるのだなぁ。

 今のところ恋心とは縁遠い愛衣だが、いつか自分もそこまで好きになる相手が見つかるのだろうか。

 その時は、ふわふわの恋でいたいものだと真衣を見ていて思うのだった。

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