DAY25 幽霊船

 テストの日の朝。

 双子姉妹と武瑠たけるは少し余裕を持って登校した。


 教室に入って、真衣まいしんが来ていないことを確認して、少しホッとする。


 昨日のあれは、言い過ぎたかもしれない。

 だが真衣の本心の一部でもある。

 謝るのも違うと思うし、当然とふるまうのもまた違う気がする。

 どんな顔をして真に会えばいいのか、判らなかった。


 時間ギリギリになって真が駆け込んでくる。周りの席の子達とワイワイやっている姿は、いつも通りだ。


 よかった、と真衣は思った。


 しかし真が元気だったのは朝だけだった。

 テストを受けるたびに彼の顔から笑顔が抜け、三時間目が終わった頃には魂まで抜けているような顔になっていた。


「まるで幽霊だな」


 帰り道で、武瑠に指摘されている。


「おおぉぉ、我はこの幽霊船の船長。この世に安寧などない。我が滅ぼしてくれよう。さぁ行くぞ皆の者……」

「船長、安寧って漢字書ける?」

「ぐおおおぉぉっ」


 おどろおどろしく見せる真だが、愛衣あいの一言に本気で悶えているようだ。


「それぐらい書けろよ、なぁ」


 武瑠が真衣に同意を求めてきたので真衣は笑いながらうなずいた。


「あぁ、わが同胞にも見捨てられし我は永遠にさまよう魂なりー」


 真の幽霊船船長の演技をバックに、真衣達は主だった問題の答えを確認しあった。


「あー、その辺り、武瑠や双子様達に教えてもらったところは解けたぞ」

「生き返った」

「双子ちゃんが双子様になってる」

「そりゃあ教えてもらえたんだからねー」

「調子いいな」

「それが俺だしー。それじゃ、また明日ー」


 ちょうど分かれ道に差し掛かったので真は手を振って離れて行った。


 ふと気が付けば、真に対する心苦しさがなくなっていた。

 真が、いつもの調子でいてくれたからだろう。

 そういうところは、ありがたいと思う。

 だからこそ少しだけ、真に対して申し訳ないと真衣は感じていた。


 もしも真が自分のことを好きでいてくれるのだとしても自分の気持ちを無理やり曲げることなどできない。

 真衣は武瑠が好きなのだ。

 ちょっと話しかけられただけでドキドキしてしまう。嬉しいと思う。

 こんな気持ちは真には感じない。

 これが友達と好きな人の差なのだろう。


 だから真がもしも真衣に好きだと言ってくれたとしても、その気持ちに応えることはできない。

 そしてきっと、自分が武瑠に告白したとしても同じ結果になるのだろう。


 だから真衣は行動を起こせない。

 真も、もしかするとそうなのかもしれない。


 まだまだ、このもどかしい関係から動けそうになかった。

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