DAY23 ささくれ

 今日は祝日で、明後日から期末テストである。

 幼馴染四人組は倉橋くらはし家に集まって勉強をしていた。


 真衣まいは苦手な英語の文法を愛衣あいに教えてもらっている。

 先日の宣言通り、しんは教えるより教えられてばかりだ。

 武瑠たけるはマイペースに課題に取り組んでいる。


 四人集まったが、あまり四人でいる意味は感じられない。

 それでもいつもと雰囲気が違うことで、真衣の勉強意欲もいつもより高い気がした。


 夕方になって、武瑠と真は帰っていった。


「あれ? これ真のじゃない?」

 愛衣が真の忘れ物に気づいた。

「まとめノート忘れるなんて、あいつ勉強する気あんの?」

 愛衣が笑っている。


「しょーがないヤツ。明日学校で渡そうか」

「学校で渡すのはちょっと……。それにノートないともし今夜勉強しようと思ってもできないからかわいそうだよ」


 愛衣の提案に真衣は異を唱えた。


 帰り際に「二日分ぐらい勉強した気分だなー」などと言っていた真が、今夜また勉強するかというと、確率はあまり高くなさそうだ。

 真衣が学校でわたしたくない理由は、ノートを渡すところをクラスの子達に見られたくないからだ。


 仲がいいのは否定しない。が、二人で勉強してたなどと誤解されたくない。


「あいつ、夜も勉強するかなぁ」


 愛衣も真の勉強意欲に対する感想は真衣と同じらしい。乗り気ではなさそうだ。


「じゃ、わたしちょっと行ってくるよ」


 真衣はノートを持って上着を着て外に出た。

 陽が落ちかけた外は気温が下がってきている。

 真衣は速足で真を追いかけた。


 きっとのんびり歩いているだろうからすぐに追いつくだろうと思っていたが、彼の背中が見えたのは彼の家の近くだった。


鎧塚よろいづかくん、待って」


 真衣の呼びかけに真は驚き顔で振り向いた。


「あれ、真衣ちゃん? どうしたの?」

「忘れ物だよ」


 ノートを差し出すと、真は笑顔になった。


「わあぁ、真衣ちゃん、俺のためにわざわざ持ってきてくれたんだ。ありがとうー! これはもう、愛っしょ」


 そんなんじゃない。


 真のおどけた様子の感謝の言葉に、苛立ちが膨らんだ。

 一気に大きくなってしまった拒絶の感情を何とか押し込めて、真衣はかぶりを振った。


「鎧塚くん。四人じゃない時、名前、呼ばないでくれる? あと、そういうの、ちょっと困る」


 何とかきつくならないようにと作り笑顔で言う。

 真の笑顔が、みるみるしぼんでいった。


「あー、そうだったね。ごめん倉橋。気分悪くしちゃってごめんよ。俺さ、ついつい大げさにいっちゃうとこあるからさー。かーちゃんにもよく調子に乗りすぎるなって怒られるんだよ」


 頭を掻いて笑う真の寂しそうな笑顔に、真衣は胸が痛んだ。

 いつも明るい彼の笑顔やおどけた言動は真衣の気持ちを慰めてくれることもある。

 自分は、都合のいい時だけ彼のそういうところを肯定して、都合が悪くなると否定する。


「ううん、こっちこそごめんね。それじゃ、また明日」


 これ以上、真の複雑な顔を見ていたくなくて、真衣は踵を返して速足で離れた。


 明日、どんな顔で真に会えばいいのだろう。


 心が落ち着いてくると、家に向かう愛衣の足取りは重くなっていった。

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