DAY22 遥かな

 今日は「いい夫婦の日」だという。

 何のことはない、ただの語呂合わせだ。11いい22ふうふ日と読めなくもないから。ただそれだけのことだ。


 しかし自身と夫婦は縁遠い中学生の真衣まい達にも、今日がいい夫婦の日であると広まっている。ひとえにネット社会の拡散力だ。この日にちなんで創作界隈では「推し」や自作の夫婦をアゲる人達もいる。


 書籍と同じくウェブ小説にも時々目を通す真衣の目にも、そのようなカップルの話が飛び込んできていた。


 しかしまぁ、一口にいい夫婦といってもカップルのパターンはたくさんだ。

 中には「だまし愛」や「殺し愛」なんていうものもある。


 それって、愛の形の一つかもしれないが、いい夫婦なの? と真衣は首をかしげるのである。


 うちのお父さんとお母さんはきっと、いい夫婦なんだろうな、とも思う。

 軽い愚痴を漏らしていることはあっても、いわゆる「ガチ喧嘩」をしているのは見たことがない。


 気難しい(けど変にロマンティストな)父に母が合わせているのかなと真衣は考えていた。


「ねぇ、いい夫婦でい続けるコツって何?」


 キッチンで夕食の準備をしている母に尋ねてみた。


「突然ねぇ」

「だって今日っていい夫婦の日なんでしょ?」

「あー、そういえばそうね」


 母が笑った。


「結婚前には両目を大きく開いて見よ。 結婚してからは片目を閉じよ、って言葉があってね。誰か有名な人が言ったらしいけど。まぁこれに尽きるんじゃないかな」


 母が言う。


 つまり結婚を決める前に相手のことをよく見極めておくことが、そもそも失敗しない結婚だと母は解釈している。

 そしていざ結婚したら、多少のことには目をつむるぐらいじゃないとお互いに細かいことが気になってしかたなくなるだろう、と。


「結婚したら、まぁよっぽどのことがない限り何十年か一緒に生活するわけでしょ? 遥か長ーい時間、一緒にいるのにぴったりくる相手を見つけることが一番じゃないかなぁ。そういう相手なら、ちょっとあわないことがあっても『許す』とか『妥協』とかじゃなくて自然に片目をつむって、まぁそんなところもあるよね、ぐらいですんでしまう、みたいな感じかしらねぇ」


「お母さん、たくさん目をつむってそうだね」


 真衣が茶化すと、乗ってくると思っていた母は微笑して「それは、お互い様なのよ」と言った。


「お父さんもきっと、たくさん目をつむってるわ、きっと」


 あぁ、お母さんって本当にお父さんのこと信頼してるんだなぁ、と真衣は思った。


「そうだ。せっかくいい夫婦の日なんだから日頃のそういうところに感謝して、ご飯の後に晩酌でもしちゃおうかしらね」

「それって単に飲みたいから理由つけてるだけじゃない」


 先日、解禁されたワインを飲んだばっかりだと指摘するとは母は肩をすくめて「バレたか」と笑った。


 しかし、なんだかんだ言って、両親が仲がいいのはいいことだと真衣は思った。

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