DAY18 微睡み

 期末テスト一週間前になり部活動は停止になる。


 いつもより早く帰宅した真衣まいは机に向かっていた。いくら嫌だといってもそれなりに勉強して、せめて平均点近くの点数は取らないといけない。


 真衣は単純な記憶力を要する科目が少し苦手だ。どちらかというと自分で考えて答えを導く方が好きだ。とはいえ、数学なども得意というほどでもないのだが。


 英単語帳を開いて新たに習った単語を目で追い、発音し、練習ノートに書き写してみる。

 今日は思ったよりも覚えが悪い。しかも部屋が程よく温かいものだから、やがて真衣はうとうととしはじめた。




 夢の中、一年生の頃の教室で新しくできた友達と話している時にしんが近寄ってきた。


「なー、真衣ちゃん」


 小学生と同じ呼ばれ方に真衣は顔をしかめた。

 なんか誤解されちゃう、と思ったのだ。

 実際、違う小学校出身の周りの子達が少し驚いている。


「もう小学生じゃないし、苗字で呼んでほしいんだけど」


 一瞬、真がとても寂しそうな顔をした。

 しかしすぐにいつもの人懐っこい笑顔になって言った。


「そっか、大人の付き合いってヤツか。倉橋、うん、なんか新鮮ー」


 そんなことを言いながら離れて行った。


 で、用事は何だったんだろう。

 気になったが、気にしないことにした。




 目が覚めた。ちょっと懐かしい夢に笑みが漏れる。

 結局あの時、真が何を話しに来たのかはわからないままだった。


 あの出来事の後も時々人前でも「真衣ちゃん」と呼ぶものだから一時期、真と真衣が付き合ってるという噂がちらりと流れたが、すぐに消えていった。


 真は愛衣あいのことも名前で呼んでいたし、だれかれ構わず親し気に話しかけるものだから、そういうキャラだとすぐに誤解が解けたのだ。


 真のことは嫌いではない。むしろ話しやすい数少ない男子の一人で、時に陽気な性格に救われることもある。


 だが、なんとなく、これ以上距離を詰めてきてほしくないと警戒する思いもある。

 真衣は真にそっけないと言われるのはそういう面が前に出ている時だ。


 真が向けてくれる好意がもし、真衣が武瑠に抱いているような恋心だとすると、はっきりと断らないとと思う。

 一方で、そうすることで四人の関係が崩れるのではないかと思うと、それは嫌だと拒否する気持ちもある。


 このまましばらくは「幼馴染四人組」でいたいと思うのは身勝手なのだろうか。


 答えは見つけられないまま。


 当面の大きな問題は期末テストをどう乗り切るかだと気分を切り替える。


 大きく息をついてから、真衣は再び単語帳に向かった。

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