DAY16 無月
どうしよう、
昨夜から、
愛衣がオルゴールの話を持ち出した瞬間、あの時の嫉妬がよみがえった。
じゃんけんとかくじ引きにしたら、と言い出したのは自分だ。
自分が武瑠と一緒がいい、と言い出せなかった臆病さゆえだ。
偶発に頼ったのだから、外れることも、武瑠と愛衣がお揃いになることもありえる話だし、そうなったとしても仕方ないのだと理屈では判っていた。
しかし実際そうなってしまうと、ただただうらやましいとしか思えなかった。
どうしてわたしと一緒じゃないんだろう。
オルゴールのことを思うとそればかりになってしまって、真衣は早々に作ったオルゴールを机の奥にしまった。
飾らないのは壊したくないからなんてもっともな理由をつけて。
封印されたオルゴールと一緒に、愛衣への嫉妬もしまい込んで忘れていた。
それなのに、愛衣の話で掘り起こされてしまった。
しかも武瑠はまだそれを机の上に置いているという。
武瑠は何の変哲もないオルゴールを机に置くなんて興味はないはず。
今も飾っているのは理由があるのだ。
愛衣と同じ曲のオルゴールだからだ。
真衣はそう思っていた。
だから、つい言ってしまった。
「でも愛衣ちゃんは武瑠くんと同じでよかったじゃない」
真衣に好きな人がいることは愛衣にはバレてしまっているのだから、これで愛衣が気づかないわけがないだろう。
愛衣とは、なんとなく気まずい。なんとなく愛衣も遠慮している部分があるのを感じ取れる。
今は聞かないでいてくれているけど、愛衣の性格を考えると、きっといつか面と向かって尋ねられる。
その時、真衣は冷静でいられるだろうか。
「おーい、ちょっと星見に行かないかー」
玄関から父の声がした。
そういえば今日は新月だった。星がよく見えるだろう。
気分転換にと真衣はうなずいた。愛衣も行くという。
二人はそろって部屋を出て玄関におりて行った。
車で五分ほど走ると川の堤防に着く。住宅街の明かりもここでは気にならない。
肉眼でもあちこちに星が見えた。
「わぁ、きれいだねぇ」
冷たい風に吹かれて少し震えながらも、真衣は愛衣と身を寄せ合っていろんな星座を探した。
「ほら、木星だ」
天体望遠鏡をセットした父が双子を呼ぶ。
交代でレンズを覗いた。
星の模様までうっすらと見えた。
すごいすごいと喜ぶと、父は機嫌よさそうだ。
「満月もきれいだけど、月のない夜には普段あまり見ない星がよく見える。現実と同じかな」
「現実?」
「一つの大きなことに気を取られていると、細かいことを見落としがちということだ」
そこから父の長話が始まったが真衣は最初の一言だけで十分だった。
今の自分は武瑠と愛衣のことで頭がいっぱいで、もしかすると他の細かいこと、大切なことを見落としてないだろうか。
もっと広い視野を持たないといけないのかもしれない。
武瑠も好きだが、愛衣のことも同じくらい好きだ。
真は、正直そこまでではないが、気さくに話せる数少ない男友達だ。
今はそれでいいんじゃないかなと思った。
「見に来てよかったね、愛衣ちゃん」
双子の姉の手を握った。
「うん」
愛衣もぎゅっと握り返してくれた。
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