DAY10 誰かさん

 しんと別れてから、愛衣あいは早速武瑠たけるに尋ねてみた。


「ねぇ、鎧塚よろいづかの好きな子って誰か聞いてる?」

「知らん。たとえ知ってても言わないけどな」

「なんでよ」

「おまえ、それ聞いてどうするんだよ」

「どう、って?」

「真のこと応援したりとかするのか? 相手の子とうまくいくようになんかするのか?」


 最初は好奇心にワクワクとした気持ちの愛衣だったが、武瑠の冷静な声に興奮がしぼんでいく。


「そこまでは考えてなかった」

「ただの好奇心で聞いて、それがもし悪い方向にいったら、おまえ責任とれるのかよ」

「悪い方向ってなによ。応援とか考えてなかったけど、わたし邪魔したりとかしないよっ」


 かっとなって言い返すと。武瑠は「それは判ってる」とうなずいた。


「けど、悪気はなくてもふと口を滑らせたら? そのせいでその『誰かさん』が変に意識したりしてあいつとぎくしゃくしちゃったら?」


 そういわれると言い返せない。知った事を絶対うっかりでも口にしない自信は、愛衣にはなかった。


「だからそういうことは知らないほうがいいと思う。俺もうまくいくように手伝ってくれとか頼まれたら聞くけど自分から聞こうとは思わない」


 ちょっと、その考えはかっこいい。


 愛衣は感心した。ただの俺カッケーの中二病患者ではなかった。


 そういえば武瑠は子供のころから優しかった。格好つけているだけで優しさが失われたわけではなかったということだ。


「でも真くんって男友達には聞きもしないのに自分から言いそうだよね。今日は秘密って言ってたけど、わたし達がいたからじゃない?」

 真衣まいが言う。


『俺さ「誰かさん」のこと好きなんだよねー。武瑠、協力してくれよ。友達だろー?』


 真が軽い口調で武瑠に絡んで行って肩を組みながら言うのが簡単に想像できた。「誰かさん」のところはテレビ番組でよく使われる「ピロリロリロ」という音が鳴っていた。


 愛衣は噴き出した。

 しかし武瑠と見ると、目を見開いていて、すぐに顔をそむけた。


「ちょっと、その反応」

「あれは、聞いてるね」


 愛衣は真衣と顔を合わせた。


「わっかりやすっ!」


 二人の声が綺麗にハモった。


 武瑠は顔をそむけたままだ。


「まぁでも、武瑠のいうこともうなずけるから、わたしももう自分からは聞かないよ」

「……おぅ」


 短く答えた武瑠の顔が、すごくほっとしたように見えた。

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