DAY8 幸運
『はーい、みなさんこんにちは。放課後放送クラブ活動の時間でーす。十分間お付き合いください。
今日は二年二組、
放課後の校内に真の声が響き渡る。
いつもはテニス部に参加していて聞けない
放送部は毎日十七時から十分間、校内放送を流している。
司会は交代制で毎日変わる。たまたま友達の放送の回に聞くことができて、ラッキーなのか、そうでないのか。
『まず、先週に募集していた「幸運だと思うこと」ですが、思っていたよりもたくさん集まりました。投稿箱にエピソードを入れてくださったみなさん、ありがとうございまーす。全部読み切れませんがまた紹介の機会があれば読ませていただきますね。あ、そうそう、ゴミとか関係ないのを入れるのはやめてくださいねー。放送部のメンタルがガクっとさがっちゃうので』
そんなことする子がいるんだ、と愛衣はくすっと笑った。
『では生徒の皆さんからの投稿をご紹介します。「テストで山掛けが当たった時」。あー、これわかりますねー。俺も昨日の単語テストで四分の一の確率にかけたら当たっていたようでラッキーと思いました。しかぁし! 勉強はきちんとしておきましょー』
最後はわざと取ってつけたような口調だ。
先生の機嫌を損ねるような放送をしたら怒られるらしい。それを逆手に取ってわざと茶化しているのだろう。
真は自身をエンターテイナーと言う。こういう面はあながち的外れではないのかなと愛衣は思った。
『次は「ずっと片思いだった相手が自分のことを好きだと判って幸せです」って、ノロケきましたー! 絶対この手の投稿はあると思ってました! いいですねー、青春ですねー。うらやましいぃ。どうぞお幸せにですよっ。そしてその幸運を俺に分けてください』
また茶化してと愛衣は笑うが、ふと最後の言葉に引っかかりを覚えた。
愛衣には好きな相手というのはいない。だからきっと人のそういう話を聞いてもふーんよかったね、で終わるだろう。
けれど真は幸運を分けてくださいと言った。
真には好きな人がいるのだろうか。
それとも自分が関心なさすぎなだけで、好きな相手がいない人もノロケを聞いたらその幸せを分けてほしいと思うものだろうか。
「まぁ別に鎧塚に好きな人がいるかどうかなんて、わたしには関係ないけど」
用事を終えて昇降口に向かった愛衣はつぶやいた。
そのころには、真は生徒からのリクエスト曲を紹介していた。
『それではみなさん、また明日! ファンレター、ではなくて、放送のネタ待ってまーす』
真の声はそこで終わり、流行りのアニメの主題曲が流れ始めた。
愛衣は歌を口ずさみながらテニスコートに戻って行った。
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