DAY6 双子

 昼休み。


「倉橋さん」


 廊下で後ろから声をかけられて、愛衣あい真衣まいは同時に「はい」と言って振り返った。

 愛衣のクラス担任が唖然とした顔で立っていた。


 彼女は我に返ると、「愛衣さんの方ね」と笑顔を浮かべた。




「なんであそこであんな顔されるかな」


 帰り道、真衣はちょっと面白くなさそうな顔で昼間の出来事を話した。


「そりゃあ、双子がハモって返事するだけじゃなくて、おんなじふうに振り返ったからでしょ」


 応えたのはしんだ。


「双子ちゃん、まるで鏡に映した一人みたいだったって、その場にいた子が言ってたよー」


 確かにあの時は、真衣と愛衣は隣に並んで話してたからそのまま振り返ると左右対称な動きになる。


「でもそこまで似てるの?」


 愛衣が聞くと真はこくこくとうなずいた。


「慣れてないとどっちがどっちか判らないよきっと」


 それは、ちょっとやだな、と愛衣は思った。


「先生も時々間違えるだろ」


 武瑠たけるがぼそりと付け加える。二人が似ているという補足だろう。


「そうなのよねー。似てるのはいいけど間違われるのはやだよねぇ。わたしはわたしだし、真衣は真衣だよ」


 愛衣の憤慨に真衣も我が意を得たりとうなずく。


「タケちゃんは?」

「間違うかよ。何年の付き合いだ。あと、タケちゃん言うな」

「えー、それこそ何年の付き合いよー」


 無邪気な姉と、彼女をじっと見て応える武瑠。

 胸が痛い。


「俺も俺もー。愛しの真衣ちゃんを見間違えるわけがないからねー」


 真が真衣のそばでぴょんぴょんしだした。

 悲しんでいるのが馬鹿らしく思えるような真の姿に、真衣はぷっと笑う。


「おぉ、真衣ちゃんが笑ったぞ。これは俺の想いを受け入れてくれたってこと――」

「それはないから」


 なおも調子づく真に、真衣はぴしゃっと言い放った。

 途端に元気をなくした真にまた真衣は笑う。


「おばさん達は間違えたことってあるのか?」

 武瑠が尋ねた。


「ないよ。赤ちゃんの頃は間違えないように名前入りとか、見分けのつく服着せてたりしたみたいだけど」


 そもそも双子の両親は、子供達をあまり双子扱いせず、同い年の姉妹とみているようなのだ。


「それじゃあ、二人は周りをからかったりしたことない? わざと入れ替わってみたりとか」

「少女漫画かい」


 真の質問に愛衣がつっこみで返した。


「あ、でも小学生の頃、愛衣ちゃんがお母さんをだまそうとして失敗したことあったよね」

「やってたんだ」

「あー、そういえばあったあった。真衣のこと呼んでたからわたしがはーいって返事したら、あなたは愛衣ちゃんでしょ、って秒でバレてた」

「さすが母親だなぁ」

「すぐにバレて面白くないからって、あれからやってないんだよね」

「やるとしたら完璧に準備しないといけないね」

「持ち物を完全に入れ替えるとか」

「意外に気づいてない癖とかもありそう」

「そう考えると、やっぱ双子でも別の人なんだよなぁ」

「……ってか、人をだます計画なんか練るなよ」


 真の家の分かれ道まで、四人の楽し気な会話が続いていた。

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