DAY4 琴

 音楽の授業で和楽器について習った。

 その日の帰り道で話題に上った。

 日本に昔からある楽器ということで、愛衣あいの感覚ではそれこそ古臭いイメージである。


「そうとも限らないと思うよ」


 軽く異を唱えるのは双子の妹、真衣まいだ。

 今でも琴や三味線は教室があるぐらいだし、流行っているというわけではないがずっと需要がある楽器だという。


「古臭いより男臭いと思うな、俺は」

 しんが言う。

「でかい和太鼓なんて筋肉男がめっちゃ汗流しながらすっげぇ力強く叩いてるし」


 なるほどそうかもしれないが、そんな言われ方をするとちょっと、と愛衣は苦笑した。


武瑠たけるは?」


 愛衣が尋ねると、武瑠は少し考えてから「お嬢様、かな」と答えた。


「和楽器っていったら琴が一番に浮かぶけど、すごくおしとやかな女の人が、なんてーの? しずしず? なんかそんな感じでさ」


 あー、と愛衣達は納得の感嘆を漏らす。


「そういうイメージだと、愛衣ちゃんより真衣ちゃんかなぁ」


 真がにこにこと、とても失礼なことを言った。

 四人だけの時や苗字では区別がつかないような状況では、真は双子を名前で呼ぶ。

 だから名前で呼ばれるのはいい。それよりも内容だ。


「それってわたしは全然おしとやかじゃないってこと?」


 睨みをきかせてやると真は目を大きく見開いて大げさに両手を前に出して振った。


「愛衣ちゃんよりも真衣ちゃんってだけで、愛衣ちゃんが全然似合ってないってわけじゃなくてー」


 逃げ腰の真にずいと迫ってやると、本当に逃げ出した。お別れポイントに近かったからか、そのまま「それじゃまた明日ー」と自分の家の方向へと走って行った。


「失礼なヤツねまったく」


 わざと腕組みをして不機嫌を演出してやると、武瑠と真衣は笑っている。


「けどまぁ、琴が似合うのは愛衣より真衣ってところは、ちょっと同意かな」


 武瑠までそんなことを言い出した。


「おまえもかっ」

「別に悪い意味じゃないよ。愛衣には愛衣に似合う良さがある」


 思いもしなかった武瑠のフォローに拍子抜けだ。


「なんかとってつけた感じー、ねぇ真衣」


 言いながら真衣を見ると、複雑そうな顔をしていた。


 どきりとした。


 いくら双子といっても、真衣の気持ちが全部わかるわけではない。

 しかし妹の表情が、何かあまりよくない感情を少なからず反映しているのは感じ取れた。


 真衣がそんな顔をしていたのはわずかな間で、もういつものように控えめな笑みを浮かべている。

 そういうところが、琴が似合うおしとやかなイメージにつながるのだろう。


「愛衣ちゃんはわたしよりいいとこいっぱいよ」


 いつもの妹の嬉しい誉め言葉。

 だがなんだろうか、愛衣の胸には引っかかるものがあった。

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