DAY3 落葉

 部活の時間もそろそろ終わりに差し掛かる頃、男子部員の方から笑いが起こった。


 ラケットを振る手を止めて愛衣あいがそちらを見ると、隣のクラス――真衣まいと同じクラスの男子、自称エンターテイナーのしんが部員の中に混じっていた。


 ただでさえ体操服のグループの中に制服姿で目立つのに、真は部員からラケットを借りて構え、さらに目をひいている。

 なんでコートの外でラケット構えてるんだろうと、ついつい注視する。


 ざぁっと風が吹き、コートのそばの桜の木から葉が数枚落ちてきた。

 すかさず真がラケットを振る。フォームなど無視しためちゃくちゃな振りで二枚の落葉を打った。


「見ろ。これぞ真流刀殺法」


 おぉとどよめきが上がった。


「一枚のがしてたぞ」


 すかさず指摘したのは武瑠たけるだった。

 実は同じことを考えていた愛衣はぷっと笑う。


「なんだよぉ。ケチつけるならおまえもやってみろよ」

「ふん、簡単だ」


 真の挑発に乗って、まるで抜刀前のような恰好で武瑠がラケットを腰の高さで握った。

 いつの間にか女子部員達も男子のやり取りを見つめている。

 ここで失敗したらかっこ悪いぞと愛衣はハラハラとニヤニヤの混じった目を向ける。


 ふわりと風が吹いて葉が落ちてくる。

 気合いの声で武瑠は「抜刀」した。バックハンドで振られたラケットは見事に葉を巻き上げた。

 歓声とわずかな拍手が起こる。


 毎年ああいうことする男子いるよねと言いながらも女子部員達も笑っていた。


「おーい、そろそろ終わる時間だぞ。あれ、鎧塚よろいづかなんでいるんだ?」


 顧問の先生がやってきた。


「友達迎えに来たんっす」

飯坂いいさかか。おまえら仲いいよな」


 言われて、真はにこにことうなずいているが武瑠は特に反応はしていない。


 武瑠と真は小学三年生の頃から仲良くなった。武瑠といつも一緒にいた倉橋姉妹も真と遊んでいた時期もある。

 今はさすがにあの頃より真との距離は空いたのだが。


 小学生の頃の友達も幼馴染っていうのかなと愛衣はぼんやりと考えていた。




 コートを片付けて(真も手伝わされていた)、校舎に戻ると昇降口で妹の真衣まいが待っていた。


「おまたせー」


 愛衣が軽く手を振ると真衣はにっこりと笑う。


「終わりごろにコートの何かやってたみたいだけど……?」

 真衣が武瑠達を見て首をかしげた。


「美術室から俺のことを見ててくれたんだね」

 真が芝居がかった、しかしちょっと嬉しそうな声で言う。


「パレット洗ってたら見えただけ」

 真衣は短く答えた。


 真衣は真にそっけない、と愛衣は感じる。別に嫌っているわけではなさそうだが。

 真は押しが強いし結構賑やかだから、少し奥手な真衣はついて行けないのかもしれない。


「いやいやそこは、そうなのーってノッておこうよ。同じ『真』の字の仲間じゃないかー」


 親し気に真衣の近くでぴょんぴょんしている真だが、真衣の体に触れたりしないところが距離感が判っているなと思う。


「鎧塚ってばさ、ラケット借りて落葉打ってたんだよ。武瑠もやってたし」


 真衣への助け舟も兼ねて、愛衣は先ほどの出来事を話して聞かせた。

 そんなことしてたんだ、と真衣が笑う。


「次こそは真流刀殺法を極めておかないとな。ところでさー、なんで紅葉狩りって、狩りなんだろうな。別に紅葉を取ってるわけじゃないのに」

「おまえ、そんなこともしらないのか」


 真の疑問に武瑠が応えている。


「あー、何でも知ってる俺に酔ってるね」

「ねー」


 姉妹は幼馴染達を見てクスクス笑い。


 真が別れるまで、そんなやり取りが続いていた。

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