DAY2 吐息

 夜。真衣まいは自室の机に向かいながら窓の外をちらりと見る。


 カーテンの隙間から見えるのはお隣の家の壁と窓。

 見えるのは隣の家なのに、向かいの幼馴染をふと思う。


武瑠たけるくん、今頃どうしてるかなぁ)


 考えて、ふぅ、と息をつく。


「どうしたー? ためいきなんてついちゃって」


 同じ部屋で小音量でテレビを見ている双子の姉、愛衣あいがすかさず尋ねてくる。


 物思いにふけりたいときは、いくら仲のいい姉妹でも別の部屋が欲しいと思う。


 本音を隠して真衣は愛衣の方へと顔を向けた。


「英単語がなかなか覚えられなくて」


 実際、真衣の机には英語の教科書が広げられていて、明日の単語テストのために勉強していた。


 しかし真衣の悩み事はそこではない。

 いつからだろう。武瑠を単なるお向かいさんの幼馴染以上に、好きになってたのは。


 中学二年になって急にクールキャラを演じるようになった武瑠は、とにかく格好をつけたがる。

 しかし本来の彼は話すと面白く、優しい男の子だ。


 姉と一緒に「青春病」をからかいながらも、真衣はいつの間にか武瑠を男の子として意識していることに気づいていた。


二組そっち明日テストだっけ。大変だねぇ」


 真衣の気持ちをまったく知らない姉は呑気だ。


一組そっちもそのうちあるから、今のうちに覚えておいたほうがいいよ」


 一応言ってみるが、愛衣は軽く「そうだねー」というだけでまたテレビの画面に視線を戻した。

 そんな愛衣に、真衣はまた一つ吐息を漏らした。




 朝、双子姉妹はお向かいさんの幼馴染を迎えに行き、三人そろって登校する。

 もう中二なんだし別々に投稿してもいいんじゃないかと言う武瑠だが、双子が迎えに行かないともたもたして遅刻するからと武瑠の母親に押し切られている。


「真衣、結局単語覚えれた?」

「まぁまぁ、かな」


 愛衣と真衣が並んで歩き、その少し後ろを武瑠がついてくる。こちらの会話など興味なさそうな武瑠の態度に真衣は少し寂しい。


(小学校の頃はきちんと二列になりなさいって怒られても、三人ぴったりくっついて歩いてたのに)


 学校に到着して、愛衣と武瑠は二年一組、真衣は二組の教室に向かう。


「それじゃね」

「単語テスト、頑張れよ」


 思いもしなかった武瑠の応援に真衣はドキドキを隠して「ありがとう」と応えた。


 教室に入って自分の席について、真衣は机に突っ伏す。

 頑張れよの一言でニヤニヤが止まらない。


「おーっす、なんだー? 倉橋、具合悪いのか? 朝食べ過ぎたとか?」


 うるさいぐらいの声が降ってきて真衣は顔を上げる。

 机のそばに立っているのは、クラス一のお調子者、自称エンターテイナーの鎧塚よろいづかしん。朝からハイテンションな笑顔だ。


「そんなんじゃないよ」


 武瑠の応援の余韻をあっさりと崩されて、真衣は長い長い溜息をついた。

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