14.いつも告白は突然に

「……なんだね?言ってみなさい」


 深閑な空気が蔓延るリビング内に、厳粛に満ちた声がこだました。そこには検事の声色というよりも父親の要素が多く含まれている——そう思ってしまうのは、この先に放つ言葉を示唆しているからだろう。大丈夫だ、と自分自身に言い聞かせるように短く息を吐き出し、自分でも言い訳がましいと理解していながら、それでも示し合わせるように、俺は言葉を並べていく。


「今日の正午過ぎ、俺とやよいはゲーム対決をしました。きっかけは昨夜、やよいからもらった一本の電話です」


 あのときは、俺自身も伝えなければならない用件があった。そんなとき、まるで図ったかのようなタイミングでやよいの方から着信があったのだ。最初は単なる偶然だろうと疑いもしなかった。


「そう、あのときから、いやそれ以前からどこか不自然さというか、違和感じみたものを俺は感じていました」


 そう言って、その要因に一役買ってくれた男の顔をちらりと見ると、さっと視線を逸らされた。……君だよ君、親父、あんただよ……。しかしすかさず横から飛んできた小突きに「うがっ⁉︎」という呻き声を漏らすことになっていた。


「そして、部室で親父達から着信が来たとき、うちに検事さん達がいるということを知り、違和感は確信へ。つい先ほど親父や母さん、検事さん、そしてかなえさんと言葉を交わし、今やっと理解することできました」


 今度はかなえさんを他全員が一斉に見遣る。

 針のむしろとなった二人目の戦犯は、てへぺろと舌を出しているあたり自分が犯したことの重大さが理解できないでいらっしゃるのだろう。

 だが、俺にとってそれは間違いなくプラスに働いてくれた。ファンプレーだ。あれだけ言葉に出されたらどんな鈍感だろと察してしまう。今思えば、もじもじくねくねしていた先ほどのやよいの反応はその事実に一足先に辿り着いていたからなのだろう。   

 ならば、随分と待たせてしまった。

 少なくとも俺は、十七年間この日が来ることを待ち望んでいたというのに……。

 だから今日この場を持って、後腐りとか、劣等感とか、御託とか欺瞞とかそういったすべてを過去ここに置いて、今、前に進んで行こう。

 あとは簡単なことだ。ただこの気持ちを言葉にすればいい、たったそれだけで明日の景色は変わっている。

 息を深く吐き出し、そして、ゆっくりと吸う。もう一度も吐き出し、想いを音へ、音は声に、声を形に。

 そうやって、十七年間溜め込んできた想いを、溢れんばかりの感情を、初めて外に送り出す。


「俺は……俺は、やよいのことが好きです。大好きなんです。親父達の打算とか企てとか関係なく、ずっと、物心つく前からずっと、彼女のことが好きだったんです。そして、今日のゲーム勝負でやよいが俺に勝利を譲ってくれるのなら、『一回言う事を聞かせる権利』を今、この場で公使しようと思っています」


 口頭は親父達に述べ、後半からは体の向きを変え、今にも顔面から火が吹き出しそうな心境を鋼の精神で堪え抜き、隣に座る幼馴染みを真っ直ぐ見据えて言った。


「……そんの、嫌よ……」


 けれど、俯いた彼女から帰ってきた言葉は見事なまでの否定的な返答だった。


「……え?」


 思わず、呆けた声が漏れ出た。次いで、バン!といった四つの衝撃音がリビング内を響かす。これまた思わず視線を向けると、大の大人達四人がこぞってローテーブルに両手を付き、身を投げ出すような形でこちらを食い入るように見ていた。

 ……やめて、見ないで!こっちはめっさ恥ずかしんだから!くそっ、穴はどこだ⁉︎


 とまぁ、思ってもみなかった言葉の応酬に、現実逃避を図る俺がここにはいた。いや、一世一代の告白が泡となって消えていった瞬間とでもいうべきか……。なんにせよ、早くも諦念という概念に捉われそうになる。そんなときだった。

 抜け殻のようになった俺の鼓膜に鈴音のように凛とした声色が駆け抜けていったのは——。


「私は嫌よ。罰なんかであなたと結ばれるのなんて絶対に嫌!ずっと大切に育ててきたこの気持ちは、そんな動機ではこれから先は育っていかないに決まってるもの!いつか枯れてしまうような想いなんて、恋なんて、私は求めてない!ずっと片思いの方が良いに決まってる!」


 キッとこちらを睨みつけ、彼女はそう言った。

 そして——。


「私は駿と、大切で大好きな幼馴染みとは、この先も遥か未来も隣に立っていきたいと思っているんだから……だから……だから!」


 その先のセリフを俺は聞くことはなかった。なぜなら、幼馴染みの涙に染まっていく顔が俺の胸の中に埋まっていたからだ。ふと気がついたときにはすでに彼女を抱き締めようと両手を広げていた。そこに気恥ずかしさなど微塵も感じなかった。見ているこっちが痛くなるほど気丈に振る舞うそんな幼馴染みの姿を見ておく方が俺には耐えきれなかったのだ。


 甘い香りが鼻腔を撫でる。艶のある亜麻色の髪が首筋に当たって少しくすぐったい。ぐすんと鼻を鳴らす幼馴染みの髪を撫でながら、形の良い耳に一言、「ごめん」と囁いた。


「……許さないんだから」


 背中のYシャツがぎゅっと握りしめられる。

 ……制服に皺がつくからやめてほしい……なんて空気の読めないことは口にしない。この場で俺に残されている選択肢は一つ、それは誠意を示すことだけだ。


「じゃあ、どうしたら許してくれるんだ?」

「もう一回、もう一回だけ私と勝負しなさい」

「……このタイミングでそれを言うのかね、君は」

「あなたも知っているでしょう?私、負けず嫌いなの」

「いいや、違うね。君はオスカルばりの負けず嫌いさんなんだよ」

「ふふ、それは光栄ね」

「だな。今世紀最大の栄誉に違いない。……んじゃまぁ、この流れに乗って一刻も早い名誉挽回に勤しもうとしようかねっと」


 人知れず胸を撫で下ろすと、俺は宣言通り実行しようと腰を持ち上げようとする。

 しかし、結果としてそれはままならなかった。簡単だ。華奢な体が一向に俺を離してくれないのだ。

 それに、全然意識していなかったが、確かな大きさと適度な柔らかさと弾力を併せ持った双丘が胸筋あたりに押しつけられている。


「あの……やよいさん?」

「何よ?」

「その……なんて言うか……、お達しの通りPCを立ち上げに行きたいんで、離してもらっても良いですか?」

「ええ」


 返答の「ええ」のニュアンスは確かに肯定的なものだった。しかしどうだろう、言葉とは裏腹にどんどん圧迫感が増していってはいないだろうか?その証拠に体を動かそうとも全く身動きが取れないのです。


「あの……やよいさん?これは一体?」

「ええ、そうね」

 相変わらず、やよいはそう呟くだけで離そうとはしなかった。

 ……ふむ、ひとまず落ち着こう。大丈夫だ俺、ここは一旦深呼吸だ。一回深呼吸しとけば世の中大概なんとかなる(自論、または横暴)。

 しかし困ったことに、相変わらず返事たけは良好で、動きが矛盾している幼馴染み。恐らく、今、俺は試されているのだろう。何を? うーん、甲斐さ、かな。……嘘ですわかりません。誰か教えてください。


 こうやって自問自答から現実逃避をこれでもかとかましたところで状況は好転してはくれない。背に腹はかえられぬと、俺が口を開こうとしたとき——しっとりとした、されど柔らかな感触に言葉を奪われ、生憎と声らしい音は出なかった。


 時間にして何秒だったのか、あるいは何十秒だったのだろうか。初めて間近に見た幼馴染みの睫毛はやはり長かったんだったなぁ、と、そう思っている間に、彼女は俺から離れていて、淑やかに立ち上がっていたのだった。


「…………————っん⁉︎」


 体を追い越していった脳に思考が追い付いてきた時、魔法が解けた。

 鼻腔に残る甘い香り、唇に残るほのかに甘い味と柔らかな感覚、確かな鼓動の高鳴り。

 ふいに振り返った幼馴染みは、蠱惑的な微笑を浮かべていた。


「これは勝利報酬の先取りよ」


 ……先取り。それは自分以外の第三者よりも先に物を取ったり、事を行ったりすること。また、事後に受け取るべき代金や利子、または商品などを先に受け取ること。

 ……よし、これで思考は切り替わっ——れるものか!おい⁉︎今俺何されたんだ⁉︎え?何?そもそも何って何?何がナニでナニが何⁉︎えっ、わからなーい、もうナニが何だか何がなんだかさっぱりわからなーい!

 だが、安心してくれていい。

 わからないのならわかっているやつに訊けばいいだけの事、あれ、俺って天才なんじゃね?


「……今の、何?」

「?……何って、そんことも知らないのかしら?」


 あなたバカなんじゃないの?と言わんばかりの目を向けられた。


「え?いや、そういうことじゃなくて……」

「じゃあ、どういうことなのよ?」

「……だからその……えーと、なんと言いますか……あっ、やっぱなんでもなかったようです、はい、なんかすみませんでした」


 不甲斐ない、なんで俺はこんなにも不甲斐ないのだろう。

『キス』をしてきたその訳を知りたかったのに、あまりの気恥ずかさから自分でも何て言ったらいいのかわからなくなってしまったではないか……。ちっ、これだから会話のキャッチボールとか、コミュニケーションとか嫌いなんだ。もどかしい、俺はただ事実を確かめたかったのに……。

 けれど、だからといって、キスされたことに対して、自分からその確認のために尋ね直すなんて真似もしたくないし、そのそも年齢=彼女いない歴の人間に対してハードルが高すぎる。

 だいたい、この幼馴染みは何も思うところがないのだろうか。普通、こう云うのって女の子の方が恥じらいを見せるもんじゃないのか?

 だがどうだろう、目の前の彼女は当たり前のように、ごく自然にキスをして、さも平然としている。

 なるほど、『女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている』とはよく言ってものだ。……んで、マザーグースさん、結局何かってなんすか?


 不幸なことにマザーグースはもうこの世に存在しない。後ろ髪を引かれる思いで、結局俺は、もう一つの譲れないポイントに着眼点を置くことにしたのだった。


「……てか、なんで最初からお前が勝つ前提なんだよ?」


 不幸中の幸い、投げかけた問い掛けに、彼女はあっけらかんと口を開いた。


「前提じゃないわ。これは確かなプロセスなの」

「プロセス、ね。んじゃ、俺の勝利は確かなプロミスってな」

「何よ、それ。全然面白くないし、上手くもない、それでいて勝つのも私よ」

「……おいおい、ダメ出しだけでは飽き足らずにさりげなく勝利宣言までしようとは……この欲張りさんめ」

「ふうん、それが私という女よ。何か文句でもありまして?」

「……いいえ、何にも」


 睨み合った視線の間にはバチバチと電撃が走り、そして俺達は——


「「……っぷ」」


 どちらともなく笑い出したのだった。

 しかし、それと同時にある人達のことを忘れていたことも併用して思い出した。

 ねっとりと絡みついてくるような視線がおよそ四つ。

 恐る恐る首をそちらの方へと傾けてみると、案の定、そこには完全に蚊帳の外になった親父達の姿があった。

 あの赤恥をかいた場面とまったく同じで、四人ともローテーブルが軋むほど、身を乗り出していたが、一様に安堵の表情を浮かべているのなぜだろう。

 そして、浮かべる表情も安堵とはいえど、その度合いも各人格様異なっていた。

 やよいも俺の様子から状況を察したようで、生暖かい視線に耐えきれず頬を朱色に染めて俯いてしまった。

 こうなってしまった我が幼馴染みは使いものにならない。これもまた、学校のみんなは知らない音無やよいの一面なのだ。

 ……やれやれ、ここはどうやら俺の出番のようだ。

 俺はさも主人公のようなモチベーションで立ち上がり、幼馴染みの隣に立つ。


「……」


 しかし、いざ隣に立つと、生来ヘタレが小根に焼きついてしまったゲームオタクにとって、些かアウェーな光景に口を噤んでしまう。どうやら俺は人のことはとやかく言えないらしい。


「駿、どうした?いきなりそんなとこに突っ立てよ?」


 そんな俺を見兼ねたのか、あるいは気遣ったてくれたのか、親父の思考回路は読めないが、俺にとってその疑問は充分にありがたい言葉だった。

 実のところ、立ち上るところまでは良かったのだが、恥ずかしながら親父達の顔は見れていなかったのだ。

 しかし、古来より人間という生き物は、コミュニケーションをとり続けることによって、この時代まで生存を果たしてきたのだ。そしてそれは、現代でも変わることなく受け継がれ、発展させてきた。それが現代となっても人類の遺産となり大事にされる理由であり、項目の一つとなっている。


 そんな教示の中に、『他人と会話を交わす際にはその人の顔を見て話をしましょう』という教えがある。この常套句は、現代を生きる人間なら誰しも言われてきた言葉だと思う。かくなる俺も、幼い頃からそう教えられてきた人間だ。

 ゆえに俺が、親父の問いかけてきた弾みで自然とその方向へ視線を向けることは必然だった。


 そして俺は見た。


 親指を立てあっけらかんとした笑みを浮かべる母さんと、その下敷きになったいた親父は、いつの間にか右手に抱えていた一升瓶をこちらに向け豪快に笑っていた。

 それだけだけではない。

 小田原夫妻の横には、「まぁまぁあらあら」と呟きながら自分の顔を両手で覆い、うねうねと器用に体をくねらせるかなえさんが居て、その横に座る検事は、ブリッジをひたすらスチャスチャさせてえらく満足げに鷹揚していて——。

 そこで俺は、自分が見誤っていることに初めて気がついたのだった。


 心のどこかで、俺は音無やよいという少女に相応しくないと思っていた。一言で表現すれば、彼女は天才だ。

 生まれ持った才能が、磨いてきた研鑽までもが、彼女の才能であり、俺にとっては等しく眩く、憧れで、尊敬で、自慢の幼馴染みだった。でも、それはいつしか、劣等感を芽吹かせる種子でもあった。

 そして撒かれた種子は、皮肉なことに彼女に憧憬を抱く俺の惨めなさから水分を経て、種皮を破き、発芽するころには完全なる好意を彼女に抱くことができなくなっていた。

 でも、誰しも、どんな人間でさえ、抱く感情は自分だけのものであり、またその人だけの問題でしかないのだ。それを他人が理解を示してくれるとも、受け入れてくれるとも限らない。それでも受け入れろというのは独善であり、独りよがりなのだろう。


「……なんだよ、全部、俺のことじゃねーか」


 今、それに気がついた。今日、気がついた。

 親父を、母さんを、検事さんを、かなえさんを、そして幼馴染みの想いを、この瞬間湧き上がってくる偽らざる本心に照らされて——。


「親父、頼みがある」


 拳を握りしめる。この想いを叶えるために、今言わなければならない言葉がある。


「なんだ?言ってみろ」


 ローテーブルから乗り出していた親父は、そう言うと居住まいを正し、一升瓶を机に置いた。

 親父に悪いが、俺はもう躊躇うことはやめた。短く息を吐き捨て、頭を下げながら俺は言った。


「引っ越しの件、悪いけど父さんと母さんだけの話にしてくれ!俺は、俺はもっとやよいと一緒に過ごしていたいんだ。今、俺が口にしていることは二人に負担をかける身勝手な言い分だということもわかってる!だけど、俺は……俺は!もっとやおいと一緒にいたいんだァ!」


 放った言葉はフローリングを反してリビング全体に反響した。追って静寂が現れる。横から息を詰まらせる声が聞こえてきた。恐らくやよいは驚愕してるのだろう。無理もない、なぜならこの話は、今この瞬間まで言わせてもらえる機会が与えられていなかった事情だっだからだ。しかし後悔はない。主張を曲げるつもりはもっとない。 

 そして俺から言えることはもう残っていなかった。

 重苦しい沈黙が蔓延った小田原家に、再び音が戻っできたのはたっぷり五秒ほど経過したとき。

 未だフローリングと向かい合う俺の鼓膜を響かせたのは、呻くような親父の低音だ。


「……なるほど、お前の望みはわかった。だが、息子よ、お前の言葉を許容することはできない」

「な、なん——」

「なぜですか⁉︎」


 顔を上げ、俺は説明を要する言葉を放とうとしたが、先に家屋全体を震わせたのは俺の横に立つやよいの甲高い高音だった。

 おっかなびっくり横を見遣ると、目尻に雫を浮かべながらキッとねめつける幼馴染みの姿があった。


「ま、待ってくれやよいちゃん!さ、最後まで話を——⁉︎」


 これには親父もびっくり、一瞬で額に冷や汗を浮かばせ、両手を懸命にバタつかせ弁明を乞う。だが、いや、もはや案の定と言わざる終えないだろう。親父の弁明の一声は例の如く母さんの溝打ちで幕切れとなった。しかも今日一の威力……。

 だが、親父が蹲ろうがやよいの主張は止まることはなかった。なぜか?そう、初めから彼女、音無やよいは小田原壱馬のことなど眼中になかったからだ。

 やよいの鋭い眼光が差すは彼女の父である音無検事、ただ一人。


「父さん、これは一体どういうことですか⁉︎」


 やよいの詰問に臆すことはなく、検事さんは淡々と応答する。


「これは、とは何を指して物を言っているんだ?」

「しらばっくれないで!そんなの、引っ越しの件に決まっているわ」

「ふむ、そのことか」


 座布団の上で居住まいを正していた検事さんだったが、そう呟いた途端、おもむろにい膝を崩し、その場で胡座をかくと、あっけらかんとした口調で言った。


「あれはフェイクだよ」


 ……フェイク?

 英単語で表記するとFakeのあのフェイクか?しかし待て、それ以前に話の流れが全然わからんのだが……?引っ越しの件?それは小田原家の問題だったはずだ。彼女が憤るのもわからなくもないが、その件に検事さんが関わっているとも思えない。……いや待てよ。このリビングに足を踏み入れたとき、確か親父は検事さんに向かってこう言っていた、

『作戦考案者のお前が説明しろよ』と————。

 つまり、今起こっていることは、起こっていたことは全て演技だった、この状況を作り出すためのブラフだったということなのだろうか。作戦とは、いわば目的達成を果たすうえで行うはかりごとである。では次に検事さん達四人が企てた果たすべき目的は何か?

 頭を悩ます俺は、やよいとその父親の会話から一刻も早い情報の収集を図る。


「……フェイク、フェイクですって?では、私達が引っ越しを行うという事実もフェイクということなの?」


 切望を込めて放たれたやよいの言葉。だが、非常にも彼女の父親は首を横に振ったのだった。


「いいや、それは事実だ。だが——」


 と、そこまで言葉を区切り、検事は、母さん、かなえさん、そして青い顔をした親父の順に視線を交わしていき、最後にこう言ったのだった。


「しかし、それは私とかなえ、そして壱馬と美代さんに限った話なのだよ。だから、私達四人が我が家を留守にしている間、君たち二人が我が家を守ってくれないだろうか?」

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