13. いつもこの想いは突然に ──やよいside
「検事さん、一つお話があるのですが良いですか?」
彼はそう言って、私の顔を見てから一つ頷いてみせた。
きっと私の思いが伝わったのだろうと、単純にそう思った。
けれど、今日という日を境に、しばらく幼馴染みという立場はお預になってしまうことにだろと、そう察してしまった。
寂しい?悲しい?悔しい?辛い?切ない?もどかしい?虚しい?…………わからない。でも、わからないからこそわかることがある。
それは、皮肉にもきっとその全部が当てはまってしまっていることだ──。
今、この空虚な心に浮かび滲んできた想いはすべて本物だ。等しく私のものだ。幼い頃からひとつひとつ、大事に、丁寧に積み重ねてきた想い詰まったブロック達。ひとつとして形も大きさも同一なものはない唯一無二の感情達。
いつも不安定で、抑えていなければすぐに倒れてしまいそうな癖に、人一倍気丈なのだから余計に達が悪い。
だが、それが私のなのだ。
正直自分でも面倒くさい女だと思う。嫉妬深く、いじっぱりで負けず嫌い。甘えん坊だし、構ってくれないとすぐに拗ねてしまう。
そして、その傾向は一人の幼馴染みの男の子に対して強く抱いてしまう。しかし逆説的にいえば、家族以外に丸裸な私を見せている唯一の男の子ということにもなる。
少し癖のある黒髪。覇気を感じさせない横顔と瞳。筋の通った鼻筋、ちょっと乾燥した唇。
今こうして見てみると、意外に整った容姿をしている幼馴染み。今思い返せば、幼、小、中、高の約十四年間、厳密に言えば出生児の頃からいつも一緒だった幼馴染みは、たびたび私以外の異性から告白されることもあった。
その度に、何気なく、さり気なく私に意見を求めてくる毎に、私の心臓は嫌な痛みに苛まれてしまうのだから本当に勘弁して欲しかった。
他人の告白を当人以外の他人が口出して良い筈がないというのに。……そのぐらいわかりなさいよ、ばか……。
けれど、そうはいっても気にならないわけがない。
放課後呼び出された幼馴染みの後ろ姿を視界に映すだけで些か心臓に悪すぎるのだ。
私は、中学生の頃から生徒会活動に参加していた。生徒会室は校舎の三階、一番右隅に位置しており、窓辺からは体育館裏、つまり告白スポットとして風潮が強い場所が見えてしまうのだ。
そして、そんなときに限って幼馴染みの告白される日にちと生徒会の会議が重なってしまう。
思えば、幼馴染みの告白シーンはいつも同じだった。
女子生徒が胸に手を当て、愛を囁く。後ろ姿しか見えない彼はおよそ一言だけ告げる時間を要したあとに、女子生徒の方が走り去っていく。毎回決まってこのパターン。最初の頃はジェットコースターにでも乗せられている気分だったが、数回同じ光景を見せられる頃にはメリーゴーランドに乗車する前の面持ちにまで持っていくまでに成長(?)を遂げていた。
結局会議自体には集中することが叶わなかったけれど……。
会議が終わると、私は駿のもとへ何食わぬ顔で駆け寄り、それとなく、あくまでもナチュラルに、ごく当たり障りのないように告白の答えを聞き出すのだ。
「……普通に断ったけど」と、なんでもないように、されど申し訳なそうにぶっきら棒に答えるのはいつも同じで、けれど、そうだと既知しているが、どうしても気になるものは気になってしまうので仕方がない。あくまでもされげなく、が、ここでは重要なのだ。
そして、今、あの頃から幾分と歳を重ねた横顔からは、いつもの腑抜けた瞳の色から打って変わり、決意と覚悟に満ち溢れたものとなっていた。
「…………」
これはいけない。ダメだ、反則だ。見てはいけない。魅せられる。この瞳が私を盲目にする。日頃はどうしようもないゲーム好きで、灰色に染まっているのに、そんな彼がたまに見せる真剣な表情はどうしようもないほど輝いて見えるのだ。
私は思う。
この感情は一生変わることはないだろう──と。
結末は如何様になろうとも、これからもこの感情とは一生、懸命に向き合っていくことになるのだろう。
今思えばずっとそうだった。
何人、何十人の人達から愛を囁かれようが、今、この瞬間まで、この私は、一度たりとも揺らいだことがなかった。
ああ、そうか……。 気づいた、今、気づいてしまった。
今までずっと、私は夢中だったのだ。
十七年間変わることはなかった、この感情に──。
生まれてきたときからずっと、初めて隣にいたそのときから永遠に、私は彼に夢中なのだったのだ。
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