第6話 心の中にある闇

「はい!これは没収!」

「ああああっ!」



男子生徒がチャイムが鳴ったのにも関わらず、堂々と、H本を見ている所を取り上げた。



「放課後、取りにおいで。本当、好きねー。そういうの」

「そりゃ男だし」

「で?顔がメインなの?それとも体のパーツ?好みはあるだろうし」


「えっ!?いや…それは言えない」

「はいはい、分かりました。はい、みんなーー、チャイムはとっくに鳴ったわよーー。席についてーー」




席につく生徒達。



「ちなみに、そんなに興味あるなら、H本じゃなくて彼女の一人や二人つくってHしちゃえば?男の子から男になるチャンスよ」


「先生、案外、大胆発言ッスね!」


「だって、今の子は早くにいるんじゃないの?先生達があなた達位の時は半分以上カップルいて経験済みが、ほとんどだったわよ。そんな私も彼氏はいました」


「えええーーっ!」

「はい、話はここまで! H.R. するよーー。はい出席取りまーす!」



ガラッ

戸が開く。




「おはようございます」

「おはよう。相変わらずギリなのね。香崎 裕矢」

「ギリでも良くね?大体、優佳ちゃんが来いって言うから、俺、頑張ってる方だと自分では思うけど?」


「もう少し早く来れないの?」

「えーーーっ!低血圧だから無理!」


「低血圧……そう…まあ来るだけでも褒めてやります」


「つーか……朝から先生の恋愛話なんて興味ねーし!」


「聞こえる位、大きい声で話したつもりはないけど?」


「廊下に丸聞こえだったけど?」

「あり得ないから」



クスクス笑う香崎君。



私は出席を取る事にした。






――― 放課後 ―――



「失礼しまーす」


H本を取りに訪れる生徒。



「あ、来た、来た。やっぱり必要?」


「それは…自分の小遣いで買った本だし」


「そう?ともかく今回は罰として取り上げたけど、今度からは、こういう本は持ってこない事。もし、見るならバレないようにしなさい!まあ、持ってこない方が一番なんだけど」


「はーい」



生徒は帰って行く。





その日の夜。



「ねえ、何処か行こうよーー」

「ごめんなさい…あの私…急いでいるんで」



うちの高校の女子生徒に声を掛けている所に遭遇した。



「そんなの良いじゃん!ご飯奢るからさご飯食べに行こうよ!」

「結構です!お腹いっぱいなので」



私は彼等に近付く。



「お兄さん達、じゃあ私に奢ってくれない?」

「あ?何だよ!おばさん」

「お、おばさんっ!?」



私に向かって失礼な奴等だ。


年齢的に変わらない気もするけど、おばさん扱いには私も腹が立つ。




「今、可愛い子に声掛けてんだし、おばさんは黙ってろよ!」

「そうそう。おばさんは早く帰っちゃいなってーー。ねえねえ、こんなおばさんは放っておいて何処か…」




バコッ



バコッ



「ってーっ!」

「何すんだよっ!」



二人の胸倉を掴み引き離す。




「おばさんの連呼をどうもっ! どう見たって私とあなた達は変わらない年齢のはずだけど!?私がおばさんなら、高校生からしてみれば、あなた達は、おじさんよ! お・じ・さ・ん・!高校生があなた達を相手する訳ないでしょう!?」



「何だよ!そんなの分からねーだろっ!?」


「うちの生徒に手出さないで!」



私は上目遣いをし、お色気仕掛けで誘ってみる事にした。



「…ねぇ…それより高校生相手する位ならさぁ…私と楽しい事しない?飲みに行っても良いしぃ~、それともラブホに行く?」



私は二人の腕に自分の腕を絡め、わざとらしく胸が当たるように仕向けた。




「いや…辞めておきます」



そう言うと絡めた腕を離し去って行った。




「あ、あのありがとうございます」

「いいえ。大丈夫だった?うちの生徒だったから目に付いて…送ろうか?もう遅いし」

「いいえ、迎え待ってて」

「そう?」



その時だ。




「あっ!迎え来ました!本当に助かりました!ありがとうございます!」


「いいえ」



女子生徒は、頭を下げ去って行った。





「ねえねえ、おばさん」



私の肩を背後から誰かが、トントンと叩く。

つい、振り返ってしまった。




「やっぱり、おばさんって認めるの?」

「えっ!? こ、香崎君っ!? 何してるの?」

「別に。おばさんを見掛けたから声を掛けてやっただけ」


「声…掛けてやっただけって…仕方なく言わんばかりの台詞をどうもっ! ていうか、おばさんじゃないからっ! どう見たって彼等と私は年齢変わらないはずよ!」


「クスクス…」

「信じられないっ!帰ろっと!じゃあ」



私は帰り始める。



「なあ、もし二人があんたとH付きの付き合いになってたらどうすんの?」


「えっ?」


「あー、でも別に初めてじゃねーし関係ねーか。逆に燃え上がってアイツらをリードしてたかもな」


「何言って…第一、おばさん呼ばわりのアイツらよ!逆に盛り下がるんじゃない?シャワー浴びてる間に逃げられてるから」


「ぷっ…ハハハ…そりゃありえる!だって、22歳のおばさんだもんな?色気ねーし!あのやり方じゃ俺も行こうという気になんねーな」


「あー、そうでしょうね!?一児の母だし!若さないし!垂れまくりだから!」


「ハハハ…おもしれーっ!認めんだ!」


「ていうか、いつからいたの?話しを聞く限りでは、近くで様子を見てた感じに聞こえるんだけど?」


「ああ。先生が奴等の所に向かっている時にはいたけど?楽しく拝見させて貰った」

「だったら助けようと気にならないわけ?」

「ねーな!」

「最低っ!」


「好きな女なら助けてやるけど、何とも思ってない女にむやみに近付くのは避けてーな!下手に想い寄せられてもかなわなねーし、良い迷惑だから!」


「………………」


「あんたは俺の先公で、俺はあんたの生徒。俺達の間に愛だの恋だの生まれる方が方がおかしいから!」


「………………」


「禁断の恋も良いんじゃない?あなたも今まで付き合った異性はいるだろうし」


「ああ、いたけど真実なんてねーな!正直女って分かんねーし!」


「えっ?」

「みんな信じねー!」

「…香崎君…」

「じゃあな!」

「ま、待って!」


私は帰ろうとする彼をつい、引き止めてしまった。



「何?」

「いや…えっと……」


「………………」


「最初に俺に深く関わんなって言ったはずだけど?」


「……それは……」

「だったらあんたに話す事は何もない!俺の心ん中に土足で入んの辞めろよな!」

「私はそんなつもりはない!」

「じゃあ、どういうつもりなんだよ!ただの高校教師だろ!!」


「話を聞く事は出来る!」

「ただ興味本意で聞きたいだけだろ!?」

「違うっ!」


「………………」


「じゃあさ、その証拠に屋上から飛び降りてくんね?」

「死んだら聞けないし!その前に私にそんな度胸ないから」

「この前、悪ふざけしていたの誰だよ!つーかさ過去に自殺しようとしたんだろう?だったら出来るんじゃねーの?」


「簡単に言わないで!そんな事…今の私には出来ないわよ!絶望的で…崖っぷちに立たされない限り」


「だったらさぁー」




グイッと私の腕を掴み引き寄せ至近距離になり、ドキッと私の胸は高鳴ってしまった。



「強姦事件でも起こして、もう一度妊娠させてやろうか?先・生」




バシーーンっ!


私は香崎君の頬を思い切り叩いた。



「………………」



「……子供なんて……二度とごめんよ!……でも、あんたがそこまで言うなら応えてやっても良いけど!?」



「………………」



「例え強姦事件だとしても、私を妊娠させるって事は、それなりの覚悟はあるんでしょうね!?父親になる気、一切ないわけじゃないんでしょう?香崎 裕矢」



「………………」



「私の元夫は結婚するつもりで私のお腹に生命を宿した。一緒に育てようって……そう言ってくれた……私も…そのつもりだった…」


「…だけど…子供を愛せなかった…」


「…そうよ…でも…あなたが人を信じられないとか……理由…何か原因あると思うから助けてあげたいの…」



「………………」



「何が出来るか分からないけど…でも…」

「あんたが…先生じゃなかったら…良かったのにな……」


「えっ?」


「先生じゃなかったら…俺は…心開いていたけど……先生である以上…一生無理だろうな…じゃあな!先・生」



「………………」


















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