第5話 過去
飲んでほろ酔いだった私は、高校生の時に自殺を図ろうとした場所にたまたま足を運んだ。
そこへ、私の生徒である彼、香崎 裕矢が現れた。
どうやら私が自殺を図ると勘違いをしていると勘違いして……
そこは、まさかの工事中。
そうとは知らなかった私を助けに来てくれた彼だったんだけど……
「ねえねえ、寄ってかない?」
私は、お礼を兼ねて部屋にあげる事にした。
「生徒に言う台詞か? 俺も一応、男なんですけど」
「うん、知ってるよ。でも、私に手出さないんでしょう? お礼を兼ねてと思って……さっき香崎君がいなかったら私はここにいないよ。今頃、病院か、もしくは…あの世逝き」
「冗談をさらっと言うなよ!」
「彼氏いないし大丈夫よ。安心してあがって」
香崎君は、渋々、部屋にあがる。
「コーヒーで良い?」
「別に何でも」
「じゃあ、水道水ね」
「おいっ!」
「アハハ……嘘よ」
≪本当に先公かよ≫
そして、香崎君は、1つの洋服に目が止まる。
「なあ…これ……」
「何?」
私は振り向き視線を向ける。
香崎君は、ハンガーにかけられているコートに目が止まって近くまで歩み寄っていた。
「あー、それ? 3、4年前に見ず知らずの男の子が貸してくれたの。本人に要らないって言われて……いるならあげるけど?」
「いや、いらねーし!」
「そう? はい、コーヒー」
「ああ。頂きます」
コートから離れ、腰をおろす。
「あのコート、私が、18の時、自殺しようとしていた日に貸してくれたの」
「えっ!? 自殺!?」
「うん、さっきの所。私、その当時、お腹に赤ちゃんがいて育てる気もないし一層の事、死んじゃおうって思ってたら助けてくれた男の子がいて……」
「………………」
≪聞き間違いじゃなかったんだ……≫
「だから……同じ場所で助けられたの香崎君で2回目。まあ、今回は自殺じゃなかったんだけど……」
「………………」
「その時、貸してくれたコートがあれ」
私は指を差す。
「あの時……相当寒かったから、あの子風邪引かなかったかな?」
「そんな事よりも……子供は産んだの?」
「えっ?」
「いや……気になって……」
「産んだよ。でも、育てる気なくて元旦那に任せっきりで母親らしい事、一切してなくて元旦那は夜逃げ同然出て行った」
「………………」
「私……他人の子供を見て可愛いとか思えるのに…自分がお腹を痛めて産んだのに…全然愛せなかった…」
「…優佳…ちゃん…」
「…私が産まなければ…もっと…幸せな家庭で産まれる事出来たと思う。…本当…最低な母親で女としても人間としても最低なんだよ」
「………………」
「あっ、ごめん…暗い話になっちゃったね」
「…いや…」
「だから、バツイチで子持ち。あっ! これ内緒ね」
「それは……」
「22歳で良いお手本にならない最低教師。子供を愛せないって事は生徒も愛せないって事になりかねないから」
「それは違うと思うけど」
「えっ?」
「だって、あんた一生懸命じゃん!」
「香崎君」
「例え、バツイチでも子供いたって俺達と向き合ってくれてんじゃん! 違うの? 俺は先生らしい事してくれてると思う。あんたは良い先生だよ」
「ありがとう」
「それじゃ俺はこれで」
「えっ?帰っちゃうの?」
「外泊しろって? あー、それともあんたは生徒の俺にその気ありな訳?」
「ないです!」
「実はコーヒーに眠り薬入れたりとか?」
「してません!」
「ヤバイ……俺……体が……」
「変な事言わないで!」
私は香崎君の手を掴み追い返すように外に出す。
「ほら、帰った! 帰った!」
「ええーっ!寄って行かないって、あげておきながら、そりゃねーだろう?」
「えっ!?や、やだ!あんたこそ、その気あったんじゃないの?」
「あるわけねーだろ!」
「じゃあ、さようならー」
「………………」
彼は渋々帰るのだった。
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