第4話 交差する影
「はい」
それはある日の事だった。
偶然に学校の屋上にいると私に一本の電話が掛かってきた。
「…えっ!?…何言って……私に連絡されても困るんだけど!…第一…私は…その子の面倒を見る資格なんてないんだから! 私は、もう死んだ事にしておけば良いじゃない! その方が、その子にも良いはずよ!二度と連絡してこないで!」
ピッ
私は携帯を切る。
「………………」
ガシャ
金網フェンスを握り締めるとゆっくりと体を崩して行く。
「優佳ちゃーん」
ビクッ
名前を呼ばれ驚く私。
慌てて涙を拭き、振り返る間もなく、グイッと腕を掴まれ立たされ顔をのぞき込む人影。
「気分でも悪いの? 顔色悪いけど」
そこには、香崎君の姿。
「違……大丈夫……気にしないで」
「別に気にしねーけど」
「そうだよねー」
私は足早に去り始める。
グイッと、背後から抱きしめられた。
ドキッ
「ちょ、ちょっと……」
「少しだけ抱きしめてやるよ。先・生。何があったか知らねーけど……泣いた跡……」
ギクッ
「はい!終了!」
「ば、馬鹿……だ、誰かに見られたら……」
クスクス笑う香崎君。
「案外、照れ屋さん?」
「違います!先生と生徒だからよ!」
「ふーん」
「も、戻ろう!」
私は、足早に去った。
私の背中を見つめる香崎君。
「……どうしてか……彼女の存在は……あの時の女と交差すんだよなぁ~…病気かなぁ~俺」
あの時の女
彼は
私を誰と
照らし合わせているのだろう?
――― ある日の夜 ―――
「ここだ……私が自殺をしようとした所……本当……あの時は崖っぷちに立たされた気分だったからなぁ~……」
私はとある建物のビルを見上げながら、階段をのぼり向かう。
しかし、そこは現在工事中だった事など知るよしもなく ―――
「今じゃ、足すくんじゃいそうだけど……」
「………………」
ほろ酔い気分の私は悪ふざけしてみた。
流石にあの時のシチュエーションは出来ない。
一歩一歩、ゆっくりと下の街並みをのぞき込む。
「こわっ!私……ここから飛び降りようとしてたんだ……懐かしいと言うべきか……」
私はゆっくりと下がる。
「優佳ちゃん!」
ビクッ
突然名前を呼ばれ驚く私。
「きゃあっ!」
「早まんなよ!」
「えっ?」
振り返る視線の先には香崎君の姿。
「自殺するんじゃねーぞ!」
「自殺? 何言ってんの?私、死のうなんて一切思ってないから」
「と、とにかくこっちに来な!」
「今、そっちに向かってたけど? ていうか何、そんなに焦ってるの?囲ってあるんだし大丈夫でしょう?」
私は手を伸ばし金網に触れる。
と、同時に
「触んなっ!」
と言う言葉と共に、フェンスがグラリとバランスを崩す。
ビクッ
「きゃあっ!」
グイッと、私の腕を掴まれる。
ドサッ
ガシャーン
フェンスが倒れた。
「………………」
≪嘘……≫
「寿命縮まったじゃねーかよ!」
「ご……ごめん…」
ドキーッ
至近距離にある顔に胸が大きく跳ねた。
押し退け体を離す私。
「ここ、工事中なんだけど! 札下がってたはずだけど?」
「札?気付かなかったんだけど」
「立ち入り禁止なんだよ!」
「嘘……」
ムニュ
両頬を摘まむ。
「……ぃたい」
「本当だし!お前、馬鹿?」
私の両頬をから手を離す。
「………………」
「ともかく早く帰れ!」
「やだ!」
「はあぁぁぁっ!?」
「だってここは、私が自殺……」
「えっ?」
「ううん! 何でもない! 帰ろっと!」
「………………」
私は帰り始める。
後を追うように香崎君も帰る。
「送ろうか?」
「平気」
「そう?」
「でもやっぱり送って」
「えっ?」
「だって送るつもりだったんでしょう?」
「それは……一応、女だし…」
「れっきとした女です!」
「生徒に寿命を縮ませる迷惑先生だけど」
「何それ!一言多いんじゃないの?」
「うるせーな!」
私達は姉貴に騒ぎつつ街中を帰る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます