第12話 都合のいい二人

「ウタ、そんな話私には一度も……」

ミナミは驚きを隠せない。


「そりゃそうでしょ」

リカは冷静だった。


「え?」

「みんなに無精子症がばれたら、子どもの父親になれないじゃない」

「……自分の子どもじゃないって解ってて、それでも子どもが欲しかったってこと?」


リカは頷いた。


「一生手に入らないと思っていたものが、急に目の前に現れたんだからね」


リカがははっ、と笑って言った。


「確かに奇跡だよね」


しばらくの沈黙の後、


「……あのさ」


ミナミが先を急ぐように話を戻した。


「それで、タクミが誰の子か、って話よ」


リカは頭をあげた。


「は?今さらなんの関係が……」


「結婚したいの」

ミナミが真剣な顔で言う。


「タクミの本当の父親と。だからタクミを返して欲しい。彼もそう言ってる」





車の中で、リカは悟に、ミナミとの会話を全て話した。


「本当にいつもバカみたいに勝手」


リカはため息をつく。


「タクミはこの事?」

悟はリカの髪を優しくなでながら言った。


「まだ言ってない」

「そうか」


「タクミに決めさせるべき……?」

リカは不安そうに言った。


「……さあ、どうかな」

悟は優しく言った。


ミナミの話では、タクミの父親は政治家で、当時ミナミを愛人にしていたそうだ。


ミナミは妊娠が解るとそれを相手に告げずに、すぐに別れたらしい。


『どうしてもあの人の赤ちゃんが欲しかったから』


ミナミはそう言っていた。


そんないびつで激しい愛情を見せるミナミが、リカにはとても意外だった。


社会的地位と、家庭がある人。

子どもの父親が誰なのか、世間にバレればあの人に迷惑がかかる。絶対に疑われる事があってはいけない。


そう思ったミナミが目を付けたのが、落ち込んでいるウタだった。


「お互い都合が良かった、ってわけだよ」

リカはそう言いながら、少し笑った。


「……とにかく、タクミの気持ちだよね」

「うん、そうだな」

悟はまだ、リカを撫でている。


「……私、犬みたい」

「え?」

「さっきから私、よしよしされてる」

リカは少し不満そうに言った。


「いやなの?」

悟が微笑む。


「ううん、そうじゃないけど」

リカは悟を抱きしめた。


「今日は優しいな、と思って。悟じゃないみたい」

「おい、俺がいつ優しくなかったんだよ」


そういって悟もリカを両手でくるむ。


もし私がミナミだったら、どうしたかな。


悟の胸の中で、リカはそんな事を考えていた。

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