第11話 理想の家族

何気ない提案だった。


子どもの頃にした病気で男性不妊になった人がいる、それをウタが何度も言うので、そんなに気になるなら検査してみたら?


軽い気持ちで、リカはウタにそう言ったのだ。


結果を聞けばスッキリするだろう、

ただ、それだけだった。


リカが19歳の時、二人は結婚の約束をしていた。


子どもは三人。犬を飼って、優しくて暖かい家庭。どこにでもいる、でも堪らなく幸せな、そんな家族に二人は憧れていた。


ウタは無精子症だった。


手術や治療の可能性を探ったが、結果は子どもが出来る可能性は0%、という残酷なものだった。


結果を聞いて、ウタはリカが声をかけられないほどにショックを受けた。


自分のせいでウタを傷つけてしまった、リカはそんな提案をした自分を責めた。


「私たち、二人じゃ、だめ?」

リカは繰り返す。


「私、ウタがいてくれたら、それで幸せだよ?」


「そうだね……」

ウタはいつも優しく笑っていた。


しばらく1人で考えたい。


そうウタに言われ、リカはショックをうけた。


ウタは自分から離れようとしているのではないか。不安が募る。


「……私、ウタが好き」


リカはウタにそばにいて欲しかった。

全てのプライドを捨てて、しがみつきたかった。


でも、自分のせいでウタを傷つけたリカに、それは出来る事ではなかった。


「もちろん、俺もリカが好きだよ」

「わかった。……待ってる」


そんな時、ミナミがウタに近づいたのだ。


あまりにも突然で、不自然だった。

ミナミには当時、決まった恋人はおらず、恋愛には奔放で、男には不自由していなかった。

リカの恋人であるウタに興味を示したことなど、これまで一度もなかった。


ウタも浮気をするような性格ではない。


偶然会って、元気がないウタを慰めるため飲みに行った、酔った勢いで一夜を過ごし、妊娠した。


リカは二人のそんな説明に、全く納得がいかなかった。


何度も何度も、ウタを責めた。


何で?どうして?

ウタの子どもを妊娠したなんて、ミナミのウソに決まってるのに!

だって、だってウタは……!


「違うよ」


ウタは、泣いているリカを突き放した。


「俺の子だよ。奇跡が起きたんだ」

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