第10話 告白
「まさか、あんたと先生がね」
「ミナミに関係ない」
リカは苛立ちながら言った。
「何しに来たの」
あれから悟を1人で帰して、場所をリカの自宅に移した。
ミナミは黙っている。
「タクミさ……」
ようやくミナミは口を開いた。
「中学、希望どこにした?」
リカは思う。
何を隠しているんだろう、この人は。
話があるなら、早く言えばいいのに。話し出す糸口を探しているように見えた。
「関係ないでしょ」
「それがあるのよ」
困った、とでも言いたそうに、ミナミは天を仰いだ。
「は?もうタクミには会わない約束でしょ」
「あんたさぁ」
ミナミはニヤリと笑って言った。
「タクミ、邪魔でしょ?」
「ふざけないで」
リカは冷静に言った。
こういう事を言われるのは想定内だ。
「先生との事なら、交渉の材料にはならないわよ」
「邪魔なら引き取ってあげる」
「……」
ミナミはいつもこうだ。
リカの話をまるで聞かない。
「その話なら帰って。答えは出てる」
「……ウタがさぁ」
突然、ミナミがタクミの父親の名前を出した。
「なに?」
リカは戸惑う。
その名前を聞くと、いつも胸の奥がギュッと痛む。
タクミの父親は宇多丸といった。
本人は変な名前だと言って気にしていたが、周りからは『ウタ』の愛称で人気があった。
どこまでも優しい男だった。
リカを捨てた、あの時以外は。
「ウタが死んで、もう10年経つんだよね。タクミがもう中学生なんて、ウタ、ビックリするだろうな」
ミナミが笑って言う。まるで故人のきれいな思い出話を共有するように。
「……」
冷静に、冷静に。
リカは耐えた。
「まあ、あんたからは寝とった形になっちゃったけど、あんたも悪いじゃん、なんか落ち込んでたウタほっといてさ」
リカは黙って聞いていた。
「私とのあの一回で、まさか妊娠するとはね」
「……今さら、何が言いたいの?」
あんたとウタの話をする気なんてない、リカはそう思いながら、いつまで怒りを押さえられるか自信がなくなっていた。
「……そんなわけないじゃない?」
ミナミが言う。
長い沈黙。
リカにはミナミが何を言いたいのか、解った。
ミナミが話し始めた。
「今まで黙ってたけどさ、実はタクミ、ウタの子じゃないんだよね」
さらに長い沈黙が続く。
「で?なに?」
「あのさ、リカ。ショックなのは解るけど……」
ミナミが言い終わらないうちにリカが遮る。
「知ってたよ」
「え?」
驚いて聞き返すミナミ。
「だから知ってたって」
「そ、そんなはずないでしょ、だってあんたあの時……」
「うん、何も言わなかった」
また、沈黙が続く。
「でも知ってたんだよ、私もウタも」
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