第7話 忘れ物
私、何やってるんだろ……。
リカは自分が嫌になった。
届けない、と決めた後もずっとモヤモヤが止まらず、結局、お昼休みの時間に学校に来てしまったのだ。
しかもなぜか下校が始まっている。
今日は校庭も使われていないようだった。
ガックリしていると、正門から悟が出てきたのが見えた。
「えっ?あっ!」
リカはとっさにしゃがんで、茂みに隠れた。
え?何してんの私。
悟はリカには気付かずに、さっさと行ってしまった。
サトル、珍しくスーツだ……って、いやいやそんなのどうでもいいし!あいつに会いに来た訳じゃないし!
「リカちゃん!!何してんの?」
茂みに隠れているリカを見つけて、タクミが大声で駆け寄ってくる。背中にはランドセルを背負っている。
「あ!?タクミ!ねえ今日、学校は?」
「今日、先生達のけんしゅうかいだから給食食べたら終わりだよ」
「5時間めの体育……」
「あ、持ってきちゃったの? 朝、気付いたから玄関に置いてきたのに」
正解は、『いらなかった』、だったのか……。
リカが自分に呆れていると、急に後ろから肩をつかまれた。
「中山さん!」
驚いてリカが振り向くと、全速力で学校に戻ってきた悟がいた。肩が激しく上下している。
「あれ?先生、そんなに走ってどうしたの?」
タクミが悟に不思議そうに聞いた。
「ちょ、ちょっと忘れ物して、急いで戻って来ただけ」
悟は焦って言うと、
「中山さん、ちょうどお渡ししたいものがありますので、少し職員室まで」
「は、はぁ……」
こんなタイミングで渡したいもの……?
タクミはリカに声をかけた。
「先に帰ってるね」
なぜか、妙に得意げな顔をしている。
タクミのやつ、本当にどこまでがわざとなの?
リカはタクミのほっぺたを両側とも伸ばす。
「いててて、なんだよリカちゃん」
「……気を付けて帰るんだよ」
ほっぺたをスリスリしながら、タクミは小さな声で、『照れなくていいのに』と言って帰っていった。
て、照れてないし……!
リカはなぜか気が動転し、早足で正門に向かった。
慌てて追いかける悟。
すぐにリカの後ろに追い付くと、耳もとで小さく言った。
「……顔見ただけで勃ちそう」
リカは信じられない、という顔で振り返る。
「本当にあんた、なに考えてんの?」
「お前はこっち」
正門から職員室へと向かうリカの腕をつかみ、裏門へ方向転換させる。
さらに悟はリカの背中をぐいぐい押す。
「ちょっと、押さないでってば」
躓きそうになりながら、リカは周りの目を気にして小走りで移動した。
人はまばらだが、すでに何人かの生徒とすれ違っている。
学校から出て、大通りから逸れた細い道に入ると、角に駐車場が見えてきた。
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