第5話 今日はここまで

責任って……?

リカが眉間にシワを寄せていると、


「まさか、ヤリ捨てする気じゃないですよね?」

悟がリカに詰め寄る。


「ちょ、ちょっと待ってよ」

焦るリカ。


「小学校の先生が使う言葉じゃないでしょ!」

「あの朝、目覚めた俺の気持ち、解る?」

「え……?」

「昨日あんなに愛し合ったのに、起きたらどこ探しても女はいない、連絡先のメモもない、金は支払い済み。俺のプライドはズタズタだ」


う……。我ながら完璧な捨て方……。

リカは心の中でつぶやいた。


「悪かったと思ってます、あの日はちょっとおかしかったって言うか、盛り上がっちゃったと言うか」


それで?というような顔をして悟はにじりよる。


「傷つけたならごめんなさい……」


「俺とは付き合わないってこと?」

「無理でしょ、小学生の子どもがいるんだし、まして担任の先生となんて」


悟は意外そうな顔をしている。


「な、なによ?」

「俺が嫌いな訳じゃないんだ」


「……そういうとこは嫌い」

「おい」


「と、とにかくお付き合いは出来ません、ごめんなさい!それから、この前も、顔たたいちゃってごめんなさい!」

早口で言い終わると、リカは頭を下げた。


しばらくの沈黙の後、


「……まあ、解った」

そう言って悟は立ち上がった。


「……帰るわ」

「う、うん……」


良かった、案外あっさり……。

リカはほっとして、玄関まで見送るため椅子から立ち上がった。


悟は冷静な顔で玄関に向かう。


沈黙が痛い……。

リカはそう思いながら悟の背中を見ていた。


そりゃ私だってちょっといいかも、って思ってたよ。でもどう考えても無理でしょ!

自分だって違う人みたいに変装してさ、ある意味サギじゃん!

あれ?そういえば、この人、どっちが本当の姿なんだっけ……?


頭の中がぐるぐるしている。


悟が急に振り返った。


「運命かな、と思った」


「え?」

「あの日、学校でまた会えた日、やっぱりこの人運命の人なんじゃないかな、って」


リカは驚きで静止してしまう。


悟はリカの腕をひっぱり、ぎゅっと抱きしめた。


「ちょちょ、ちょっと」

焦るリカ。


「お前は?そう思わなかったの?」


抱きしめられたまま、リカは動けない。

悟の腕の中は、妙に心地いい。


運命? まあ、確かにちょっと運命的だったけど……。


しばらく沈黙が続き、悟が言った。


「やっぱやめた」

「やめた?な、何を?」

「帰るの」


そう言うと、悟は強引にキスをした。


「待って……まっ……んん……」

リカは抵抗しようとするが、体に力が上手く入らない。


悟が舌を入れてくる。


「ね、ねぇ待って……ん……」


食べられているような、怒っているようなキス。


頭が働かない。

『何も考えられなくなる』ってこう言うこと?


「……好きでしょ?俺のこと」

リカの耳もとでそう言うと、悟はニヤニヤ笑った。


リカは悟を睨む。


妙に自意識過剰なのはむかつくけど……この声は……好き。近くでささやかれるとダメだ……。


「……キライ」

リカは何とかそう言ったが、またキスで口をふさがれる。


「自分が今、どんな顔してるか解る?」

悟はリカの服に手を入れ、胸を探る。


顔もスキ……。

リカがぼうっと考えていると、


「おい、抵抗しろよ」

悟が笑う。


「あっ……」

その言葉で我に帰ったリカは、悟を押し返した。


「さすがにここじゃ、ここまでだな」


そう言うと、悟は何事もなかったかのように荷物をまとめ、靴をはく。


呆然として、その場で座り込むリカ。


「じゃ、またね、リカちゃん」


悟はリカを気にする素振りもなく、ヒラヒラ手をふると、玄関から出て行った。

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