第3話 姉妹ゲンカ

「俺んち、色々フクザツなんだよね」


悟は事情を聞くために放課後タクミを呼び出した。

本人は特に不安な素振りもなく、あっけらかんとしている。


妙に軽いんだよなと、悟は思った。


「で、リカちゃんと先生、何話したの?」

まるで他人事の様なタクミに、悟は単刀直入に言った。


「叔母さんがお母さんになる、って話」


タクミは表情を変えない。


「お母さん、帰ってこないの?」

「うん」

「リカさんって、どんな人?」


悟はなるべく冷静に聞いた。


「おおてITべんだーの営業だって。課長?部長?みたいな事いってた」


悟は内心『せめて係長で』と焦りながら、

すごいね、とだけ言った。


「何かはわかんないけど、パソコンばっかしてる」

タクミはカタカタと指を上下させる。


「何歳かわかる?」


タクミが少し不思議そうに悟の顔を見たが、ふいっと下を向き、


「わかんないけどママは33。そんなに離れてないんじゃない」


と言った。


「若いのに子どもなんて大変だよね」

「お前は大人か……」


「ママがさ」

タクミの言葉に悟が優しくうなづく。


「ママが、もうタクミ育てるの嫌だ、って言ったんだよね」


悟は黙って聞いていた。


「そしたらリカちゃんがぶちギレてさ、めちゃめちゃママと言い合いして。 二度と顔見せるな、今すぐ出てけー!!ってなって」

「うん」

「んで、出ていった。」


タクミは少し笑ったがすぐに真顔に戻り、しばらく沈黙が続いた。



「ママ、最近おかしくて」

「うん?どんな風に?」

「いっつも怒ってるし、俺がやってたミニバスも、親の当番めんどくさいからって辞めさせられたし」

「それはひどいな」

「夜も、全然家にいなくて……」


男?と悟は思ったが黙って聞いた。


「家が近いからごはんがない時とかはリカちゃんちに行って、リカちゃんがキレてママとケンカ、の繰り返し」


「仲悪いんだ……」


「リカちゃん、パパと付き合ってたんだって」

「ぶっ」


悟の口から変な音が出た。


「リカちゃんがパパと付き合ってる時にパパがママと浮気して、俺が出来て二人が結婚したから、リカちゃんはママもパパも大嫌いになったんだって。ママが言ってた」


「……そうか」


どこまで関係性を理解しているかは微妙だが、最近の12才といえば案外大人だ。


タクミは黙ったままだ。


何か話したい事かあるのでは、

悟はそう感じ、次の言葉を待った。


「……リカちゃんに迷惑かけてるのは解ってるんだ。もし俺がパパの子どもじゃなかったら一緒に住んでないかも」


「え?」


「ママが言ってた」

タクミは早口に続ける。


「リカはタクミの事、パパが死んじゃったかわいそうな子だと思ってるだけだって。可愛がるのだって、大好きだった人の子どもだからで、別に好きな訳じゃないって」


「先生にはわからないけど……」


悟が最後まで言い終わらないうちに、タクミは遮るように言った。


「別にいいんだ」


「なにが?」

「俺を好きじゃなくても、ママよりいい」


悟はタクミの言葉を待った。


「リカちゃんと約束したんだ」

「うん?何を」

「一生味方だって」

「味方?」

「そうだよ。リカちゃんは俺の味方。俺はリカちゃんの味方」


そう言ってタクミは笑った。


「だからリカちゃんがママでいいんだ」

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