3.追放 聖騎士と賢者の意見

「……レイモンドのおっさんはどうなんだ? 流石にアンタに悪く言われるとショックだな」


 スレイは腕を組んだまま目を閉じている、黒髪の騎士レイモンドに問いかけた。

 彼は隣国にある聖王国出身の騎士である。パーティー最年長の三〇歳。『聖騎士』の称号を持ち、大型の盾を活かした護りによって攻撃を一手に引き受けける『ディフェンダー』の役割を担っていた。

 攻撃速度や命中精度こそローランドに劣るものの、巨大な鉄球を駆使し、高い攻撃力を持つ。

 さらにCランクの回復をはじめとした神聖術を行使出来るという貴重な存在であり、名実ともにパーティーの守護神である。

 その真面目かつ寡黙な性格と、職人芸ともいえる鉄壁の防御スキルには、スレイも大いに信頼し頼っていた。


「……私もブリジット嬢に賛成する。……二度とエリア嬢に近づくな」

「……えっ!?」


(は? ……おいおい、まさかおっさんもエリア狙いだったのか……寡黙すぎてわからなかったが)


 唖然とした表情のスレイと、突然のレイモンドの回答に戸惑いを見せるエリア。新たなライバル出現と思ったのか眉を動かすローランド。


「……レイモンド、意外だったな。まさかエリアの事を狙っているのかい?」

「否。聖王国の聖騎士は押しなべて聖女を讃え崇敬するものだ。……ローランドよ、お主のような情欲に基づいた恋慕ではないとだけは言っておく」

「な……なんだと。レイモンド、僕の想いがよこしまな物だというのか?」

「まあまあ、喧嘩はやめて~。あたしはレイモンドとエリアはお似合いだと思うな~、エリアはどう思う?」

「は……はあ、ブリジットさん、一体、何を言っているんですか、私は……」


 追放の意思決定をよそに、何やら言い争いを始めるパーティーをスレイは白けた表情で見ていた。

 口では良い事を言っているが、レイモンドがエリアに対し、ローランドと同じような想いを抱いているのは明白ではないだろうか。

 よくよく考えれば、そういったフシも思い当たる事もあった。崇敬などと高尚な事をのたまってはいるが、もし彼女に告白でもされたら喜々として応じるに違いない。


(……大体、なんで俺ばかり目の敵にするんだ。エリアにちょっかい出した覚えはないんだが)


 スレイとしてはパーティーメンバーの中で、別段エリアと仲良く接したつもりはない。スレイが従える使役獣をエリアが強く気に入っていたくらいだろう。

 勇者ローランドの聖女エリアに対する思慕は知っていたので、そういった揉め事になりかねない話に足を突っ込みたくなかったからである。

 ただ、スレイは後衛の一歩前が定位置だった。魔術での前衛の支援を行う事が多く、連携の為にエリアと会話する機会が多々あったように思う。

 そして結果的に、前衛を突破してきた敵からエリアを護る事で、良い処を見せられる機会が多かったのも間違いない。

 だがそれはパーティーの役割上の問題である。普段は自分から積極的に話かけた覚えもないし、粉をかけた覚えも全くない。大半はエリアからスレイに話かけるという受け身のパターンだった。

 

 もしかすると、その事が気に食わなかったのかもしれない。

 邪推をすれば、最前線で戦う二人としては、自分たちの方が強敵と戦ってるのに、止めきれなかった敵をいなしただけで、パーティーの姫の好感度がアップをされたら、たまらないと言った具合かもしれない。


「ヘンリー。お前は?」


 スレイは、無言のまま様子を見ていた『マギ』の役割を持つ片眼鏡の青年に声をかけた。

 年齢はスレイと同い年の二五歳。魔術の名門である子爵家の青年で、空から巨大な雷を落とす高度な魔術を操り、サブとして高レベルの神聖術も操る天才である。

 彼は魔術と神聖術の二魔法がAランク相当と認められる者のみ名乗る事を許される『賢者』の称号を持っていた。

 ブリジット、ローランド、レイモンドがクビに賛成した以上、スレイの命運は決まったようなものだったが、それでも、ある程度親しさがあり、パーティーの知恵である彼の聞かざるを得なかった。


「僕は中立で」

「はぁ? 中立? ヘンリー……アンタさあ、もしかしてスレイの肩を持っちゃうわけ?」


 ブリジットが怒った顔で、ヘンリーに詰め寄っていた。


「肩は持っていないよ。ただスレイは僕からすれば役に立っている。でも、三人がクビに賛成なら強く止めるつもりもない」

「どっちつかずは嫌われるわよ! スレイ追放後は、アンタがパーティーのヒエラルキー最下層になるでしょうね。覚悟しておきなさい!」


 身の程知らずにも程があった。明確にSランクの『マギ』であり、Aランクの『ヒーラー』としても務まるヘンリーに対し、戦えないBランク『シーフ』のブリジットがマウントを取れること自体がおかしいのである。

 そして、その態度は悪く言えばどっちつかずだが、既に多数決で決まっている局面だった。

 賛成した方が後々カドが立たないのに、わざわざ中立と言ってくれたのは、付き合いの長いスレイに対する配慮とも受け取れた。


「まあいいわ。クビに賛成が3、中立が1、反対が1って事ね。……スレイ、わかってるわよねえ」

「……まあ、こんな状況で居座ろうってほど面の皮は厚くねえよ。やれやれ、長らく世話になったな」


 スレイは肩をすくめ、わざとらしく溜息をついた。

 その様子を見て、エリアが酷く落ち込んだ表情を浮かべていたが、スレイはそれに気付かなかった。

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