第一話 死にたい彼女

「死にたい。」


 死にたいのだ。

 

 何が問題とか、どうこうしたいとか、そういうことはどうでもいい。

 死にたい。


 赤木トウカはそんな願望を強く抱いていた。


 死にたいというより、消えたいという感覚のほうが強いんだよねとか、そういう微妙な話なんかどうでもいい。死にたい。


 どうせその夜も眠れなかったので、というわけでもないが、なんとなく気分で外に出た。

「もう誰もいないだろうと思った真夜中 こんな路地ですれ違う人がなぜいるの? 独り占めしてたはずの不眠症が私だけのものじゃなくて落胆した」

 という、ある歌手の歌の歌詞を思い浮かべた。

 

 不眠症は頂点に達していた。人が寝る時間に起き、起きる時間に眠りに就く。

 それさえももはや薬の力なしにはまったくどうにもならない。

 夜歩く。

 心地よくもなんともない。

 ただ一人でいるだけ。

 寂しさよりは死にたい想いがはるかに勝る。

 そこにもう意味などないのだ。


 切っ掛けなんか、問題じゃない。

 問題は、確実に死ねるマンションがどこにあるかだ。

 絶対でなければならない。


 そればかりを探している。



 「ウェル」は地域限定型のSNSがある。

 希死念慮の強い人たちが集まっているのが特徴。


 みんな死にたいのだ。


 社会人もいれば、学生もいる。

 飛び降りるなら、あのマンションがいいとか。そこは夜間は侵入はかなり難しいとか。死ねる薬の話とか。実際、死をほのめかしたあと、連絡が取れなくなったフォロワーもいる。


 

 ウェルに集まる僕たちは「死にたい」という投稿にも、「いいね」をしあった。

 

 皆、もう学校行きたくないという叫びを上げている。

「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」


「死にたいよ、もう無理だよ」


「どうして生きているの」


「どうして生まれたの」


「助けて、辛い辛い辛い」

 


 これらは叫びだ。


 上げられない叫びをここで上げている、雄叫び。

 この叫びは、僕たちにしか届かない。


 僕のフォロワーで、気が合う相手が何人かいた。

 いちばん仲が良かったのは、アヤノというHNの人物だった。

 アヤノはひどく薬に依存していて、市販薬のオーバードーズを繰り返しているそうだった。救急車で運ばれたことも、一度や二度ではないらしい。


「今40T入れたところ。」

 そうアヤノはウェルに投稿していた。タイムスタンプは1時間ほど前だ。


 >>BとM、どっち?


 市販薬の頭文字と、処方薬の頭文字で尋ねる。


 >>どっちも。


 どっちもとは、合計80Tなのか、20T20Tなのか、わからない。

 さすがに80T入れるとは考えづらいので、20Tずつだろうと思った。


 そろそろ効果が出始めていることだろう。 

 僕は直接メッセージを送信した。

 

 >>気分はどう?


 アヤノからの返信。

 >>普通だよ。どうってことない。


 トウカからの送信。

 >>俺もやりたい。救急車で運ばれないようにな。


 アヤノ

 >>いつもより少ないくらいだから、だいじょうぶだよ


 それからしばらく待ったが、アヤノから返信がくることはなかった。



続く。

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死にたいよ。 赤キトーカ @akaitohma

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