第91話 北へ
地上に戻りダンジョンの入り口にいた職員にクリアの報告をしてからクズハを肩に乗せてのんびりと夜通し歩いてキングストンの街に戻ってきたカイ。
「そうか…最後のダンジョンにも無かったか」
虎の魔石と片手剣を持って職員がギルドマスターの部屋を出ていくと大きなため息をついてギルマスのスタンレーが部屋の天井を見て呟く。そうしてその顔を正面にいるカイに向けると、
「それでこれからどうするんだ?もう未クリアのダンジョンはこの大陸には無いんだろう?」
「そう聞いている。あとはまだ見つかっていないダンジョンくらいだ。ただこればっかりは闇雲に歩いても見つかるとは思えない。一旦ハスリアのキアナに戻って情報を待とうかと思っている」
「それしかないか…」
カイはソファから立ち上がると手を差し出して、
「キングストンでは世話になった。刀は出なかったけど仲間はできたしダンジョンに潜って自分がまた少し強くなった気がする」
スタンレー は手を握り返しながら、
「またいつでも来てくれよ。ランクSのシノビのカイならいつでも歓迎するよ」
「ありがとう」
そうしてギルマスの部屋を出ると、そのままギルドの酒場でカイの送別会となった。大勢の冒険者が集まってきて、カイを囲んで酒を飲み冒険者談義に花を咲かせた。
「ハスリアに戻るのか。寂しくなるぜ。もっと鍛えてもらおうと思ってたのによ」
ルークがグイッとビールを飲み干し、空のグラスをテーブルにドンと置いて言う。
「二刀流にもだいぶ慣れてきてる、あとは実践経験を積めばもっと強くなるよ」
実際何度かカイの指導を受けカイと模擬戦をしてきたルークの斧の二刀流は以前よりも鋭さと素早さが増してきている。それをカイが言うと
「そうか。ランクSに言ってもらえるとその気になるよな」
満更でもない表情のルーク。
「いつでもキアナに来てくれよ。キアナにいなければアマミにいるからさ」
カイの言葉に頷いて
「そうだな。俺たちも一度外に出て武者修行をするのも悪くないな」
その夜はキングストンの冒険者と遅くまで最後の夜を楽しんだカイ。翌朝ギルドに顔を出し、世話になったお礼を言ってキングストンの城門から外に出たところで立ち止まって左右を見る様に首をゆっくりと振った。
肩に乗っているクズハがどうしたんだ?という表情で顔をカイに向けると、
「うん、昨日宿に帰って寝る前にふと思ったんだけどな、最初はこのままハスリアに戻ろうかと思ってたんだけどさ、せっかくここまで来ているんだ。北に言って霊峰を見てから帰ってもいいかなと思ってさ」
カイの言葉に大きく尻尾を振るのを見て、
「クズハも賛成か。じゃあ行くか」
そう言うと城門を出たカイは東への道、ハスリアへ続く道ではなく、北に向かって伸びている道を歩きだした。
キングストンは辺境最大の都市で、そこから北には小さな村が1つだけあるというのは聞いていたカイ。その村へはキングストンから徒歩で3日程。その村が最北の村になっていてそこから北は人が住んでおらず、高ランクの魔獣が闊歩していると言われている。街道もその北にある村まで通じているだけで、そこから先は道も無い。
北の村から霊峰とローデシアを分けている河までどれくらいかかるのかは知らないが、とりあえず時間はあるとクズハを肩に乗せて北に向かって歩いていく。
草原の中を伸びている街道を歩いて3日目の夕刻、街道を歩くカイの先に村が見えてきた。最北の村だ。
村に一軒しかない宿に部屋を取り、そこの食堂で夕食を取りながら料理を持ってきた女性に北の話を聞こうとすると、
「北に行くのかい?じゃあ私じゃなくてうちの人を呼んであげるよ。もう何年も前になるけど一度北に行っているからね」
そう言って厨房に声をかけてしばらくして出てきた宿の主人。カイがこれから北に向かうつもりだと言うと、よいしょと隣の空いている椅子に腰掛けて北に行くのかと改めて聞てきた。カイが頷くと、
「5、6年前になるか。一度北に行ったことがある。当時ここに駐在していた辺境領の騎士達が村の北を調査するのに同行してな」
そうして当時を思い出す様に顔を天井に向けてしばらくして顔を戻すと、
「北と言ってもこの村からせいぜい3日程のところまでだった。道のない草原を3日程歩くとランクBの魔物の数が多くなってきてな、騎士達がこれから先は危険だと言うからそこで引き返してきたんだが」
そう言うとカイを見て、
「霊峰のことは知っとるかい?」
頷くカイ。
「3日目に小さな山を越えた時に霊峰が見えての。見えたと言ってもまだかなり遠かった。多分わしらがいたところから麓を流れる河までは10日はかかる距離だろう。遠目に見ただけだが夏だと言うのに霊峰の頂上付近は真っ白な雪をかぶった高い山がいくつも連なっていたわ」
なるほど。となるとこの村から12,3日は歩くということになるなとカイが思っていると、
「知っての通り霊峰は立ち入り禁止の山々だ。麓に流れている大きな河が我々人間とドラゴンの霊峰との境と言われている。北に行くのは構わんがくれぐれも河は越えないでくれよな。この村が霊峰から一番近いことを分かってくれ」
「もちろん河を越えて霊峰に入る気は全くない。遠目に見るだけだよ」
それなら良いとカイの言葉に大きく頷き、
「3日目で出てきた魔獣は騎士達によるとランクBというクラスの魔獣だったのは覚えている。あんたは見た感じ強そうだが一人だし、行くなら十分気をつけて行きなさい。我々は助けることもできないからな」
「分かってる。色々教えてくれてありがとう。助かる」
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