第90話 見つからず

 カイはダンジョンを攻略してから数日は外に出ずにもっぱらギルドの鍛錬場で体を動かしていた。カイが鍛錬場に行くとその話を聞きつけて冒険者達が集まってきてる中で両手に木刀を持って素振りから型の稽古をする。


 素振りもだんだんと早くなっていくとたいていの冒険者にはその木刀の動きが見えなくなる。そうしてその見えなくなった早い動きをしばらく続けるカイ。その体力にも驚かされる他の冒険者。


「いつ見ても全く木刀の動きが見えないよね」


「しかもあの速さであれだけの時間振り回して全く体幹がぶれてないって相当だよ」


 皆、カイの鍛錬から何かを身につけようと必死で見ているのだが次元が違いすぎて結局「カイはすごい」で終わってしまう。


 1つ目のダンジョンをクリアしてから5日後、カイは2つ目のダンジョンに向かっていった。キングストンの街から1つ目のダンジョンと反対方向に1日程歩いた場所にあるダンジョン。例によってダンジョン近くの宿に泊まると翌日からアタックを開始した。


 初日で10層をクリア、1つ目のダンジョンよりもフロアの広さがこちらの方が広いので1日で10層止まりだった。2日目は11層から攻略を開始。13層に降りるとそこは森のフロアだった。


「これが言っていたフロアか」


 森の中に小径が続いている。感じる気配はランクBとランクAだ。畦道の様な小径を歩き始めると森の中からランクBの魔獣が襲ってくるが事前に気配を感知していたカイは刀を一閃して魔獣を倒しながら奥に進んでいく。その後も森の中や木の上からランクBの魔獣が次々と襲ってきては全て返り討ちにあって光の粒になって消えていくなか、14層に降りる階段をみつけた。同じ様な森のフロアでランクAの割合が多くなってるがそれらを倒して前に進んでいき14層をクリア。


 次の15層はまだクリアされていないフロアだったが通常の洞窟型のフロアになりランクAばかりとなったがカイはそれらを倒して攻略。16層をクリアしたところでこの日のアタックは終了。


 3日目、17層に降りるとそこはすでにランクAとSが混じっていた。襲ってくる魔獣を倒しながらすすみさっくりと17層、18層を攻略、19層に降りるとランクSだけのフロアになっているが単発で襲ってくるので全く脅威にならない。


 クズハを肩に乗せたまま進みながら遭遇するランクSを刀で倒して進んでいき階段を見つけると20層に降りるとボス部屋だった。


「このダンジョンは外れだったな」


 クズハも尻尾を振って同意する。ボス部屋に入ってもボスはオークのランクSSで

あっという間にボスを倒してダンジョンクリア。当然だが宝箱の中身も大したものは入っていなかった。


 地上に戻ってダンジョンクリアを報告をし、その日は宿に止まって翌日の夕刻にキングストンに戻ってきたカイ。


 ギルドに顔を出し、ギルマスの部屋に言って報告をした。


「カイにとっては外れダンジョンか」


「ボスがランクSSのオークだったからな。図体がデカくて力が強いだけで何の脅威でもなかったよ」


「ランクAの冒険者達にとっちゃあ強敵だがカイならそうなるだろう」


 そう言ってから


「後1つだな。なかったらどうするんだ?」


「とりあえず最後のダンジョンに挑戦して、見つからなかったらハスリアに一旦戻るよ。しばらくダンジョンばかり攻略していたので今後どうするか、一度落ち着いて考えたい」


 そう言ってギルマスの執務室を出て受付に戻り、そこにいた冒険者達と酒場でダンジョンの話をする。


「このダンジョンならルークのパーティならクリアできると思う。15層でしっかりランクAとの戦闘に慣れて少しずつ攻略していけばいい」


 カイの話を聞いていたルークとそのパーティメンバーは、


「なるほど。俺たちにとっては簡単じゃないが、それでもしっかり15層から攻略していけばいけないことはないか。ボスがオークで腕力馬鹿なら相手がランクSSクラスと言ってもこっちも打つ手はあるしな」


「そう言うことだ」


 ダンジョンのフロアやボスの詳細が事前にわかると言うのは攻略する冒険者にとっては大きなアドバンテージとなる。


「カイには世話になりっぱなしだな」


「こっちは気にしてないから平気さ」


 その後も聞かれるままに魔獣の討伐方法等を教え、話がひと段落ついた時にルークが、


「後1つのダンジョンで刀が無かったらどうするんだ?」


「ああ。さっきギルマスにも聞かれたが、無かったら一度ハスリアに戻ってそこでこれからどうするかじっくりと考えてみる。思えばアマミの街を出てからダンジョンに潜ることをメインで動いていたから。しばらく休みながらこれからの方針を考えるよ」


「そうか」


「まあ、刀は見つかってないが、ダンジョンに潜ったり強いNMの相手をしたりして俺の実力も上がったし、全く無駄になる訳じゃない」


「確かにカイに勝てる奴はこの大陸にはもういないだろう。実際に戦闘は見ていないがカイがやってきたことを聞いてるだけでその強さがわかる」


 ルークの言葉に頷く周囲の仲間。


「ここローデシアで刀が出るといいな」


「ああ」


 そうして5日程キングストンの市内で軽く身体を動かしていたカイはこの国での最後の未クリアダンジョンを攻略すべく城門から外に出ていった。


 歩いて1日半ほどかかる距離にあるダンジョン。昼過ぎに出て夜は野営をして翌日の夕刻にダンジョンについた。


 近くにある宿に部屋を取って移動の疲れをしっかり取った翌日、カイはダンジョンに潜っていく。いつも通り低層はスピード重視で駆け抜けていき、14層に降りるとそこはフロアの中に川がいくつも流れていた。橋を渡って進んでいく様だ。


 通路というか道路は幅が狭くてせいぜい二人が横に並ぶのが精一杯の道幅で、左右は川になっている。


 とは言え14層で出てくるのはランクAクラスの敵なので道の向こうから来ようが、川の中から飛び出て来ようが刀と魔術で倒しまくって進んでいくカイ。


 そのまま同じ造りになっていた15層をクリアしたところで一旦地上に戻り、翌日16層から攻略を開始、ランクAに混じってランクSの魔獣がチラホラと見え出し、それらを倒しながら


(ここも20層のダンジョンか?期待できないな)


 クズハもカイの気持ちがわかっているのか階段を降りる時に身体をカイの顔に寄せてくる。


「分かってるって。ちゃんと最後まで攻略するからさ」


 結局カイの予想通り18層でランクS、19層ではそれが複数体となり、20層に降りるとボス部屋だった。


「…虎か…」


 そこにいたのはフォレストタイガーを大きくした真っ黒な虎のNM。図体はでかいが敏捷で、足の爪が武器だ。ランクはSSクラス。


 カイが広場に出ると唸り声を上げて威嚇してくるが全く気にせずに近づいていく。身体を沈めてジャンプして襲ってきたが、その動きは既にカイには読まれていた。


 ジャンプをすると空中では方向転換ができない。突っ込んでくるのが分かっているとそれを横に避けながら刀を一閃するとボスの腹に刀で切り裂いた傷が深くできる。そして着地した時にはすでに方向を変えていたカイの刀が虎の頭と胴体を綺麗に2つに切断して終了した。


 虎が消えてから出てきた宝箱を開けて刀が入って無かったのを確認するカイ。クズハも隣から宝箱の中を覗き込んでいるその背中を撫で、


「無かったよ、クズハ」


 顔を上げてじっとカイを見るクズハに、


「とりあえずハスリアに戻ろう」

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