第67話 モンロビアのパーティ その2

 イーグルがモンロビアの連中に話をしている間に準備ができた様だ。盾を構えたハンスが声を出すと2本の木刀を持ったカイがハンスの盾に殴りかかっていく。木刀が盾を叩く音が鍛錬場に響く。


 黙って見ているモンロビアの冒険者達。カイの木刀の動きはなんとか目で追えている様で皆内心で


(こんなものなのか。俺達より少し強い程度じゃないか)


 と思っていたらカイの木刀の動きが早くなってきた。


「なんだと!」


 思わず声を出すブルとスリム、リチャード。後衛の女性二人も身を乗り出して


「全く見えない」


「今までのは準備運動だったんだ。こりゃスゲェ」


 カイの木刀が盾を打ち付ける音が連続してまるでずっと鳴っている様に聞こえてくる。そうして盾をがっしりと構えている狼族のハンスの両足が木刀が打ち付けられる度にずるずると後ろに下がっていった。


「ええっ!!」


 彼らが声をあげた。カイがさらにもう1段ギアをあげたのだ。そうするとハンスの身体はまるで弾き飛ばされたかの様に一気に背後に持っていかれる。


 鍛錬場の壁にまで押されたところでカイが木刀を止めた。


「相変わらずカイがギアを上げた2段回目はきついわ」


「ハンスなら耐えられると思ってさ。盾、随分安定してるよ」


「お前さんに鍛えられまくってるからな」


 ハンスとカイのやりとりを聞いているモンロビアのパーティメンバー。

それを見ていたイーグルがカイに、


「カイ、その木刀、ちょっと見せてくれよ」


「いいよ」


 そういって木刀をイーグルに渡し、それをブルに渡す。


「おおっ、なんだこれ、こんなに重い木刀2本をあの速さで振ってたのかよ」


 木刀を次々と持つメンバーもその重さに驚愕している。


「練習用の木刀らしい。カイの刀の3倍以上の重さがあると聞いている」


「3倍以上…それであのスピード」


「この重さの木刀2本を5分ほど振りまくって、全く身体がぶれなかったぜ」


「分かっただろう?カイの強さが。リチャード、ハンスに変わってやってみるかい? カイ、構わないか?」


「ああ。俺は大丈夫だ」


 リチャードもモンロビアの辺境地区のギルドではNo.1パーティの盾ジョブだ。自分の盾を持つと鍛錬場の中に入っていき、


「ちょっと相手をしてくれるか?」


「わかった」


 ハンスはタオルで顔を拭き、隣に座っているクズハを撫でながら二人を見ている。


(カイのことだ、手を抜くだろう。この鍛錬いきなりやると手首を折るぜ)


 カイが木刀を持って、盾に打ち込むと10秒ほどしてリチャードの身体が背後に吹き飛んだ。シーンとする鍛錬場。


「あのリチャードが」


 声を絞り出すブル。


「ハンスの時の第一段階の攻撃であれかよ」


 スリムも目の前の出来事が信じられないという目で見ている。


 カイは吹き飛ばされたリチャードに近づいて手を差し伸べて立ち上がらせると、


「流石にランクAだ。吹き飛んで正解だった」


「あのまま無理してたら手首が折れるからな」


 荒い息をしながら答えるリチャード。


「それにしても想像以上の威力だったよ。しかもギアを上げる前でこれだ。流石にランクSのシノビだ。これほど強い力を受けたのは初めてだ」


 リチャードの声にクズハを撫でていたハンスが近づいてきて、


「俺も最初は今のあんたと同じだった。何度もカイにぶっ飛ばされたもんだよ。こいつの攻撃を受けるのは盾に取っては最高の訓練になる」


 そういって今のリチャードの盾についてこうしたらいいとか、こうするから盾がブレるんだとか二人で話をする。そうしてハンスがカイに、


「悪い、もう1度頼む」


 分かったと頷くと、今度はハンスの言う通りに構えるリチャード。それを見たカイ


「さっきよりずっと落ち着いている。いい構えだ。行くぞ」


 そうして再び木刀で盾を殴り始めた。最初と違ってしっかりとカイの盾を受け止めているがそれでも踏ん張っている両足が地面についたままずるずると下がっていく。2分程打ったところでカイがその手を止めるとぜいぜいと息をするリチャード。


「リチャード、さっきよりずっと良くなってるぜ」


「お前さんに立ち位置やら力の入れ具合を教えてもらったからな。それでも木刀とは思えない位にまともに受け止めるときついぜ。ハンス。これを週に1、2回してるだけで全然違うな」


「ああ。カイがいるから俺は強くなってる。俺の師匠さ」


 ハンスとリチャードが話をしているのを見ながらブルはイーグルと話をしていた。


「あれがランクSのシノビの実力か」


「いいや、奴はまだ本気モードじゃない。ハンスとした時にギアをあげただろう?あれだってまだあいつの本気じゃない。あの重い木刀でまだまだギアを上げてくる」


「外見からは想像がつかないパワーだ」


「その通り。そしてパワーだけじゃなく敏捷性も半端ないぞ。シノビってのはハスリアのアマミの街だけのジョブであまりその実態は知られていないが、シノビは元々武術に秀でている上にシーフの様にすばしっこい。それに奴は詠唱なしで魔法、アマミでは魔術というらしいがそれを使える。そしてサーチもできる。いってみれば戦士とシーフと狩人と魔道士の全てが使えるのがシノビで、奴はそれら全てが本職の奴ら以上に強い。完璧にマスターしている」


「シノビの噂は聞いているがここまでとはな。実際この目で見て初めてわかったぜ」


 ブルの言葉に他のモンロビアから来た連中も頷いている。


「想像以上だ」


 スリムの言葉には


「奴は一応ランクSだ。だが実力は既にランクS以上だ。ランクSSかランクSSSクラスだってのが俺達キアナの冒険者の認識だ」


「そう言われてもそれが与太話には聞こえないぜ」


 ブルはそう言うと続けて、


「俺たちもモンロビアの辺境領のオースティンのギルドじゃそれなりの地位にいるパーティだと自負してたが、カイをみると俺達が束になって掛かっても勝てる姿が想像できない」


 鍛錬が終わった一行は再びギルドの酒場に戻って今度は酒を飲みながら親睦を深めていく。モンロビアから来たパーティ連中とハンス、イーグルらがジョッキに入っているビールをグイグイと飲んでいる。カイは薄めの酒を飲みながら聞かれるままに話をしていた。

クズハは定位置のカイの腹の上でゴロンと横になっている。


「なるほど。幻の刀か。モンロビアでは刀の話は聞いたことがないな」


 カイの話を聞いたスリムが言うと他の4人も頷き、魔道士のケイトが、


「それでこのハスリアになかったらモンロビアやローデシアの未クリアのダンジョンに挑戦するつもりなのね」


「その通り。調べたところ、モンロビアの辺境領に3つ、ローデシアの辺境領に3つ、高難易度の未クリアダンジョンがあるらしい」


 カイの話を聞いてそのダンジョンが想像できたのか、ケイトや他のメンバーが頷いて、


「確かにカイの言う通り、俺たちの街の近く、近くといっても歩いて1、2日掛かるが、その辺りに高難易度と言われて未クリアになっているダンジョンがある。俺達も実はその3つの内2つのダンジョンには挑戦したことがあるが、どちらも10層を超えたあたりからランクAが複数体出てきてな。確か11層まで攻略して諦めた。そうだったよな?」


 ブルがメンバーに聞くと、僧侶のリンスが、


「1つは11層まで、もう1つは12層までの記録が残ってるわ」


 その声を聞いてからカイを見て、


「そう言うことだ。ダンジョンの階層がわからないがカイならいけるだろう。ボスを倒して刀が出てくるのを祈ってるよ」


「ありがとう」

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