第68話 未クリアダンジョン その1
モンロビアから来た冒険者達と親交を深めた日から数日後、カイはスーザンに聞いたキアナ郊外の未クリアダンジョンに向かっていた。
キアナから徒歩で2日程。キアナから離れているせいか閑散としている。現地についても宿もなく、草原にダンジョンの入り口がポツンとあり、その横に詰所があって衛兵が所在なさげに立っていた。カイをみると、
「このダンジョンに挑戦するのか?」
「そうだ。今だれか潜っているのか?」
「いや、今は誰もいない。カイの貸し切りだよ」
そうして中に降りていったカイ。結局ダンジョンの中で3泊してダンジョンをクリアして地上に戻ってきた。
「クリアしたのか?」
「ああ。階層は25層まであったけどボスは大したことなかった。ハズレダンジョンだったよ」
肩にクズハを載せたカイはそのままダンジョンからキアナに戻っていく。
キアナに戻るとギルマスにダンジョンの報告をし、魔石と武器を買い取ってもらい現金を手にするとギルドを出た。
野営が続いていたのでそのまま宿に戻り、アニルバンに報告をすると部屋に入ってシャワーを浴び久しぶりのベッドで疲れをとった。
翌朝、鍛錬を終えて食堂で朝食をとっていると、ジュースを持ってアニルバンが近づいてきて、
「疲れは取れたかね?」
「おかげさまで」
「キアナは後1つか。それでなかったらモンロビアに行くんだね?」
「そのつもりです」
アニルバンはカイが座っているテーブルの空いている椅子に座ると、モンロビアとローデシアについて彼が知っている知識をカイに教えていった。
どちらの国もハスリアとは友好関係にあるので国境を越えるのは全く問題がないだろう。人族とそれ以外の種族の比率も概ねこの国と変わらない。
「とまぁ一般的な情報はこんなところだ。ハスリアにいるのとほとんど変わらない生活だができるだろう」
そう言うと、
「冒険者についてだが、基本皆気が強い。まぁこれは私にもカイにも当てはまるけどね。それくらいじゃないと高ランクの冒険者としてつとまらないからな」
アニルバンの言葉に頷くカイ。
「それでだ。ここハスリアのキアナはシノビの故郷であるアマミに近いこともあってシノビに関する知識を皆持っている。だからカイに突っかかってくる奴は少なかったはずだ。ただモンロビアやローデシアに出向くとシノビというジョブの名前は知ってるけど実際に見たことがない奴らばかりだ。当然シノビの実力なんて知りやしない。まして国外から来たとなるとカイのランクがSとか関係なく絡んでくる奴がいるかもしれない」
「わかっています」
その言葉に大きく頷くと、
「だから最初に力の差を見せつけるんだ。模擬戦でも鍛錬でもいい。とにかくカイには勝てない、こいつに絡んだらとんでもないことになると認識させるんだ。そうするとその後の活動がグッと楽になる」
「なるほど。実力差を見せつければいいんですね」
カイの言葉に大きく頷くアニルバン。
「冒険者ってのは高ランクになればなるほどプライドが高いが、自分の力とあまりにもかけ離れた強さを見せつけられるともう何もしなくなるものさ。歴然とした力の差を最初に見せつけたほうがいい」
「なるほど。わかりました」
その3日後、カイはキアナにある最後のダンジョンに向かってキアナを出て街道を南に歩いていた。
最後のダンジョンはキアナから3日程かかるところでほとんど情報がなく、当然ダンジョンの周囲に宿も道具屋もない。攻略もほとんど進んでない様だが低層からランクBが出てきているという情報はあり、それを以て高難易度ダンジョンという判断をしているので実際のところは潜ってみないとわからない状況だ。
(それでも構わない。俺には片っ端から未クリアダンジョンをクリアしていくしか方法がないからな)
不確定な情報でも気にせずに一つ一つ可能性を潰していくのが結果的に最もゴールに近いと信じているカイ。途中で野営をしながら3日目の昼前に目的地のダンジョンについた。
衛兵と挨拶を交わすと早速ダンジョンに入るカイ。
確かに3層からランクBの姿が見え、5層になるとランクBだけになっていた。この日はランクAとBが混在している7層を攻略し終えると、8層に降りる階段のところで野営をする。クズハは結局7層クリアまで一度もカイの肩から離れなかった。
階段で刀の手入れをしながら、
「ハズレダンジョンじゃないことを祈ろうな」
尻尾を振るクズハの身体を撫で回し、階段の壁にもたれる様にして目を閉じた。
そうして目を開けてその場で体を動かしたカイは8層の攻略を開始する。
ランクAばかりになった8層、9層を突っ切って10層に降り立つとそこはランクAが複数体固まっているフロアだ。そして今までの洞窟の通路のフロアではなく、ここは壊れた宮殿の中の造りになっている。ひび割れた乳面、倒れている柱、荒廃した宮殿の中にランクAが固まっている。その造りを見てニヤリとするカイ。
「これなら最短距離で駆け抜けることができるな」
尻尾を振って同意するクズハ。
両手に抜刀した刀を持つと階段から駆け出していく。カイを見つけたランクAの魔獣が唸り声を上げて襲ってくるが駆けるスピードを落とさずに左右、正面の魔獣を切り裂きながら進んでいく。
ノンストップで10層、そして同じ造りで個体数が増えていた11層を一気に駆け抜けたカイ。12層に降りるとまた風景が一転した。大きな湖の様なフロアでその上には人が二人横に並べない程の狭い石の道というか橋がある。
湖面は今は穏やかだが不穏な気配は漂っていた。
しばらく湖面の上に伸びている狭い道を見ていたカイ。クズハもこの層で初めてカイに強化魔法をかける。最高の防具をしていてもカイのルーティンは以前と変わらない。
強化魔法をかけて肩に乗ったクズハを撫でると狭い石の橋に足を踏み出した。一見普通に歩いている様に見えるが常に四方八方を探っているカイ。
湖面がピシッと音を立てると鋭い牙を持った魚がカイを狙って飛んできた。予測していたカイは刀で魚を真ん中から綺麗に2つに切って倒す。その後も道の左右から魚が飛んでくるが歩くスピードを緩めずに両手に持っている刀で倒していくカイ。
しばらく進むと今度は水中から蛇が飛び出してきた。ランクはSだ。地上では見られない程の湖面からのジャンプで道の左右から同時に飛びかかってくるがカイから見ればその動きは緩慢で牙をむいて飛び交ってくる蛇の頭を刀で切り飛ばす。
すぐに前方から同じ蛇がジャンプしたがその時には雷遁の術が蛇の顔を粉砕していた。
その後も左右や時には背後からランクSの魚、蛇らが襲ってくるがことごとく倒しながら石の橋を進んでいると前方に直径が10メートル程度の円形の石の広場が見えてきた。そしてその広場の上には半魚人が3体槍や片手剣を持って広場を徘徊している。
「サハギン(半魚人)か。所詮ランクSだけどな」
グロテスクな姿。身長は2メートル程。魚を垂直に立てて顔を正面に向け、その格好のまま両手、両足をつけた姿で全身鱗に包まれていてヌメヌメと光っている。そのヌメヌメが攻撃を受けても武器が滑ってなかなかダメージを与えられないと言われている。当然ながら陸でも水の中でも生活できる。
頭巾はかぶらすに岩場の手前で抜刀するカイ。そうしてサハギンがカイに気付く前に自ら岩場に飛び込んでいった。
カイに気づいた3体だがその時には既にカイの雷遁の術が1体に命中して瀕死の状態になる。そうして残り2体に向かって刀を振るう。普通なら武器が滑るサハギンの表面だがカイは刀の威力プラスパワーとスピードでサハギンの首を跳ね飛ばし、直ぐに魔術をくらって瀕死だった1体の首も跳ねる。
岩場に飛び込んでから数秒で決着はついた。倒れて光の粒になって消えていく3体のサハギンを見ながら
「雑魚だったな」
そう呟くと再び細い石の橋を前に進んでいく。その後も水の中から飛び出てくる魚や水面に体を出して襲いかかってくるサハギンを倒しながら進み下層に降りる階段を見つけた。
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