第66話 モンロビアのパーティ その1
しばらくダンジョンに挑戦し続けていたので身体のリフレッシュも兼ねてカイはキアナ郊外でランクBやAを相手に1週間ほど軽く身体を動かしていた。
そしてハンスがいると2人でギルドの鍛錬場で訓練をする。
「カイに貰ったこの盾と剣、実際に使ってみると今までのが何だったんだって言う位に違いを感じるよ」
鍛錬場に入ってきたハンスが言う。
「そりゃ良かった。俺が持ってても意味がないからな」
そうして準備運動を終えるといつもの様に盾を構えるハンス。
「かかってこい」
それを合図に木刀を2本持ったカイがハンスの盾に攻撃する。
いつもの風景だが2人が鍛錬を始めるとギルドの鍛錬場には多くの冒険者が集まってきてこの鍛錬を見る。
「ハンスの奴、カイの攻撃をしっかりと受け止めてるな」
「ああ。あのカイの攻撃を受けても盾がぶれないぜ」
重い木刀を持って目にも止まらぬ速さでそれを盾に撃ち続けるカイ。
カイが一段階ギアを上げると盾を構えているハンスが両足をしっかりと地面につけたままズルズルと後ろに下がっていく。
「あのハンスを押し込んでるぞ」
「相変わらず半端ないな、カイの奴」
そうして5分ほど連続で盾に木刀を撃ち続けたカイがその動きを止めると、盾を地面に置いて大きく息をするハンス。カイも同じ様に大きな息をして、
「固いな」
「カイもまた強くなってるじゃないかよ。ギアが上がった後は俺も必死だったぜ」
「とはいえ盾はほとんどブレていない。たいしたもんだよ」
ハンスとの訓練の時に外していた腕輪や指輪、バンダナを装備しながらカイが言う。
「盾の性能も良いしな。ランクS以上のお前さんの攻撃を受けるのが俺にとっては一番の訓練になるよ」
そうしてタオルで汗を拭いてから酒場にいくと、ランスのパーティの連中がテーブルに座っていた。
クズハを肩に乗せてハンスと共にそのテーブルに近づくと、イーグルから、
「いつもハンスの相手をしてもらって悪いな」
「いや、俺にとってもいい訓練になってるよ。気にしなくても大丈夫だ」
「相変わらず半端ないぜ、カイの攻撃は。これで手を抜いてくれるっていうんだからな」
椅子にどかっと座ったハンスが注文したビールを手に持って一口飲んでから話す。
「そりゃそうだろう。ランクS以上だぜ。木刀で手を抜いているとは言え相当の威力のはずだ」
同じ様にビールを飲んでいる魔道士のダンが言う。
そしてカイはアイテムボックスから自分が使わなくなった防具や武器をメンバーにプレゼントする。
「いいのか?魔法の威力をアップする杖をもらっても?」
魔道士のダンが恐縮して言うが世話になってる御礼だと。そして他のメンバーにも魔力が増える腕輪を僧侶のシルビアに、怪力の腕輪を狩人のマリーに渡す。素早さの上がるバンダナは酒場にいた同じランクAのサイモンに渡した。
「イーグルにはまたいい片手剣が出たら渡すよ」
「期待してるぜ」
その後はお互いに近況報告をし、カイはフェスのダンジョンの話をした。
「なかなか簡単に見つからないとは分かっているんだろうけど、黒の妖精なんて俺達から見たら超難易度の高いNMになるが、それを倒しても出ないとはな」
「それでこれからはどうするの?」
狩人でエルフのマリーが聞いてくると、
「キアナで後2箇所未クリアのダンジョンがあるのでそこに挑戦して、それでも出ないならモンロビアに行くつもりだ」
カイのその言葉にハンスが、
「モンロビア帝国か。モンロビアもローデシアもダンジョンのあるのは辺境地区なんだろう?」
「そう聞いている」
「ここもそうだが、辺境地区の冒険者は気が荒いのが多い。最初にガツンとやった方がいいぜ」
その言葉にニヤリとするカイ。
「こちらから仕掛ける気はないが、掛かってくる火の粉を黙って浴びる気もない」
その言葉に頷くイーグル達。
「そう言えば今モンロビアのオースティンから1パーティ来てなかったっけ?」
オースティンはモンロビアの辺境領の最大の都市だ。ハスリアにおけるキアナと同じ立ち位置の街になる。カイが行こうとしているダンジョンもオースティンの管轄だ。
僧侶のシルビアが思い出した様に言うと、リーダーのイーグルが、
「来ている。確かダンジョンに潜っているはずだ。ランクAのパーティだったな」
流石にキアナの冒険者のまとめ役になっているイーグルだ。大抵の動きは掴んでいる。
「そいつらに向こうの様子を聞いてから行くのもありだよな」
「そうだな。少しでも事前の知識があった方がいいな」
ハンスの言葉に同意するカイ。
そうして酒場でイーグルのパーティと話をした数日後、郊外での鍛錬を終えてギルドに帰ってきたカイにイーグルが声をかけてくる、
「今来ているぞ、モンロビアのパーティが。紹介しよう」
「俺も行こう」
ハンスも立ち上がった。そして2人でカイをテーブルに案内する。そこには5人がテーブルに座って近づいてくるシノビのカイをじっと見ていた。イーグルとハンスががそのテーブルに近づくと彼らを見て
「ランクSのシノビのカイだ。ひょっとしたらモンロビアに出向くかもしれないんでな、丁度いい機会だから紹介するよ」
カイはクズハを肩に乗せたまま
「アマミ出身、シノビのカイだ。よろしく」
そう言うとテーブルに座っていた男が手を伸ばしてカイと握手をし、
「20数年ぶりのランクSのシノビのことはモンロビアでも話題になっているよ。俺達はモンロビアからきたランクAのパーティだ。俺はリーダーをしているブル、戦士だ。よろしく」
そうしてブルが他の4人を紹介する。戦士がもう1人いて名前はスリム、盾はリチャード、魔道士と僧侶の2人は女性だ。ケイトとリンス。5人全員人族だ。
イーグルとカイがそのテーブルに座ると早速女性2人が肩に乗っているクズハを見て
「カーバンクルをティムしている人なんて初めてみたわ」
「本当。でも可愛いわね」
クズハは尻尾を振ってご機嫌だ。
「こいつはクズハって名前をつけている。俺の出身のアマミの守り神の使いだと思っている。実際戦闘では強化魔法をかけてくれるので頼もしい相棒さ」
「ランクSのカイの話はモンロビアでも、隣のローデシアでも噂になってる。半端ない強さを持ったシノビだってな」
ブルのその言葉にイーグルが、
「実際のカイはおそらくランクSSかそれ以上の強さがあるだろう。それほどに強いぞ」
その言葉に驚く5人。
「まじかよ」
イーグルは今までのカイのダンジョンボスの討伐や北の山の上でランクSSを2体同時に倒してきたという話をしていく。その間カイは黙って聞いていた。
「カイ。いつもハンスとしている模擬戦、見せてやったら?それがカイの実力を見せるのに一番早いぞ」
「そりゃ是非見たいな。ランクSがどれほどか見せてもらおう」
ブルの言葉にカイが頷くとモンロビアから来た5人とイーグルのパーティ5人、そしてカイがギルドの鍛錬場に向かった。その話を聞いた冒険者達も続々と鍛錬場に集まってくる。
クズハを地面におろすと装備品を外していくカイ。そうして刀の木刀を2本取り出した。その仕草を見ていたブル。
「能力を上げる装備を外すのか?」
「カイはそういう奴さ。訓練ではできるだけ生身に近い状態でいつもやっている」
「ハンスの持っている盾、ありゃ相当の業物だぜ」
同じ盾ジョブをしているリチャードがハンスの盾を見ていうと、
「あの盾はカイがダンジョンボスから取ってきたものだ。あの剣と盾、普段から鍛錬に付き合ってもらってるハンスにタダであげたのさ」
「ほう。太っ腹だな」
「カイは礼節を弁えている男だ。世話になった奴にはきちんとお礼をしてるよ」
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