第65話 東方行きの船と黒い妖精

 地上はまだ昼を過ぎた頃の時間だったのでカイはそのままフェスに向かって歩き出し、日がくれて少し経った頃港町フェスに戻ってきた。


 翌日ギルドに顔をだすとカイのダンジョンクリアは既に報告がされていて、受付がカイを見つけるとすぐに奥のギルマスの部屋に案内する。


「またダンジョンをクリアしたみたいだな」


「今回のダンジョンはボスが強かったよ」


 そういってダンジョンの報告をするカイ。

 途中で職員が部屋に入ってきたときに魔石とそれと途中のNMから入手した龍の髭と角を取り出して査定を頼む。


「防具、武器は自分で持っておくのでこれをギルド買取でお願いしたい」


 わかりましたと職員がアイテムを持って部屋から出ていくと、ダンジョンの説明の続きをギルマスにした。ギルマスのロンはカイの話を聞き終えると、


「黒のピクシーか。高難易度のダンジョンボスになると文献でしか知らないNMが出てくるんだな」


「厄介なボスだった。浮いていて素早いし無詠唱で連続して強烈な魔法を連打してきた」


「そんな奴の攻撃を避けて倒すことが出来るのはランクSのカイくらいだぞ?」


「とは言え一発魔法を喰らってしまったのは反省材料だよ」


 ギルマスは反省しきりのカイを見て


(本当に向上心の塊だな)


  査定が終わったと戻ってきた職員から金貨を受け取るとカイはソファから立ち上がり、頭を下げると


「世話になった。またフェスに来たときはよろしく頼みます」


「こちらこそ。ランクSが来てくれるとギルドも引き締まるんでな。いつでも来てくれよ」


 その後酒場にいたフェス所属の冒険者に挨拶をしてカイはギルドを出るとふと気がついて城門とは反対にある港町の方に歩いていく。


 フェスはハスリア最大の港町でそこには漁船はもちろん、貨物船や商人や旅人を乗せる客船も停泊していた。


 港の事務所の様な建物に近づくと、そこにいた職員をつかまえ、


「ちょっと聞きたいんだが」


 カイの声を聞いて顔を上げた職員。シノビの格好をしている冒険者を見てすぐに目の前の男がアマミの出身者であると理解し、カイの言葉に頷くと、


「どうしたんだい?」


「ここから出ている船で東の方に出ている船はあるのか?」


 この職員はハスリアの歴史に詳しく、アマミの生い立ちについても書物を読んで知っていたので、


「アマミの人がやってきたと言われている東の国のことかい?」


「そうだ」


「残念だが今フェス、いやハスリアから東に出ていく船はないんだよ。アマミの歴史については俺は書物を読んで知っている。遠い昔に東からやってきた人たちだってな。ただ、今でもその国があるのかと聞かれたらわからないとしか言いようがないんだ」


 職員の言葉に頷くカイ。彼は続けて、


「漁師の連中がたまに東に3、4日の沖合まで出て漁をしているが、彼らからも東に島や陸地があったという話は聞いたことがない。相当東に行くのか、あるいはもうなくなっているのか」


「遠い昔の話だって言うからな。ありがとう助かった」


 カイは職員に礼を言うと事務所を出て今度は漁師がたむろしている場所に歩いていき、固まって話をしていた漁師に同じ質問をぶつけてみた。


「東の方角か。せいぜいここから4日ほど漁船で行ったくらいだが、一面海で陸地や島はみたこともないな」


 一人の漁師の言葉に頷く他の漁師。


「あんた、その格好とその黒い髪と瞳。アマミの出身者のシノビだろう?」


 カイが頷くと、


「アマミの人たちが昔東からやって来たっていうのは聞いてるよ。ただな。東といってもどれくらい東なのか。残念だが俺達の漁船じゃ行ける場所が限られてる。もっとずっと東に行ったらあるかも知れんがそこまで行く船がないんだよ」


 漁師の一人が言うと、別の漁師も


「東に探検にいくならあの港に停泊してるでかい客船くらいの船で行くしかないな。ただそれでもその島だか大陸が本当にあるのかどうかはわからないけどな」


 漁師達は皆親切で色々と教えてくれるが、彼らもフェスからあまり遠くには行ってないとうことだ。カイは礼を言ってその場を離れ、そのままフェルの城門を出ると来た道を逆に歩いてフェスからキアナに戻っていった。


 キアナに着くと日が暮れていたのでカイは城門を入るとギルドには寄らずにそのまま定宿になっている翡翠の宿に戻る。


 受付にいたアニルバンに会うと受付横のテーブルに座ってフェスでの一連のダンジョン攻略について話をする。クズハはカイのお腹の上にのってリラックス中だ。


 カイの話を聞き終えたアニルバン、


「なかなか目的の刀は出ないものだな。それにしても黒いピクシーなんて私も見たことがないよ」


「亜種というのか、悪意しかない妖精なんて初めてでしたよ」


「ダンジョンボスは本当になんでもありだよ。それにしてもそのドラゴンの鱗で作った防具は本当に凄いものだ」


「ただ、これに頼ると自分の技量が落ちる気がするのでできるだけ防具のことは意識せずに今まで通りの戦い方で倒したいと思ってます」


(普通ならその無敵の防具があれば全ての敵に正面からぶつかっても倒せるだろう。でも敢えてそうせずに相手ごとに戦い方を変えて自分の技量で倒そうとする。このシノビはまだまだ伸びるな。もうすっかり私を超えているが一体どこまで伸びて強くなるのか)


 アニルバンはカイの言葉に頷き、


「カイは自分のスタイルを変えない方がよいと私も思う。今のやり方を続ければいいんじゃないかな」


「ありがとうございます」


 翌日カイはまずコロアの店に顔を出した。アニルバンにしたのと同じ様にフェスのダンジョンの話をすると、


「黒の妖精ってのはね昔は地上にもいたらしいんだよ。らしいというのその存在が私が生まれるずっと前の話だったからさ。妖精の亜種として、白の妖精とは正反対の性格をしていると言われて忌み嫌われてきた。エルフの中で伝わる話によると妖精族は黒の妖精が誕生するとすぐにその場で焼き殺してきたと言われている」


「残酷な話だな」


「自分達が生き続ける為だよ。攻撃的な性格をしている相手に共存共栄しましょうなんてのは単なる理想論さ。自然界は元々弱肉強食の世界。大地に寄り添って生きているエルフには理解できる話さ」


「なるほど」


 コロアの言うことも一理ある。人間も生きていくために地上にいる魔獣を倒している。やっていることは根本では同じだ。自分の種族を将来にわたって繁栄させ続けるためだ。


 説明が終わるとテーブルの上に置いた武器やアイテムを1つづつ鑑定していくコロア。


「この杖は魔法の威力をアップさせるね。精霊士や僧侶にはいい装備だよ。そしてこの槍は雷の追加効果があるね。なかなかの品物だ」


「槍をメイン武器にしてる冒険者ってあまり見ないな」


「少ないがいないことはないね。このキアナでも何人か槍を装備しているのを見たことがあるよ。何なら私が買い取ってやろうか?」


「そうしてもらおう」


そうして怪力の腕輪を見たコロアはこれなら今カイが装備している方が効果が高いという。最後にバンダナを鑑定すると、


「こっちのバンダナに変えた方がいいね。素早さの効果アップがこっちの方がずっといい」


 コロアに言われてバンダナを新しにものに交換して装備したカイ。そうして今まで取得して使わなくなっていた腕輪やバンダナなど装備の一部もコロアに買い取ってもらう。残した装備や杖はイーグルのパーティメンバーにプレゼントするつもりだ。


 コロアによるとカイから買い取った品物の売り先のアテはちゃんとあるらしい。


「ギルドでも買い取ってくれるだろうけど、武器や防具はうちでも買取できるからよかったらまた持ってきておくれ」


 礼を言って店をでたカイはギルドに顔をだした。ランクSのカイがギルドに入るとそこにいた冒険者達の視線が一斉にカイに注がれるがキアナでカイは人気者なのですぐに声をかけられてくる


「久しぶりじゃないかよ」


「どこかに行ってたのか?」


 受付にいたスーザンにしばらくキアナにいると伝えると酒場に移動して仲間たちの話の輪に入って聞かれるままにフェスのダンジョンでの話をするカイ。


「なかなか出ないものだな」


「ああ。のんびりとやるさ」


「ハスリア国内ではもうダンジョンはないのか?」


「いや、分かっているだけでこの近くに未クリアのダンジョンが2つあるんだ。それを攻略するつもりだよ。そこでなかったらローデシア、モンロビアに出向いていく予定だ」


 そうしてしばらく仲間と話をしたカイは早々に翡翠の宿に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る