第64話 港町フェス その3

 11層は10層と同じ森のフロアだが10層と違ってここは雨が降っている。地面は濡れて水溜りができていて、大きな木から伸びている枝についている葉から水滴が地面に垂れ落ちてポタポタという音がフロア中のあちこちから聞こえてくる。


 感じる魔獣の気配はランクSのみ。


 普通の冒険者なら雨になると音が消されて魔獣が近づいてくる音が聞こえないとか、雨で視界が悪くなるとか雨に濡れて動きが鈍くなるとかマイナスの条件ばかりになって攻略の難易度が一気にあがるが、カイに取っては悪条件が悪条件にならない。


 いつも通り周囲の気配を探知しながら雨に濡れている道を早歩きで歩いていく。

左右からはランクがSに上がった魔獣がカイに襲いかかってくるが常に準備ができているカイは片手剣を軽く降ってそれらを討伐していく。


 全方位を関知しているカイに死角はなく、次々と魔獣が倒されては光の粒になって消えていった。そういて森の中を進んでいると右手に池というか沼が見えてきた。その湖面には雨水の水滴で小さな波が無数にできている。


 沼の淵に立っていると背後から襲ってくる魔獣がいるが両手に持っている刀で倒していると待っていた魔物が沼の中から飛び出してきた。


 神獣のリヴァイアサンを小型にした様な羽根のない龍だ。ランクはSS。

 龍が登場すると他のランクSの魔獣は一斉に森に逃げ帰っていく。


「なるほど。このフロアの生態系の頂点にいるのがこいつだって訳だ」


 龍が現れても沼の淵で立っているカイ。クズハは強化魔法をかけるとカイから離れた場所でカイを見ている。


 沼の湖面に全身を表し、わずかに浮いた身体でじっとカイを見ていた龍は蛇の様に身体をくねらせながらカイに向かってくる。


 じっとその動きを見ているカイ。そうして龍が大きな口を開けたその瞬間にカイは龍の正面から少し移動して顔から吹き出る水のブレスを避けると交わしながら刀で鱗を切りつけた。

 

 刀は鱗を切り、その中の身体に深い傷をつける。大きな叫び声をあげて顔をカイに向けて再び口を開けるがその時カイはその口に火遁の術を撃っていた。開けた口で大きな火の玉が爆発する。水と火がぶつかって口の中で水蒸気爆発を起こしたのだ。


 お互いの強力な魔法がぶつかって爆発したその威力で龍の顔が吹っ飛んで首から下になった部分は地面にどすんと落ちる。


「図体がでかいだけのNMだな。弱すぎる」


 消えた龍のNMがいた場所に宝箱が現れ、それを開けると中には今倒した龍の髭や角、それから武器の槍と金貨が入っていた。それらをアイテムボックスに収納し沼から道に戻ると再び奥に進んでいく。その後も出会うランクSの魔獣を適当に倒して11層をクリアすると12層に降りていった。


 12層からは再びの洞窟型のダンジョンだがランクSが単体、複数体とおり連続してカイに襲いかかってくる。魔術と刀で次々と倒して進み、13層に降りたところでこの日の攻略を終えた。


 地上に戻って宿に入ると食堂にいた他のダンジョンを攻略しているフェス所属の冒険者がシノビのカイを見つけると


「シノビだ」


「ランクSのカイだ」


 カイを見ながら口々に話をする。カイはテーブルに座ると食事を注文して先に出てきた果実汁を口にする。


「キアナのシノビのカイだろ? 何層まで攻略したんだ?」


 1人が聞いてくるとそちらを向いて、


「12層までクリアしてきた」


「1層からランクBが出てくるダンジョンで12層かよ。敵はランクSになっているのか?」


「ああ。10層からランクAとランクSが混在していた」


 食事をしながら聞かれることに答えていくカイ。


「カイが今攻略しているダンジョンについて教えてくれないか?」


 恐る恐るといった様子で1人の冒険者が聞くと


「全然構わないぜ」


 そういってダンジョンの説明を始めるカイ。最初はカイと距離を置いていた他の冒険者達だったがカイのフランクな言い方で安心したのかそちらもフランクな調子で話かけてきた。丁寧な説明が終わると、


「なるほど。森があったり沼にはNMか。いやらしいダンジョンだな」


「そうだな。森の場合は前後左右に加えて上からも攻撃してくる魔物がいる。常に全方位に注意を払っておかないと大変な目にあうな」


 その後はクリアしたダンジョンやらキアナの様子を聞かれるままに答えていく。そうして夜も更けた頃酒場での話しはお開きになった。


 先に部屋に行くと出ていったカイとクズハの方を向いていた冒険者達、カイが2階に消えると皆顔を見合わせて、


「ランクSって言ってたけど本当にフランクだよな」


「いい奴じゃないか」


「ああいうのがランクSなんだろう。戦闘力だけじゃなくて冒険者としても一流だぜ」


 その言葉に皆頷いていた。


 翌日は13層から攻略を開始したカイ。森のフロアは終わり13層は普通の洞窟型のフロアでランクSがあちこちにいるがそれらを倒して進みあっさりと14層に降りていった。


 14層は同じ造りだが広さがかなり広くなっている。ランクSも3、4体固まって行く手を塞いでいるがカイは魔術、刀を効率よく使って危なげなく倒していく。


 フロアが広いので時間はかかったものの問題なく14層をクリアして15層に降り立った。


「ボス部屋か」


 15層はお馴染みの大きな門が階段の先にある。肩にクズハを乗せたままその場で休むこともせずに門を開けてその中に入っていった。


「なるほど…」


 広場の中央にいるのは背中に羽根を生やして地面から1メートルのところあたりに浮いている真っ黒な妖精だ。


「白じゃなくて黒か」


 そう言いながら頭巾を被るカイ。背後からはクズハが強化魔法をかけてくれている。

カイが一歩踏み出すと無詠唱の強い魔法が飛んできた。カイは妖精のわずかな手の動きから魔法の発動を関知し真横にジャンプしてそれを避けるとそれまでカイがいた場所に強烈な雷の魔法が着弾した。


 すぐに全力で黒の妖精に向かって駆け出す。妖精は背後に下がりながら立て続けに精霊魔法を撃ってくる。ギリギリで避けながら近くカイ。


 想像以上のカイの動きに魔法を当てられない黒の妖精は円形の広場の中を下がって移動していたかと思うと突然身体を震わせて、自分の身体を2倍の大きさにした。真っ黒な身体に釣り上がった真っ赤な目が怒りを表してカイを睨みつけている。


「そうそう。これからが本番だ」


 モードチェンジして大きくなったダンジョンボスの妖精を見てニヤリとするとボスの精霊魔法を避けながら自分も火遁の術を妖精にぶつける。


 ダメージは与えているが致命傷にはならない。しかし魔法を当てられたボスは怒りに任せて滅茶苦茶に魔法を詠唱してくる。そのうちの一発がカイの身体に命中するがドラゴンの鱗で作った装備がそれを跳ね返してカイはノーダメージだ。


 ボスは魔法が命中して油断して動きを止めてしまった。その隙にあっという間に近づくと両手に持った刀をそれぞれ一閃してボスの首を綺麗に跳ね飛ばしてボスを倒した。


 クズハがすぐにカイに近づいて肩にジャンプすると、その背中を撫でながら、


「一発魔法を喰らってしまった。この防具だから耐えられたけどそうじゃなかったらやばい所だった。まだまだ修行が足りない。この程度の魔法を全て確実に避けることができないとこれから先苦労するよ」


 精霊魔法を喰らってしまって反省しきりのカイ。本来なら無詠唱で連続して魔法を唱えてくるのを次々と避けられる時点でもう普通じゃないのだが、カイは1度でも魔法を喰らったことがかなりショックだったのだ。


 床の上に倒れていた黒い妖精が消えると代わりに宝箱が出てきた。


 中には金貨、魔石、杖、バンダナ、が入っている。


 それらをアイテムボックスに収納すると部屋の奥の魔法陣に乗って地上に戻っていった。

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