第63話 港町フェス その2

 部屋の扉が開いて職員が入ってきた。


「魔石は間違いなくアダマンタスの物でした。甲羅もアダマンタスの甲羅です。腕輪は怪力の腕輪でした」


 職員の話を聞いたギルマスは


「どうする?全部ギルドの買い取りにするか?」


「そうだな、腕輪は自分で持つよ。甲羅はギルド買い取りで」


「魔石は金貨60枚、甲羅の買取ですと金貨70枚になります」


 カイが首を縦に振ると魔石と甲羅を持って職員が出ていった。腕輪をアイテムボックスに収納するのを見ながらロンが、


「これからどうするんだ?」


「少しこの街で少し休んでからもう1つの未クリアのダンジョンに挑戦するつもりだ」


「わかった。宿は職員に予約させよう」


「かたじけない」


 ギルマスの話を終え、代金を受け取ったカイが受付に戻ると酒場にいた冒険者から声をかけられる。


「ランクSのカイだろ?」


「そうだ」


「色々話を聞かせてくれよ」


 誘われるまま受付横の酒場に移動し、テーブルに腰掛けると周囲に冒険者が集まってきた。


「可愛いカーバンクルね」


 女性冒険者がカイの肩に乗っているクズハを見る。クズハは尻尾を振って答えるとそのままカイの腹の上に移動して横になった。


 頼んだ果実汁がきてそれに口をつけると周囲から


「ダンジョンをクリアしたんだって?ここの掲示板で攻略情報が毎日更新されてたんだけど今日見たらクリアになってたからさ」


 聞いてきた男の方を向いて頷くと


「昨日クリアした」


「よかったらダンジョンについて教えてくれないか?」


「全然構わない」


 そう言うと自分がクリアしたダンジョンについて詳しく説明していくカイ。途中で出る質問にも丁寧に答えていく。


「砂漠のフロアか、暑そうだな。しかも魔獣はランクSか」


「砂の中からも出てくるんだろう?凶悪な作りになってるじゃないかよ」


「よくクリアしたもんだ」


 思ったことを口々に口にするフェス所属の冒険者達。


「暑いのはなんとかなる。地面から出てくるのも砂が盛り上がるからよく見たら事前に準備できるぞ」


「そうは言うけどさぁ」


「まぁ俺達はその砂漠のフロアにすらいけないだろうけどな」


 その言葉に頷く周囲の冒険者達。その後も聞かれることにカイが答えていると、1人の冒険者が


「ここにきたキアナ所属の奴に聞いたんだが、刀を探しているんだって?」

 

「そうなんだよ」

 

 そう言ってカイは自分の目的である幻の刀を探してあちこちを移動していることを酒場の連中に話する。聞いていた冒険者達は


「幻の刀か。刀の話って聞いたことあったっけ?」


「どうだろう。私は初めて聞いたわよ」 「俺もだ」


 そんな声をきいてたカイ。


「やっぱり未クリアのダンジョンを片っ端から攻略するしかなさそうだな」


「急がば回れって言うし。結局それが一番の近道じゃないか?」


 その後何かあったらキアナのギルドに連絡するという声を聞いてカイとクズハはギルドを出ていった。カイが出ていったあと残っていた冒険者達。


「ランクSとは思えないシノビだったな」


「キアナの奴らが言っていた通り、フランクでいい奴じゃないか」


「全然偉そぶってなかったね」


 ギルドが紹介してくれた宿に泊まったカイ。翌日は休養日にしフェス郊外でランクBやCを相手に軽く身体を動かして、その翌日の朝早くにカイはフェスの街から外に出ていった。


 フェス郊外にあるもう1つの未クリアのダンジョンはフェスから南に1日弱歩いた場所にある。周辺にはクリア済みのカイから見て難易度の低いダンジョンが2つほどある関係でこのエリアにはちょっとした集落ができていた。


 複数ある宿、防具屋や武器屋、そしてアイテム屋と建物がいくつも並んでいて活気があるエリアだ。着いた時はすでに夕刻だったのでカイは宿に部屋を取り翌朝3つのダンジョンで最も難易度が高いと言われている未クリアのダンジョンの入り口に向かった。


 入り口でカードをかざして中に入っていく。1層に降りても人の気配が全くない。周辺に比較的難易度の低いダンジョンがあるからそちらに行っているのかと思いつつも、このダンジョンも低層をアタックしている冒険者が何組かいるはずだと思っていたが。


 そう思いながら通路を歩き始めるとすぐにこのダンジョンに他の冒険者がいない理由に気づいた。1層からそこにいる魔獣のランクがBなのだ。


 カイは特別だが通常はパーティを組んでいる冒険者は自分のランクより1つ下のランクからせいぜい同ランクの敵を相手にする。戦闘における安全マージンをしっかりと確保するためだ。そうしてたまに1つ格上の敵、それも敵1体を相手にして金策をする。


 フェスにはランクAの冒険者はいないと以前聞いていたので最高でもランクB。となるとわざわざ同格とそれ以上の魔獣しかいないフロアに潜る奴はまずいない。


「貸し切り状態だぞ、クズハ」


 ダンジョンの作りはとりあえずはオーソドックスの洞窟形。そのフロアをランクBを殲滅しながら進んでいく。1層から3層まではランクBのみ、4層になるとランクAとBが半々、いずれにしてもカイの脅威にはならない。


 この日はランクAが集団でいる9層をクリアして一旦地上に戻っていった。

 

 そして翌日ダンジョンに降りたカイの目の前には森が広がっていた。9層までの洞窟のフロアとは全く趣が違っている。そして森の中から感じる敵の気配、ランクAとSだ。


 クズハが魔法を掛けると定位置であるカイの左肩の上に乗る。そうして森の中に通じている1本の道を歩き出すカイ。


 森に入ると左右に敵の濃厚な気配がしてくるが、それらを無視していると左右からヘルハウンドという狼より大きいランクAの魔獣が同時に襲いかかってきた。


 カイに噛みつこうととびかかってきた6匹のヘルハウンドを両手に持っている刀であっという間に全て切り裂き、何もなかった様に進んでいくカイ。


 その後も木の上から猿やら左右の茂みからはランクAのゴブリンやらが次々とカイに襲いかかってくるが全く相手にならない。ランクSのオークも単体で攻撃してきたがカイから見ればあくびが出るほどの遅い攻撃でさっくりと倒して森の奥に進んでいく。


 歩き出してしばらくしてこのフロアが今までと違ってかなり広いことを感じ取ったカイ。攻略を進めるために早歩きになって道を進んでいく。奥に行くとランクAが減り、ランクSが増えてくるがそれらを刀と魔術でさっくりと倒して足早に進んでいたカイの足が止まった。


 そうして目の前にある木々をじっと見たかと思うと正面左右に並んでいる大木に向かって『火遁の舞』を連続で撃つ。


 10本程の木に炎をぶつけると木の幹に顔が突然現れた、皆苦しそうな顔をしている。カイはその中に突っ込んでいくと片っ端から顔が現れている木々を刀で切断していく。


 トレントは木に擬態して蔓で敵を巻き取ったり蔓をムチの様にして攻撃してくるが、その前にカイの魔術がヒットしたので自分たちは攻撃する間もなく全て倒されてしまった。


「擬態しても気配までは消せないからな。見る人が見たら丸わかりなんだよ」


 その後もランクAやらSを倒して森を進んでいき、森を抜けた先に下に降りる階段を見つけそのまま降りていった。

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