第58話 キアナにて

 地上に戻ると夕刻ではあったがそのままキアナの街に歩き始めるカイ。野営もせずに夜通し街道を歩いて翌日の昼過ぎにキアナに戻ってきた。


 ギルドに顔を出すとダンジョン攻略情報で知っていたのか受付にいたスーザンが、


「ダンジョンクリアおめでとうございます。アイテムの査定をしますのでこちらにどうぞ」


 カウンター奥の応接に案内されるとギルドマスターのシンプソンが部屋に入ってきた。


「もうお前さんがダンジョンクリアしても驚かないぞ。それより刀はあったのか?」


 カイは首を振るとテーブルの上に金貨以外のアイテムを並べていき、


「この片手剣は途中にいたNMが落とした。ダンジョンボスからはこの盾が出た。指輪と腕輪は自分で使うが片手剣と盾はまずこの街にいるハンスに要るかどうか聞いてみる。奴がいらないと言ったらギルドの買取にして欲しい」


「わかった。それでいい。ところでクリアしたダンジョンについて教えてくれ」


 ギルマスの言葉にダンジョンについて説明をしていくカイ。ギルマスは黙ってカイの話を聞いていたが、吊り橋のところでは


「そんなバランスの悪いところでランクSとかそれ以上の魔物が出てきたら普通全滅コースだ。カイだからクリアできているんだな」


 その後最後まで話を聞き終えたギルマス。


「ボスはデュラハンか。地上にはいないNMだ。今までダンジョンボスとしても聞いたことがない。文献に載っているNMがボスだったとはな」


「アンデッドだから攻略の方法は確率されているだろう?」


「そうは言っても今の話を聞いていると27層にいたデュラハンすらカイ以外の冒険者には討伐が無理だろう」


「そうかもしれないな」


 カイは思ったことを正直に言うと、そこにいたスーザンに


「2、3日休んでからまたダンジョンに行く予定だ」


 と自分の予定を話すと立ち上がって応接を出て受付のある場所に戻る。そこには他の冒険者達がカイを待っていた。


「またクリアしたんだろう?」


「それで刀は出たのかい?」


 勧められるまま酒場に座って聞いてくる冒険者に


「刀は出なかったよ。また別のダンジョンに潜る予定だ」


「それにしてもまたダンジョンクリアかよ。本当に規格外だよな」


 仲間と雑談をしていると酒場にランクAチームが帰ってきた。カイを除けばこのキアナでNO.1のパーティだ。イーグル、ハンス、マリー、シルビア、ダン。


 5人はカイを見つけるとテーブルに近づいてきて


「またクリアしたんだって?」


「情報が早いな」


「ギルドの掲示板に攻略情報が出てるからな。聞かせてくれよ」


 ギルマスに話したよりもより詳しく酒場にいる冒険者達に話ししていく。クズハは指定席であるカイの腹の上でゴロンと横になってリラックス中だ。


 20層からの話をしていくカイ。26層の吊り橋のフロアの話しになると、


「そんなえげつないフロア、見たことも聞いたこともないぞ」


「吊り橋でバランスが悪いところにランクSとか凶悪すぎるな」


 ダンとハンスが口にする。


「27層になると同じ作りの吊り橋のフロアで一面濃い霧だ。そして26層と違って背後からも襲ってきた。そして途中の岩場にはNMがいた。そのNMはアンデッドのデュラハンだった」


 淡々と言うカイの説明に言葉が出ない酒場にいる冒険者達。


「なんて造りだよ。冒険者を殺す気満々だな」


 誰かが言うと、イーグルが


「このカイはそれでもクリアしている。バランスの悪い吊り橋、濃い霧、そして途中にいるNM。今誰かが言ってたがカイ以外なら仮にそのフロアまで到達できたとしてもそこで死亡するのは明らかだな」


 その後28,29層、そしてダンジョンボスについても詳しく説明するカイ。


「デュラハンなんてギルドの文献でしか見たことがないわよね。存在してたんだ」


 僧侶のシルビアが言うと他のメンバーも


「関節を狙い続けるとか4メートルあるNMの首をはねて倒すとか普通の冒険者じゃまず無理だな」


「精霊魔法と弓があればイーグルのパーティでも何とかなるんじゃないか?」


 カイが言うとイーグルが笑いながら。


「俺達を買ってくれてるのは嬉しいが、実際は最下層に到達する前に全滅だよ」


 その言葉に頷く他のメンバー。


 そこでカイはハンスの方を向いて、


「それで途中のデュラハンとボスのデュラハンから片手剣と盾が出たんだがハンス要らないかい?」


 アイテムボックスからNMを倒して出た片手剣とダンジョンボスから出た盾を取り出して酒場のテーブルに置く。それを覗き込むイーグルのパーティメンバー。周囲の冒険者も顔を突き出して戦利品を見ている。


「手にとって見てくれよ」


 ハンスが盾を手に持つと


「これは凄い。俺が今使ってるのより何倍も良い盾だ」


「確かにかなりの業物だな」


 ハンスに続いてイーグルが口にする。


「この片手剣も大剣なみにでかいがそれほど重くないな。握るとしっくりくるよ」


 盾に続いて片手剣を手にしたハンス。もともと狼族で体の大きいハンスには大きめの片手剣を持ってもあまり違和感がない。


「気に入ってくれたのなら使ってくれよ。俺は刀しか使えないから」


 盾と片手剣を持っているハンスはそのままカイを見て


「いいのか?売ったら相当な金額になるぞ」


「金はいい。それよりせっかくの武器と防具を有効に使って貰った方が俺は嬉しい」


「ハンス、カイの好意だ。ここは貰っておけよ」


「ありがとう。助かるよ」


 頭を深く下げるハンス。そして手にしたばかりの片手剣と盾を何度も持っては見事だと言いながら見ている。


「カイ、悪いな」


 イーグルもカイに頭を下げるが、


「いや、こっちこそいろいろ刀の情報を探って貰っている。アマミの田舎者にとっては皆がくれるいろんな情報でどれだけ助かっているか。それにハンスにはここキアナで俺の二刀流の鍛錬にいつも付き合って貰っている。だからこれはほんの気持ちだよ。今回はハンス用の武器と防具だったけど他のが出たらまた言うから気に入ったら使ってくれよ」


 カイがキアナにいるときにしょっちゅうハンスと2人でギルドの鍛錬場で鍛錬をしているのはキアナのギルドでは有名な話だ。


 その後暫く雑談をしてカイはギルドを出て宿に戻っていった。


 フロントにいたアニルバンがカイを見るなり


「またダンジョンをクリアしたそうだね」


「刀は出ませんでしたが」


「そのあたりは気長にやるしかないだろう」


 そんなやりとりをして部屋に戻って久しぶりのキアナの部屋でゆっくりとして疲れを取った。


 翌朝、日課の鍛錬を終え朝食を宿でとったカイはコロアのアイテム屋に顔を出した。


「またダンジョンクリアしたんだってね。でもその顔は刀は出なかったんだね」


 当たり前の様にテーブルを勧めお茶を入れてくれるコロア。今日はクズハはカイの肩に乗ったままだ。どうやらその日の気分で居場所を決めている様だ。


「簡単じゃないだろうと思ってる。気長にやるよ」


「焦っても仕方ないか」


「その通り、ところでこれらを鑑定してもらえるかな」

 

 そう言ってテーブルの上に指輪を2つを腕輪を置いていく。


「そのダンジョンボスから出たのかい?」


「途中のNMから出たのもある、こっちの指輪が途中から、この指輪と腕輪はダンジョンボスからだ」


「どれどれ」


 そう言ってまず途中のNMから出た指輪を鑑定する。


「これは魔力が増える指輪だね。増えるって言ってもせいぜい数%だ。今でも相当魔力を持っているカイには無用だろうね。誤差の範囲さ」


 そうして次にボスから出た指輪を鑑定する。


「この指輪は魔法の威力が増える指輪だ。魔法系のアイテムは持って無かったから装備したらいいんじゃないかい?」


「そうだな」


 そう言って指輪を見につける。その間に腕輪を鑑定したコロア。じっと腕輪を見てから顔を上げると


「カイ、今持ってる怪力の腕輪をこれに変えた方がいいね。こっちの方が数倍効果が大きいよ」


「なるほど」


 カイは今装備している腕輪を外して新しい腕輪を見につけた。そして鑑定料として数枚の金貨をテーブルの上に置く。コロアはそれを手に取り、


「まだダンジョンに潜るのかい?」


「それしかないからな。2、3日休んでから挑戦するつもりだよ」


「そこでまた新しいアイテムが出たら持っておいで。鑑定してやるよ」


「その時はお願いするよ」

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