第57話 ダンジョンアタック(キアナ近郊)その2

 攻略を開始して2時間強が過ぎたころ、吊り橋の先に岩場の台地が見えてきた。ただその台地(広場)には体長3メートルはあろうかという大型の魔人が立っている。デュラハンだ。


 アンデッドで全身鎧で覆われており、首から上はなく、その部分、自分の頭を自分の左手で持ち、右手には長い片手剣を持っている。


 カイが無造作に岩場の台地に立つとデュラハンがゆっくり近づいてきて、その歩くスピードからは想像もつかない速さで片手剣をカイに振り下ろしてきた。


 片手剣が振り下ろされた時にはすでにカイはその場におらず移動して横からデュラハンの鎧の継ぎ目、足の関節部分を刀で切り裂く。


 呻き声一つあげずに向きを変えると再びカイに剣を下ろしてくるが、剣以上の速さで動くカイを捕まえきれない。カイはデュラハンの周囲を動きながら関節部分を刀で攻撃し、左手に持っている顔に火遁の術をぶつけて攻撃する。


 攻撃を繰り返しているうちに足がフラフラしてきたのか動作が緩慢になっていく。ひたすらに足を攻撃して動きが緩慢になってきた時、カイは狙っていた左手に持っている頭の部分を刀で手と頭を綺麗に切り離した。頭の部分が飛ばされて穴の奥に落ちていくとデュラハンが動きを止め、その場で崩れ落ちていく。


 そうしてそこに宝箱が現れた。中には金貨、指輪、そして片手剣が。それらをアイテムボックスに収納すると、戦闘が終わってカイの肩に飛び乗ってきたクズハの身体を撫でながら、


「このレベルだと刀はないが、この指輪は何かな。帰ってコロアに聞いてみよう」


 そうして再び吊り橋を進み始める。ランクSの魔獣がカイの前後から絶え間なく襲いかかってくるがそれらを倒して進み、2時間程吊り橋をあるいて穴の反対側にたどり着き、そこに下層に降りる階段を見つけた。


 28層に降りると再び坑道のダンジョンとなっているが感じる気配はランクS以上になっている。クズハの強化魔法を貰って前に進んでいくカイ。


 ランクSSの魔獣をまるで雑魚の様に倒して行きながら28層をクリアしたところで一旦地上に戻っていった。


 宿に戻ると昨日はいなかったがキアナ所属のランクBの冒険者達がちょうど夕食を取っていて、カイを見ると、


「カイがこのダンジョンを攻略しているのは聞いているよ。何層まで行ったんだい?」


「28層をクリアして戻ってきたところだよ」


 その言葉を聞いて感嘆の声を上げるランクBの冒険者達。


「このダンジョンの攻略階を更新してるな。それでそろそろ最下層か?」


「そうだな。28層でランクS以上の敵が出てきている。おそらくこのダンジョンは30層のダンジョンだろう」


 キアナ所属の冒険者達は皆ランクSの実力がランクSS以上あることを知っているのでカイの言葉を聞いても驚かず


「カイには関係ないかも知れないけど、無理すんなよ」


「ああ。ありがとう」


 仲間が本気で心配してくれているのがわかったので素直に返事をする。

 そうして部屋に戻ると刀の手入れをしながら今日の戦闘を振り返るカイ。 


「クズハの強化魔法とこの防具で全くダメージを食らってないな。この調子で明日も頑張るぞ」


 翌日29層に飛んだカイ。29層も28層と同じ坑道の様な造りのフロアだが坑道の幅と高さが広がり、それに伴ってランクSSクラスの魔獣が並んでカイに向かってくる。

強化魔法と防具の力で1体を無視して好きに攻撃させながらもう1体に攻撃するカイ。


(ランクSSでも全くダメージを受けないな)


 カイが放置しているランクSSは何度もカイに剣を振り下ろすが全て弾かれ、ダメージを与えることができない。そうしている内に1体を倒したカイがもう1体を刀であっさりと切り裂いた。


 魔法使いの気配を感じ、頭巾を被って歩き出すと、通路の先から魔法が飛んで来たが手で顔を隠すと魔法を受けてもノーダメージで、そのまま前に進んで魔法使いジョブの魔物を倒す。


(ドラゴンの鱗の防具、事前にその効果は聞いていたとはいえこうやって実践で経験するといかに優れた防具なのかがよくわかる)


 その後も通路の幅いっぱいに並んで突っ込んでくるランクSSの大きな狼の群れやオーガらを両手に持った片手刀と魔術で倒してガンガン進んでいき、30層に降りる階段を見つけ、クズハの肩に乗せたまま階段を降りていった。


 カイの予想通り30層は最下層で目の前に大きな門がある。


 その門を開けて中に入ると広場の中央に1体の魔物が


「昨日のデュラハンよりも一回りでかいな」


 広場には体長4メートル近くはある鎧をかぶったデュラハンが立っている。クズハは例によってカイに強化魔法を掛けると入り口近くに下がってちょこんと座った。


 昨日のデュラハンと違うところは頭の部分が首にきちんと着いていることだ。しかしその鎧の中は真っ黒で顔は無い。そして右手に大きな片手剣、左手には大きな盾を持っている。全身を鎧で覆っているのは同じだ。


 カイは再び頭巾を頭から被ると広場に進んでいく。するとデュラハンがその大きな体からは想像もつかない機敏な動きでカイに近づくと大きな片手剣をカイに振り下ろした。


 カイは抜刀もせずまともにNMの剣を受ける。するとカイの防具でデュラハンの剣が弾かれた。


(これで勝てる)


 全く痛みを感じなかったカイ。そこで抜刀すると今度は自分から仕掛ける。剣を交わしながらデュラハンの剣を持っている右手の関節部分を狙って刀で切りつけながら火遁の術を何度も顔にぶつける。


 アンデッドと言われる魔獣には火の精霊魔法が有効と言われており、カイもそのセオリー通りに顔に火遁の術をぶつけながら刀で鎧の部位と部位の隙間を狙って何度も刀を振る。手首を狙って何度か刀を振ると、剣を持っているデュラハンの右手首が腕から切られて広場の端に飛んでいった。


 剣を失ったデュラハンは盾を突き出してくるがそれを普通に交わしながらデュラハンの周囲を走りまわり、背後からジャンプすると首の後ろから刀を一閃、頭部と胴体を切り裂いた。


頭を飛ばされたデュラハンはその場で崩れ落ち、しばらくすると消えてその場に宝箱が現れた。


肩に乗ってきたクズハに


「最初から首だけを狙っても良かったんだけどさ、それじゃあ俺の鍛錬にならないだろう?防具の硬さはわかったから後はNM相手に自分の腕を磨いてたのさ」


 いくら防具で無敵になっているとはいえ、自分の鍛錬の場として高難易度のダンジョンボスを練習相手にするカイ。結局ボスの攻撃も最初の1撃をわざと喰らった以外は2度目は無いままに倒しきった。


 目の前に現れた大きな宝箱を開けると中には、大量の金貨、盾、そして腕輪と指輪が入ってた。


「刀はないな」


 ドンマイと言わんばかりに体を顔に寄せてくるクズハ。宝箱の中身を全てアイテムボックスに収納するとダンジョンボスを倒して現れた地上に戻る魔法陣に乗って最下層から一気に地上に戻っていった。

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