第56話 ダンジョンアタック(キアナ近郊)

 キアナから徒歩で1日ちょっとの距離、朝キアナを出て真夜中近くになってダンジョンに到着したカイ。ダンジョンの入り口付近にある宿に部屋を取るとゆっくりと休み、次の朝からダンジョンアタックを開始した。


 カイが挑戦するこのダンジョンは現在ランクAのパーティによって20層までクリアされている。その報告によると20層からランクAが2体固まっておりそこは何とかクリアできたが、21層になるとランクAが4、5体固まっていたので攻略を断念したと言うことだ。


 入り口でギルドカードをかざして中に入ると全力でフロアを走り出したカイ。


(軽い防具だ。これなら相当身軽に動けそうだ)


 肩にクズハを乗せたまま1層から一気に7層まで駆け抜けていった。低層の低ランクの魔獣は基本無視して行く手にふさがるのだけを刀で一閃して倒してあっという間に15層まで降りたカイ。そこで一旦休憩を取ると再び16層を駆け出していく。


 そうして16,17,18層を最短距離で走り抜けたカイは一旦地上に戻り、そして翌日19層に降り立った。


 目の前には鉱山の採掘場の様な通路が伸びていて、感じる魔物の気配はランクAだ。


「クズハ、防具の性能を見てみたいから強化魔法はとりあえず無しだ」

 

 尻尾を降り、カイの肩から降りて背後に立ったクズハ。それを見ると両手に刀を持つとゆっくりと通路を歩き出す。通路の先にいたランクAの魔物がカイを見つけて右手に持った片手剣を振り回しながら向かってきた。


 カイは抜刀こそしているもののその場で立ってまともにその剣を受けてみる。


 魔物が振り下ろした剣はカイの左の肩に当たったと思ったらそのまま剣を持っている手が弾き飛ばされ、魔物はその反動でその場でよろめく。


「全くダメージを感じないな」


 再び顔に振り下ろされた剣を左手の腕で受けるとさっきと同じ様にふらつく魔物。その後も腹や腕に剣が振り下ろされるが何のダメージも受けないカイ。


 そうして手に持った刀を振ると魔物の首を撥ねてその場で絶命させた。


 倒した後に防具を見ているがどこにも傷がついていないのを見て、


「想像以上の強さだ」


 元々ランクSS以上の実力があるカイが物理、魔法をほぼ無効化するドラゴンの防具を身につけると文字通りの無敵状態になっていた。


 防具の確認をしたカイは肩にクズハを乗せ19層を歩いていく。クズハが俺にも仕事をさせろとばかりに強化魔法を掛けてくれるので戦闘はほぼ一方的になり19層、20層と攻略して、21層では4体のランクAがリンクするが、身体を動かして攻撃を交わしながらあっさりと倒して22層に降りていった。


「防具も何の違和感もなく体に馴染んでいる。流石にリンドウ兄さんの作る防具は使い手のことをよく考えている優れものだよ」


 22層も複数体のランクAが通路にたむろしているが問題なく倒しながら奥に進むと、ちらほらとランクSが混ざってきた。とはいえカイの脅威にはならず防具の性能を試しながら倒して進み22層をクリア。23層に降りたところでこの日の攻略を終えて地上に戻っていった。


 宿で疲れをとった翌日、カイとクズハは23層から攻略を開始する。


 1層からずっと続く洞窟タイプのフロア。20層から少しずつ通路が分岐してきており、この23層も目の前は壁で左右に通路が伸びている。クズハが強化魔法を掛けてカイの肩に乗ると無造作に左の通路を進み始めるカイ。


 ぼんやりと明かりがある通路を歩いていると天井から蝙蝠の大群が襲いかかってきた。

蝙蝠の魔物は単体ではランクAだが、常に群れていて集団になるとランクSになる厄介な魔物だ。とはいえカイにとっては雑魚であることには変わりなく。通路の奥に蝙蝠の気配を感じていても歩みを止めることはなくいつもの調子で通路を進んでいた。


 洞窟の天井から蝙蝠が飛び立ってカイに向かってくるが『火の舞』の魔術を唱えるとその強力な範囲魔法でほとんどの蝙蝠が地面に落ちて絶命する。かろうじて生き延びたものも熱でフラフラで、刀を2、3度振ると多数いた蝙蝠が皆絶命し光の粒になって消えていった。


 そしてカイは何もなかった様に洞窟の通路を進んでいく。


 元々持っていたシノビの気配感知の特性と度重なる格上との戦闘経験からカイは相当広い範囲の感知能力を身につけ、最適なルートを見つけることができる様になっていた。


 通路を左、右に曲がって奥に進みながら出会うランクA,Sの魔獣、魔物を刀で倒して進んでいく。洞窟の奥に行けば行くほどランクSの比率が高くなってきた。


 魔獣のゴーレム、トロル等を倒しながら進み、結局迷うことなく24層に降りる階段を見つけて下に降りていく。


 24層も同じ洞窟だが感じる気配はほとんどがランクSだ。


 クズハを肩に乗せて通路を進んでいると、今までのフロアにはなかった部屋が通路の左右に現れだした。どれもドアは無く、中は無人であったり、魔物が潜んでいたりしているがそれらを倒しながら進んでいくカイ。


 25層も同じ様な造りだがランクSが複数体固まっている。左右に持っている村雨と不動を払って敵を一撃で倒しながら進んでいると通路の前方から今までとは違う気配を感じたカイ。


 気配は通路の小部屋から来ている。クズハも気配を感じ取ったのか強化魔法を掛け直すとカイの肩から降りて後ろに回った。


 通路にいるランクSの雑魚を倒して進むと扉のない小部屋の様な部屋に大型のトロルが1体部屋の中に立っている。


「山の上にいたオークよりも弱いな」


 部屋に入ると同時にトロルが持っていた斧を振り回してカイに突っ込んできた。その動きをあっさり交わすと両手に持っている片手刀を2振りしてトロルの腹に大きな傷をつける。腹を裂かれたトロルが大声を上げて再び遅いかかってくるがカイから見ればの動きは緩慢で振り下ろされた斧を交わすとそのまま斧を持っている手を切り落とし、もう1本の刀で首を撥ねた。


「大した敵ではなかったよ」


 トロルを倒すと肩に乗ってきたクズハ。トロルを倒した後に宝箱が現れそれを開けると金貨と武器の斧が入っていた。それらをアイテムボックスに入れて再び通路を歩き出す。


 身体能力の高さに加え、バンダナ、腕輪で戦闘能力がアップしているカイ。防具は軽くで動きやすく素早さがさらに上昇したカイにとってはランクSSですら相手にならない雑魚レベルに成り下がっていた。



 そのまま25層をクリアして26層に降りていくと、そこは今までの洞窟のフロアでは無く鉱山の採掘場の様な広い空間になっていた。


 底が見えない様な深さの大きな穴があり、その穴の上に木の板とロープでできている吊り橋が多数かかっている。そしてその吊り橋の上にはランクSの魔獣が闊歩しているのが見えている。


「あの吊り橋を渡って向こう側に行かないといけないってことだな」


 穴は広くて底ばかりではなく反対側も見えない。おそらく渡る吊り橋を間違えると反対側にあるだろう下に降りる階段に行けない様になっているのだろう。


 一旦地上に戻ってしっかりと休み、疲れを取ると翌朝カイは26層に飛んできた。


 クズハの強化魔法をもらうと吊り橋を歩き始めるカイ。吊り橋は不安定で歩くたびにぎしぎしと音を立てて吊り橋が左右に揺れる。


 カイは抜群の身体能力で左右に揺れる吊り橋の上を地上を歩くのと同じ速度で進んでいくとランクSのオーガが3体唸り声を上げて向かってきた。3体が吊り橋を歩くと今まで以上に大きく吊り橋が揺れるがカイは全く動じず、近づいてくる3体に『氷の舞』の魔術を唱え、固まって動きが止まったオークを刀で倒す。


 頭と胴体が2分されたオークは次々と吊り橋の上から底無しの穴に落ちていった。


 その後も次々と魔獣がカイに襲いかかってくる。ランクSの狼は吊り橋の上でジャンプをしてカイに飛びかかってきたが日本刀で綺麗に切断すると2つに分かれた胴体が穴の底に落ちていく。


 絶え間なく襲ってくるランクSの魔獣を刀と魔術で倒しながら吊り橋を進むカイ。吊り橋の分岐では気配を探って右へ左へと歩いていく。


 休息ができる安全地帯もない吊り橋の上を進むこと3時間、数えきれない程のランクSの魔獣を倒したカイの目の前にようやく下に降りる階段が目に入ってきた。


 27層に降りるとそこは26層と同じ空間が広がっていた。しかもフロア全体に濃い霧がかかっていて視界が数メートルしかない。普通なら極めて難易度の高いフロアだと感じるだろうが、クズハの強化魔法をもらったカイにとっては視界の良し悪しは関係無かった。


「クズハ、離れるなよ」


 尻尾を振って応えるクズハ。そうして目の前の吊り橋に足を乗せて進み始めるとすぐに前方から魔獣が3体並んで襲ってきた。抜刀していた刀で次々と倒して前に進んでいくカイとクズハ。


 猿の魔獣が集団で吊り橋のロープを伝って上から降りてきた。十分に引きつけてから不動を横に一閃して倒し、続いて村雨を一閃する。両手に持った日本刀の動きが見えない程の速さで動き、その度に魔獣が悲鳴を上げて穴の底に落ちていった。


 そうして進んでいると背後に気配を感じて刀を振るカイ。背後から忍びよっていた魔獣の体が綺麗に2分される。


「背後から近づいてきても同じだよな」


 吊り橋の分岐では気配を感知しながら左、右、正面と進んでいくカイ。その間にも絶え間なく魔獣の攻撃は続くがバランスの悪い吊り橋の上にいないかの様な脅威的な身体能力で魔獣を倒していくカイ。

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