第52話 キアナ
エルフの森を出たカイはクズハを肩に乗せて森を進み結果を抜けると再びハスリアを南北に横断している街道に出た。そうして野営をしながらそのまま南み、途中のT字になっている街道の突き当たりを左(東)方面に向かう。T字路を右(西)に向かうとそのままローデシアとの国境につながっている。
T字路を東に歩き出して5日目、キアナの街が見えてきた。
城門から市内に入るとそのままギルドに顔を出すカイ。
「おかえりなさい」
キアナでの秘書をしているスーザンの声に迎えられ、そのまま奥のギルマスの部屋に案内されると、ギルマスのキンバリーが執務机からソファに移動してきてカイと握手をしてソファに座るや否や、
「長かったな、収穫はあったか?」
「刀は見つからなかったがそれなりに収穫はあったよ」
そうして王都から北にある山の攻略の話をする。
「なるほど。結局普通のダンジョンのボスクラスだと持っていない可能性が大きいということか」
「そうなる。ある程度絞り込みができただけでも王都方面に出向いた甲斐があった」
「それにしてもランクSSかそれ以上のNM2体を倒すとはな」
「まぁ倒す順番を間違えなければそう難しいことはない」
あっさりと言うカイに、
「そりゃお前だから言えるのさ。普通ならあっという間に全滅だよ。それでこれからどうするんだ?」
「いろいろ調べるとレベルの高いダンジョンはやはりここキアナ周辺と、あとは港町フェスに2箇所程あるらしいのでそれに挑戦するつもりだ。そしてダメながら他国に出向いてみる」
「わかった。基本行動は自由だができればスーザンには予定を告げてから行動してもらうとありがたい」
「それは大丈夫だ。そうそう、一度アマミに顔を出してくるつもりだ。いい素材が入ったので防具を作ってもらおうと思って」
「わかった」
ギルマスとの話を終えて受付に戻ると中途半端な時間だったせいか受付前も酒場も閑散としていて知り合いがいなかったのでカイはまずはエルフの店に顔を出した。
「おや、久しぶりだね」
コロアに勧められるままに椅子に座るとお茶を出してくるコロア。クズハはカイの腹の上でゴロンと横になっている。
カイはお茶を飲みながら王都から北の山、そしてエルフの森への訪問など一連の話を彼女に報告していく。黙ってきいていたコロアはカイの話しが終わると、
「ブレアも元気そうみたいでよかったよ。彼女とは幼なじみでね。今でもやりとりをしている仲なのさ」
お茶のおかわりを入れながらコロアの言葉に頷くカイ。
「その北の山の上の強いNMからでもカイが探している刀は出なかったのか。となると相当強い敵じゃないと無理だろうね」
「そうだな。それなりの業物の刀は出たんだけど探していたのではなかった。これからはダンジョンを絞り込んで探索するつもりだ」
「それしかないのぉ」
「ところでこれが山の上のNMから出たんだが鑑定してもらえるかい?」
カイはテーブルの上に山の宝箱から入手したアイテムを置いていく。
バンダナ、腕輪、そして鱗を置いた瞬間にコロアの目の色が変わった。
「カイ、あんたそれ、まさか…」
鱗にきつい視線を送りながら呟くコロア。
「ああ、ドラゴンの鱗らしい。ギルドに持ち込んだら希少価値すぎて値がつけられないと言われたよ。他言無用にしないと貴族や商人から買い取りを持ち込まれるって聞いた。コロアなら無闇に人に言わないだろうと思ってさ」
カイはこれを入手した経緯も説明する。
「手にとってもいいかい?」
カイが頷くと、大きな3枚の鱗を交互に手にとってじっくりと見るコロア。
「本物だよ、これは。私も初めて見たよ」
そうして鱗から顔を上げてカイを見ると、
「確かにこの鱗は値段がつけられない物だろう。希少すぎる。貴族や商人に見せたら1枚で白金貨100枚だしても惜しくないというのがおるかもしれん」
(白金貨1枚=金貨1,000枚)
「そんなに価値のあるものなのか?」
「ああ。この世界ではドラゴンは霊峰に住んでいる伝説の生き物だ。その伝説のドラゴンの鱗だよ。大陸中の好事家にとったら垂涎のアイテムだね」
コロアの説明を聞いてなるほどど頷くカイ。
「それで今度は素材として鑑定をすると、この鱗はね強くてしなやかだ。物理の攻撃に対して強く、しなやかというのは脆くないということだ。魔法防御力も極めて高い。これで防具を作るとほとんどの攻撃や魔法を無効化できるだろう」
コロアの説明を聞いていたカイはそこで手を上げて話を止める。
「ちょっと待ってくれよ。今の話を聞いているとこの鱗に覆われているドラゴンはとてつもなく強くてとてもじゃないが俺達に倒すことができないNMってことかい?」
「そうなるね」
あっさりというコロア。そうして説明を続ける。
「私も今初めて鑑定しているからね。思いつくままに話をするよ」
そい言って話を続けたコロアの説明ををまとめると、
物理、魔法の両方の防御力が極めて高い。今まで長い間見てきた素材よりも何十倍も高い防御力を持っている。
強くてしなやかな上に加工が楽で、そして加工した製品でも品質は変化しない。
熱に強くそして保温効果もある。灼熱でも極寒の地でもこの鱗に覆われていると中は常に常温状態を保つことができる。
説明を終えたコロアは大きなため息を1つつくと、
「ここまで凄い素材は初めてみたよ」
「じゃあこれで防具を作ると大抵の敵に対しては効果があるな」
「大抵の敵というかドラゴン以外の敵の攻撃はほぼ無傷となるだろうね」
その後鱗以外のバンダナ、腕輪共に今カイが装備しているものよりずっと強力だという説明を受けたカイはその場でバンダナと怪力の腕輪を新しいものの装備し直した。
「その鱗は防具として作るつもりかい?」
「ああ。アマミの職人に渡して自分の防具として作ってもらおうと思う」
カイの言葉に頷き、
「それがいいだろう。鱗のままで置いておくには素材として勿体なさすぎるよ」
「それにしてもこの鱗を身につけているドラゴンってのは相当厄介な敵になるな」
「霊峰から出ないと言われているのが救いだね。こんなのが大陸中を飛び回ったら我々なんてあっという間に全滅させられてしまうよ」
そうしてコロアに詳しい説明を聞いたカイは鑑定のお礼の金貨を手渡して店を出て宿に戻っていった。
「おかえり」
フロントにいたアニルバンが挨拶をすると、挨拶を返しそのままフロント横にある談話テーブルに移動してそこでジムの手紙を渡し、そうしてキアナを出てからの行動を全て詳しくアニルバンに説明する。途中からはジムにもらった地図をテーブルに広げて説明していくカイ。クズハは例によってカイの腹の上でゴロンと横になっている。
長いカイの話をじっと聞いていたアニルバン。カイの話が終わると、
「カイの探しているもう1本の刀は相当レベルの高い魔物か魔獣を倒さないと出ない様だな」
「その通りです。ただそれが確認できたのでこれからの探索の方向性が大きく狭まりました。それはよかったと思っています」
「そうは言ってもそれが大変な事なのだがな」
カイとアニルバンが談話テーブルで長時間話をしているとフロントの奥から落ち着いた綺麗な女性がジュースを持って出てきた。アニルバンが女房だと紹介するとその女性は挨拶をしてすぐに奥に下がっていった。
アニルバンははにかんだ顔をして、
「彼女は元教会に勤務していたんだよ。私のわがままを聞いてくれる素晴らしい人さ」
それだけ言うと再び真面目な顔になり、
「高ランクの敵となるとやはりカイの活動はこのキアナがベースになるだろう。この前も言ったが今の部屋はカイの物だ。キアナにいる、いないに関わらずずっと使ってくれて構わない」
「かたじけない。助かります」
「今のカイの話を聞いていると北の山でランクS以上のクラスのNM2体を同時に倒したりしているよな。この旅館に最初にきた時はランクSSクラスだと思っていたが今の話を聞く限りだとカイのランクは実質ランクSSSクラスかそれ以上になっていると言える。自信を持ってやりたいことをすれば良い」
「ありがとうございます。ランクには興味はありませんが、強い敵と対峙すると自分が強くなれるのは実感できるので引き続き精進します」
カイの言葉に微笑みながら頷くアニルバン。
ジムからの手紙の中にも 「アニルバンの言う通りだった。これほどの戦士は初めてだ。肉体的にも精神的にも超一流のシノビだ」 と書いてあった。
アニルバンの目の前に座っているシノビは精悍な顔つきはしているものの外見はどちらかと言えば華奢に見える。ただよく見ればその身体にはほとんど贅肉がなく、鍛え抜かれた筋肉でできている身体だというのがわかるだろう。普通に座っている様に見えて実は常に周囲を警戒し、すぐに対応できる様にいつも準備している姿はまず普通の者では気づかないだろうが、逆に言うとそれに気づく者からみればカイはとてつもなく強いという印象を受ける。
「これからはどうするつもりかな?」
「一旦アマミに帰ります。そしてまたキアナに戻ってきます。それからはここをベースに周辺のダンジョンそしてフェスにも足を伸ばしてダンジョンを攻略するつもりです」
カイの言葉に頷くアニルバン。
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