第53話 アマミにて

 その日は宿の部屋でゆっくりと旅の疲れを取り、翌朝旅館の庭での鍛錬を終えるとカイとクズハはギルドに顔を出した。


 そして専属秘書の様になっているスーザンにアマミに戻るのでしばらく不在にすると言うとその足でキアナを出て故郷のアマミに足を向ける。


 明日アマミに着くという前の日の夜、例によってクズハの姿が消え、カイは1人で翌日の昼前にアマミに戻ってきた。


「おかえり、カイ」


「ただいま」


 自分の家に戻ってユズに挨拶をすると、しばらくしてクルスも外から戻ってきた。カイは2人を前に旅の話をする。そうしてアイテムボックスから鱗と刀を取り出して両親の前に置くと、


「鱗はリンドウ兄さんに渡して防具を作ってもらおうと思っています。そしてこの刀には不動という銘が彫ってありました。キク殿にお見せしてからこの刀も祠に奉納しようと思っています」


「んむ。それがいいだろう。キク殿のところには私とユズも一緒に行こう。そして奉納するのであればそのまま祠に行くといいだろう」


 父親のクルスの言葉に頷くとカイはまずリンドウの家を訪れた。


「帰ってきたのね、おかえり」


 アカネが顔を出してカイを見つけるとそのまま家にあげる。


「リンドウ兄さんは?」


「仕事場にいるけど呼んだからすぐにくるわよ」


 アカネの出したお茶を飲んでいるとリンドウが作業場から戻ってきた。


「よう。おかえり」


「ただいま」


 2人に挨拶するとカイはドラゴンの鱗3枚を取り出して2人の前に置き、そうしてこの鱗の入手の経緯とエルフのコロアから聞いたこの鱗の性能について話をした。


「凄い素材が手に入ったな」


 話を終えると鱗を手に取ったリンドウが声を絞りだす。隣のアカネも


「初めてね、こんな素材」


「それでリンドウ兄さん、この鱗を使って防具を作って貰いたいんだ」


 できるかな?とは聞かない。目の前にいるリンドウがその道では超一流の職人でずば抜けた技量を持っていることはカイは重々承知しているからだ。


 手に持っていたドラゴンの鱗をじっと見ていたリンドウは顔を上げてカイを見ると、


「任せとけ、これを使ってカイの最高の防具を作ってやろう」


「お願いします」


 隣からアカネがリンドウに、


「2つとない素材よ。カイのためにしっかりと作ってあげて」


「わかってるって」


 早速仕事に入るというリンドウに頭を下げてカイは一旦自分の家に戻り、今度はクルスとユズの3人で祠の麓にあるキクの家を訪れた。


「久しぶりだね、カイ。クルスとユズも元気そうで何より」


「キク殿も変わらぬご様子、お喜び申し上げます」


 クルスが挨拶をするとカイがアイテムボックスから刀を取り出してキクに見せ、


「正宗ではありませんがなかなかの業物の日本刀が出ました。不動と銘打ってあります。これも祠に奉納したいと思いまして参りました」


 刀を手に取ったキク。刀を鞘から抜いてその刀身をじっと見て、


「確かになかなかの業物だね。滅多に出ない刀が出たんだ。カイの言う通り白狼様の祠に奉納するのがよいだろうね」


 そうしてキク、カイ、クルス、ユズの4人で山の祠にお参りをする。


 階段を上りきって綺麗に掃除されている社の中にある祠の前にカイから預かった不動を置くとキクが祠に向かって祝詞を捧げていく。


 キクが祝詞をあげている間カイ、クルス、ユズの3人はずっと頭を下げて祈っていた。そうして祝詞が終わって3人が大きく祠に向かって頭を下げた時、祠が光り、目の前にアマミの守神であるフェンリル、白狼が姿を現した。


 その場で跪いて頭を下げる3人。


『頭をあげよ』


 その言葉で頭を上げると奉納した不動の前にいたフェンリルが3人を見て、


『カイ。刀を探す探求の旅。辛いだろうが泣き言を言わずに大陸のあちこちを移動しておるな。見事であるぞ』


「ありがたきお言葉」


 脳内に響くフェンリルの言葉に礼を言うカイ。


『キクが奉納したこの不動だが。正宗程ではないものの相当の力を持った日本刀である。これを見つけてきたカイ、礼を言うぞ』


 再び頭を下げるカイ。


『クルス、それにユズ。2人が育てたカイは立派なシノビになっておる。アマミ始まって以来の最強のシノビだ。これもお前達2人の教育の賜物だ。見事であるぞ』


 フェンリルから直接声をかけられ、クルスもユズも頭を地面につけんばかりにしている。


『カイ。この刀はお前がこれから持つと良いだろう。今持っておる村雨と金糸雀をここに出すが良い』


 言われるままに不動の隣に村雨と金糸雀を置くと、


『不動は小太刀ではない。だがカイなら使いこなせるだろう。これからは村雨と不動の2本の刀の二刀流でやるがよい。その方が強くなれるぞ』


 そう言うと目の前にある3本の日本刀が光輝いて…光が消えると金糸雀は無く、そこには村雨と不動の2本の刀が残っていた。


『我の力を注いでおいた。カイなら充分に使いこなせる。この2本で引き続き正宗を探す旅を続けるのだ、期待しておるぞ』


 そうしてフェンリルの姿が消えた。


「ほんにカイは白狼様に好かれておるのぉ」


 不動と村雨を装備したカイにキクが話しかける。カイは父親のクルスを見ると、


「白狼様の仰る通りだ。並のシノビだと使いきれないがカイなら小太刀ではなく普通の刀の二刀流も問題ないだろう。やることに変わりはないぞ」


「わかりました」


 そうして最後に3人で祠に深く頭を下げると麓に降りていった。


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