第50話 ドラゴンの鱗
ギルマスが納得していると査定を終えた職員が部屋に戻ってきた。
「この杖と斧はどちらも良品ですそれぞれ金貨100枚、合計200枚で買取ます。それからバンダナは素早さを上げるアイテム。腕輪は怪力の腕輪。どちらもおそらく今カイさんが装備しているものより優秀です。NMの魔石もランクSSなので1個につき金貨100枚で引き取ります」
そこで言葉を切ると、
「最後にこの鱗ですが、ドラゴンの鱗でした」
職員のその言葉にびっくりするギルマスとカイ。
「霊峰にいるドラゴンの鱗があの山の上にあったのか?」
ギルマスが思わず声を上げる。
「おそらくですが、ドラゴンが飛翔している際に落ちたのを持っていたのではないかと。その価値については残念ながらあまりに希少価値が高すぎてギルドでは値が付けられません」
淡々と説明をする職員。
「わかった。鱗は俺が持っておく、それと魔石と杖と斧はギルド売りで。バンダナと腕輪も俺が使うことにするよ」
「そうなると金貨400枚ですね」
職員はカイに金貨を渡すと斧と杖を持って部屋から出ていった。
「カイ、ドラゴンの鱗のことは誰にも言わない方が良いぞ」
「もとよりそのつもりだ」
ギルマスの忠告に頷くカイ。幻のドラゴンの鱗を持っているという話が広まると貴族や金持ちの商人からの半端ないアプローチが来るのは明白で。懇願、脅しなどで面倒になるだろうとカイも理解していた。ギルドの職員は守秘義務があるから問題はないだろうが、それでもギルマスは後でもう一度職員には釘を刺しておくと言う。
鱗やアイテムをアイテムボックスに戻すカイを見ながら、
「すぐにキアナに戻るのか?」
「王城のイレーヌに話をしてからになるから明日か明後日には王都を出るよ」
「わかった。また王都に来る時は顔を出してくれよ」
立ち上がったカイはギルマスと握手をするとギルドの応接を出て受付のある場所に戻っていった。カウンターに座っていた受付嬢に、
「明日か明後日にキアナに戻る。王都では世話になった」
そう挨拶をするとギルドを出て王城に足を向けた。
「そうか。キアナに戻るのか」
王城内にある王都守備隊の鍛錬場でイレーヌに会うとこれからの予定を話するカイ。
「教えることは教えた。イレーヌならもう大丈夫だろう。既に大剣を持っていた時よりもずっと強くなっている。俺が保証する」
「そう言って貰えるのは嬉しいが、もう少しカイと鍛錬したかったがな」
「もう2度と王都にこない訳じゃない。来た時はまたここに寄らせてもらうよ」
その言葉でイレーヌの顔がパッと明るくなる。
「必ずだぞ」
そうしてイレーヌと手合わせをするカイ。イレーヌは日々訓練していた様で今や片手剣の二刀流を完全に自分の物にしている。
「今の感じだ。今日のこの感じならもう教えることはないよ。後は日々鍛錬してくれたらいい」
「わかった。ただカイは私の二刀流の師匠だからな。弟子の様子は定期的に見にきてもらわないとな」
「わかった。必ず顔を出す」
最後に握手をしてそのまま守備隊の詰所を出ていくカイ。その後ろ姿を見ながらイレーヌは、
(結局一度もカイを本気モードにさせることができなかった。まだまだ鍛錬を続けないと。カイ、二刀流の師匠として引き続き頼む)
王城を出たカイはその夜にジムの酒場に顔を出して明日キアナに向かうことを報告する。
「悪いがエステバンにこの手紙を渡してくれるか」
「お安い御用だ」
手紙をアイテムボックスに収納するとカウンターに置かれた薄めの酒を飲む。
「ところで王都守備隊のイレーヌに二刀流を教えているって話だが本当か?」
「相変わらずの情報通だな。その通りだ。今日も手合わせしてきたが以前持っていた大剣の時よりも強くなってるぞ」
素直な感想をジムに言うとカウンターの内側でびっくりした表情になって
「本当かよ?そりゃ相当だな、大剣持って武道会に出ていた時もお前さん以外の奴は全く歯が立たなかったというのにその時以上の強さになっちまってるのか」
「天才というのはいる。イレーヌは間違いなく剣の天才だ。まだまだ伸びる」
「じゃあ今年の武道会はイレーヌのぶっちぎりの優勝になるか」
カイは顔を上げてジムを見ると、
「出たらそうなるだろう。ただ出ないかもしれないと言っている。今までは国王陛下に頼まれて出ていたそうだがそろそろ別の騎士が出ても良い頃だろうとな」
「となると今年は荒れそうだな。カイも出ないんだろう?」
「目的の刀の1本を手にしたからな。もう出る必要はない」
きっぱり言い切るとグラスの酒を口につける。
その後しばらく雑談をして、グラスの酒が無くなるとスツールから立ち上がって、
「いろいろと世話になった」
「こっちもな。ランクSと知り合えてよかったよ。また王都に来たら顔をだしてくれ」
ジムの言葉に片手をあげると肩にクズハを乗せたカイは店の扉を開けて真夜中の王都に消えていった。
「いろんな冒険者を見てきたが、あそこまで戦闘に特化した冒険者は初めてだ。流石のランクSだ、いやそれ以上だ」
ジムは閉まった店の扉に向かって1人呟いていた。
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