第42話 情報屋 その2

 自分の飲んだグラスをカウンターに置いてから言う。


「ほう。では何が?」


「王家のコインを見せてくれ。見るだけでいいんだ」


 王家のコインと聞いてカイの目が広がった。


「これは想像以上の情報屋だ。王家のコインをもらったことは一切誰にも言ってなかったんだが」


「それくらいの情報網がないとな。それで見せてくれるのか?」


 カイはアイテムボックスから王家のコインを取り出すとそれを無造作にカウンターに置いた。置かれたコインをじっと見るジム。


「王家のコイン。名前は何度も聞いてはいたが実物を見るのは初めて見たぜ」


 そうしてカイを見ると、


「手にとってもいいか?」


「構わない」


 あっさりとカイが手に持つことをOKしてびっくりするジム。カウンターに置かれた王家のコインを手に取るとじっくりと表と裏を見る。カーバンクルのクズハは王家のコインには見向きもせずにカイの肩の上で器用に横になっている。


「なるほど王家の紋章が表と裏にあるのか。金をたっぷりと使っているな。大きくて重い。さすがに王家のコインだ。これ1枚で下手な貴族の財産よりも高い価値がある」


 手にとってじっくりと見て、そして手の中でそのコインを弄ぶジム。カイは普段と同じ目でそれを見ている。


 たっぷりと鑑賞したジムはコインをカウンターに置いてカイに戻す。それをアイテムボックスに収納したカイ。ジムはその仕草を見て


「俺がコインを隠したり、逃げるとは思わなかったのか?」


「あんたの動きを見てそれはないと確信できた。それに万が一余計な動きをしようとしても十分にあんたの腕を切れる間合いだったしな」


 淡々と言うカイ。ジムは目の前のシノビが想像以上の達人だと見直していた。バカなことをしたらその瞬間に俺の腕は無くなっていただろう。目に見える殺気は全くなかったがこのシノビなら普通にやるだろう。数々の冒険者を見て来た目がそう告げている。殺気がない分余計に怖い。こいつに逆らうと命がない。


 アニルバンの手紙の最後の1文を思い出すジム。そこには、


『外見に惑わされるなよ。相当の使い手だ。ランクSSクラス以上の実力はある』 


と。


 ジムは背中に冷や汗をかきながら、


「なるほどアニルバンの見る目もしっかりしてるな、安心したぜ」


 強気にそう言うと


「じゃあ刀の情報だ」


「頼む」


「ただこれは今の時点で分かっている話だ。お前さんが刀を探してるってのは今日初めて聞いたからな。その前提を理解してくれ」


 もちろんだと頷くカイ。 


 そうしてジムが話だした。


 ジムによるとこの大陸3国の王家、貴族の中で刀を持っているのは唯一このハスリア王国の王家だけらしい。その理由が刀がアマミの武器でアマミを治めているのがハスリアだからなのかどうかはわからない。ローデシア、モンロビアの王家、貴族の中に刀を持っている奴がいるという話は聞いたことがない。


 又情報屋を初めて30年ほど経つがダンジョンの宝箱から刀が出たという話も聞いたことがない。


「つまりもう1本の刀はどこかのダンジョンの奥でまだ眠っているかあるいはどこかの強いNMが持っているか。例えば霊峰に住んでいるドラゴンとかだ」


 霊峰と聞いてカイの顔が曇る。


 霊峰とはハスリアとローデシアにまたがる北部山脈地帯一帯を指す。そこにはドラゴン族が住んでおり普段は自分たちのテリトリーから外に出ることはない。ドラゴンは最低でもランクSSS以上と言われており冒険者や軍隊が挑戦しても勝つのが不可能と言われ続けてきた。幸にドラゴンは自分たちのテリトリーから出てこないのでこちらから仕掛けけない限り問題ないという判断をし、長年に渡ってハスリア、ローデシアの両国とも霊峰エリアへの立ち入りを厳しく禁止している。


 噂だが、ドラゴンの中には人の言葉を理解するものもいるらしい。


 黙っているカイの心中を読んだジム


「霊峰なら厄介だな。あそこには誰も行くことができない」


「そうだな」


「まだ霊峰と決まったわけじゃない。他の地上のNMやダンジョンの中にある確率の方が高いぞ」


「確かに」


 今日初めてジムに刀の話をしてすぐに大陸中の貴族と王家の状況が聞けるとは思っていなかったカイ。ある程度探索の方向性が決まってきた、片っ端からダンジョン攻略だと考えていると、


「俺の方でもうちょっと探ってやる。いつ頃までいる予定だ?」


「せっかく王都まで来ている。3週間から1ヶ月程滞在して周辺のダンジョンにも挑戦するつもりだ」


 情報のためなら滞在の延長は何の問題もない。


「なるほど、キアナ周辺のダンジョンをソロで片っ端から制覇しているカイならこの辺のダンジョン攻略は何の問題もないだろう。こっちは2、3週間もありゃそこそこの情報が集まるだろう」


 自分の泊まっている宿の名前をジムに言って店を出たカイ。真夜中の王都の市内を旅館まで歩きながら明日以降の予定を考えていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る